藤本さきこの本喰族！！ 一人旅とは「自分と一緒に旅をすること」『美しいものを見に行くツアーひとり参加』益田ミリ／連載⑯

美しいものを見に行くツアーひとり参加

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　私にとって本は、食べて吸収し細胞にするもの。

　食べることと同じくらいを作っていく。

　食物が肉体のエネルギーを作るなら、書物は魂のエネルギーをつくる。

　ひとつだけ違うことは、魂には「お腹いっぱい」という感覚がないこと。

　お腹いっぱいにするために読むのではないのだ。

　この連載「本喰族」では、魂がピンときた本をどんどん喰っていきたいと思います♡

『美しいものを見に行くツアーひとり参加』益田ミリ

　40歳を機に急き立てられるように突然一人旅を決意。

「一度きりの人生なんだから、もっと美しいものを見ておきたい」とこれまで憧れていた景色、お祭り、食べたかったものをどんどん叶えていく。

　益田ミリさんの体験記は手書きのイラストや写真もたくさん、4コマ漫画もたくさん。

　読んでいてワクワク！ コロナ前のように気軽には行けないけれど、今すぐ旅に出たくなった。

　テレビや雑誌で見た、憧れの景色をいつかは見に行きたい、と思っても実際に行動できる人は少ないと思う。次々と夢を叶えるにはどうすればいいのか、ミリさんの秘訣が文中に書いてあった。

「えいっと予約」

　ミリさんの旅は「添乗員付きツアーに一人参加」するというスタイル。

　海外旅行に行く際のハードルは人それぞれだと思うが、私もミリさんと同じく、語学力が乏しく一人旅はハードルが高いと感じるタイプだ。かといって友人同士で行くのも気を遣う。

　疲れ切った旅の後はいつも、気を遣って疲れるなら「知らない人同士のツアーで一人参加」したほうが楽でいいかも、と私も思う。

　しかし、私がこれまで参加したことのあるツアーには、ご夫婦やご家族、友人同士、カップルがほとんどだった。一人参加の方もいたが、達観した雰囲気のご年配だったり、自由奔放そうなちょっと不思議なおじさんだったり。

　仲良くなるのも気が引けるし、かといって「一人で参加して寂しい思いをしたらどうしよう」とも思う。

　気楽さを取るか、寂しさを取るか…。

　ところが、ミリさんの本を読んでいると、それを上回る「一人参加の喜び」があるように感じた。旅先での夜、ホテルのベッドの上で愛しそうにミリさんが撮られた、お母様へのお土産の手袋の写真を見たら、「なんて幸せなんだろう！」と思った。

　一人旅というのは、「自分と一緒に旅をする」ことなんだな。

　ノートがあり、イラストがあり、写真がある。そこにずっと一緒にいるのは「自分」だ。

　そうか、自分が一緒にいたか！

　他人とのおしゃべりに気を取られず、自分と一緒に世界を味わう。

　なんて幸せなんだろう。

　その幸福感が、ミリさんの本の写真やイラスト、メモから漂ってくる。

　自分と一緒に、ノートに感動を分かち合う。

　ホテルに戻った後は、体を休めながら一緒に思いを巡らせる。

　帰ってきてからも一緒に旅を振り返る。次はどこへ行こうか、と計画を立てる。

　ツアーだから、無事に辿り着けるか、現地での交通手段はどうするか、もし言葉が通じなかったら、などの心配は要らない。一人でも安心してお目当ての景色や食べ物に集中できる。

　ミリさんの一言がズキュンと私の胸を打った。

「おんなひとり、世界のどこへでも、ツアーがある限り行けるな」

　ああ、早く旅に行きたい。

　ここ数年、世界に蔓延するウイルスにより旅に出ることが叶わなくなった。

　今までこんなにも高いハードルはなかった。コロナが明けたら、私も「添乗員付きツアー」に「えいっ」と簡単に旅に出よう。

文＝藤本さきこ