全員フリーランス!講談社から生まれた8人の小さな会社【星海社広報・築地教介さんインタビュー】

更新日:2015/2/28

高い意識が求められる全員“フリーランス”の職場

—働き方について質問させてください。メンバーは「社員」ではないんですよね?

 はい。個人を尊重し、自由度のある企画をスピードをもって実現させていくために、「フリーランスでの業務委託契約」を現時点では選択しています。いわゆる社員ではないリスク(雇用関係がないため、労基法の適用がなく、社会保険の加入、福利厚生などもないなど)も検討した上ですから、メンバー間に違和感はないですね。

—どういう体制になっているんですか?

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 編集者にはアシスタントエディター、エディター、シニアエディターという3ランクがあり、最初は概ねアシスタントエディターからスタートします。各自に、ペーパー、デジタル、イベントというすべての軸で企画を実現させなければいけないというハードルが課せられ、目標達成すればランクがひとつ上がっていきます。

—現在のメンバーはどういう経歴でしょうか?

 副社長の太田を除く4名の編集者のうち、異業種(元・森ビル、元・リクルートメディアコミュニケーションズ *現在はリクルートコミュニケーションズ)からの転職が2名、編集経験者が1名、新卒が1名ですね。広報である僕も異業種からの転職組です。年齢は20代後半から30代前半が中心ですね。経営陣は意識して異業種を採用しているわけではないんでしょうが、まったく畑の違う人がくるとシナジー効果があって、面白いものが生まれやすいという意識があるようです。

「新卒」「中途」枠は設けない採用方針

—新卒もいるんですね。採用活動をされたんですか?

 これまでは年1回から2回くらい採用活動をしていて、年齢も職歴も不問で、学生が応募して来てもいいとしてはいます。とはいえそういう条件で募集をしている割には、副社長がtwitter上で。「新卒にはあわない会社、どこかでトレーニングしてからのほうがいい会社だ」とも発信していて、どっちなんでしょう?という感じです(笑)。僕個人としてはやはり学卒でいきなりフリーランスの中で働くというのは、組織として固まっているわけではないですし、その人の先々の成長やリスクを考える上では、あまりオススメはできないかな、と。

—たしかに、フリーランス同士には教育義務などがあるわけではないですものね

 そうなんです。基本的には先輩格についてアシスタントをしていますが、最終的には自主性に任せられています。最年少のアシスタントエディターもかなり苦労はしていますが、マイペースにやっていますね。僕自身、大きな組織からの転職だったので、当初は組織の雰囲気の違いにギャップを感じました。たとえば誰かが明らかに困っている状況にあっても、あまりアドバイスをしなかったりする。考えてみればフリーランス同士ですから、自分で高い意識を持っていなければ助けてもらえないわけで、そういう厳しい環境であることは間違いないですね。しかし集まっているメンバーは会社のミッションなりビジョンなりに共感している個の集まりでもあって、今後はチーム力というのをあげて、フリーランスであっても連携していこうというのが課題でもあります。

—そういう環境において、メンバーは共通の「星海社らしさ」を捉えていますか?

 スピード感があって自由という認識は共通していると思います。自分がやりたいことについて、デジタル、小説・漫画・新書・イベントなど、アウトプットとして何が適しているかを考え、企画が通ればそれがなんであれ自由という面とか。メンバーはみんな、何か風穴をあけてやろう、という野心があってギラギラしていますね。逆にそれがないとうちの会社にいても意味がないのかもしれません。

出版業界へは他業界から「転職」の道もある!

—築地さんは、以前は凸版印刷にいたそうですね

 はい。13年間出版社担当の営業をして36歳で転職しました。もともと新卒の頃は出版社への就職を希望していたのですが、営業の仕事の中で多くの編集者の方と接していくうちに、出版の面白みをますます感じるようになり、中に入って仕事をしたいという気持ちが膨らんで決断しました。

—大企業からのジャンプですが、迷いはなかったですか?

 自分の中にもやもやしたものがあって、40代になると体力も周囲の環境もチャレンジすることが難しくなるだろうから、やるなら今だと思いました。収入が下がっても、会社にたよらずに、自分自身が社会に評価されるようになれば、会社がなくなっても食い扶持はあるだろう。自分自身を商品化することを目指していけば、最終的にはプラスになるだろうと。

面接は好きな本10冊のプレゼンだった

—出版業界志望への強い意志があったら「転職」も選択のひとつですね。採用までの道のりはどんな形だったのですか?

 広報担当ということで応募したんですが、実は僕の場合、最初に星海社を受けたときには落ちているんですよ。その後、知り合いを通じて連絡を頂き、まだ受ける気があるならこないか、とお声掛け頂き、採用が決まりました。星海社の場合、毎回100 名程度の応募があるようです。採用手順は、書類選考を経て何度か面接を実施しますが、「好きな本を10冊もってきて、その10冊に対する自分の想いを語る」という課題がありました。僕は何も考えずに好きな本を持っていきましたが、他のメンバーは「子どもに読ませたい10冊」とかちゃんとテーマをもたせたようで。そういった想いを面接の場で聞きながら、波長があうかどうかも見ているんでしょうね。やはりある程度ベクトルがあっていないと、企画がすすまないですから。

—思い切って飛び込んでみて、正直、いかがですか?

 最初はフリーランスの集団というのがなんとなくしかわからなかったので、とんでもないところに来てしまったかなと(笑)。ただ、星海社のミニマムな組織にも魅力を感じていましたし、最近ではそこがますます楽しめるようになってきた感じです。人が見えないところで努力すれば、見えるところで伝わるというのがわかってきて、さらにやりがいも感じるようになってきましたね。

—星海社さんは業界でもかなり異色とは思いますが、出版社といっても社風は様々ですからね。探せば自分にあった会社が見つかるかもしれないですよね

 うちの場合はアクが強いので、合う人と合わない人は極端で、ハマれば強いという気がします。ただ、興味がある会社に出会ったら情報を積極的に取りにいかないとダメでしょう。うちもSNSでしか告知していませんし、小さい会社は公表している情報そのものが少ないですから。もし、気になる会社があれば、なんとかメンバーに会って話を聞いてみるとか、そういう行動力も必要だと思います。とにかく出版業界に入りたいという強い希望が自分の中にあるなら、絶対に動いてみたほうがいいと思いますね。

 大手とはひと味違う小出版社ならではの現実の一端が、少しは伝わっただろうか。フリーランスが主体という星海社は、現在の出版業界においてはかなりエッジィな存在だが、同時に日本にはまだまだ個性的な出版社があるということの証でもある。

 もし出版業界で働きたいと本気で思うなら、大手ばかりを狙わずに、幅広く情報収集してみてほしい。また、新卒採用がかなわなくても築地さんのように中途入社の道もあれば、今回の取材では取り上げていないが、編集プロダクションに入ったり、狙った編集部にアルバイトから入る道だってないことはない。一体、自分の夢を本当に実現するにはどうしたらいいのか、まずは自覚的に調べることから始めよう。自分の可能性を信じて、すすめ、就活生!

取材・文=荒井理恵

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