本の世界がくれた、もうひとつの自分の居場所。『さがしもの』/佐藤日向の#砂糖図書館㊶

アニメ

公開日:2022/4/16

佐藤日向

 思い返せば、私の人生には常に本がそばにあったように思う。大型ショッピングモールに行けば必ず立ち寄るのは本屋だし、昔から本を選ぶ時間が好きだった。私が本を好きになれたこと自体が、もしかするとすごくラッキーなことなのかもしれない。

 今回紹介するのは、角田光代さんの『さがしもの』という、9編とひとつのエッセイからなる短編集だ。登場人物それぞれの、何の変哲もない日常を本と共に過ごす様子が、本作では描かれている。

 本作を一言で表すと”寄り添ってくれる作品”だと私は感じた。彼らと似たような経験があるわけではなく、共感するからという理由でもなく、ただ作中に登場する人々が、角田さんの文章によって今の私に寄り添ってくれるのだ。

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 友達を作るのが苦手だった私は、本が導いてくれる見たことのない景色や世界に魅了された。私は持続して本を読むタイプではなく、なんだか集中ができない時はページを全く捲れないし、逆に何か物語を読み続けたいという意欲に駆られる時もある。だからこそ、その時々で本からもらう感情は異なるのだと思う。

 各短編で違う登場人物の共通点は、昔読んでいた本を10年後に手に取ってみると、感じ方が全く違うというところだった。それはきっと、経験値や年齢の積み重ねが自分の本質を育ててくれるからだろう。同じ学校に通っていたとしても、部活や人間関係によって育ち方は変わるだろうし、人それぞれの個性がある。出会う本も、一種の経験と呼べるだろう。

 作中で特に印象的だったのが「私の思う不幸ってなんにもないことだな。笑うことも、泣くことも、舞い上がることも、落ち込むこともない、淡々とした毎日のくりかえしのこと。」という言葉だ。本という存在がそばにいてくれたから、様々な世界を覗き見て、読書をするたびにワクワクしていたし、本の世界はもうひとつの自分の居場所になっていた。

 自分の悪い部分が見えるたびに自意識過剰になっている自分にも、悪い部分を理解しているのにそのままでいる自分にも嫌気がさして、泣きたくなる。だが、そんな時に本を開くと、自分に少しだけ肯定的になれる気がする。本作の「初バレンタイン」という短編の登場人物は、考え方が私と特に似ていたように思う。

 もしかしたら、この考え方は私自身の性格じゃなくて年齢ゆえなのかもしれないし、私の経験によって生まれた考え方なのかもしれない。それでも、これから先の行動次第では、10年後の私はもっと自分を俯瞰して見られるかもしれない。そう考えるだけで、もっと沢山のことを吸収して、今よりもっと楽しい未来にしたいと思える。23歳のこのタイミングで本書を読めたのは、私にとって気づきを貰えるチャンスだったように思う。将来、お気に入りの本を沢山並べる本棚を作れるくらい、お気に入りの本をこれから見つけたいと思う。

さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月~2014年3月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして活動。卒業後、声優としての活動をスタート。主な代表作に『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』(暁山瑞希役)。2022年3月には、少女文學演劇(2)『王妃の帰還』(村上恵理菜役)に出演。