「カエル会議」で早く帰る! 残業削減で業績がUPする驚きの仕組みとは!?

ビジネス

公開日:2018/3/1

『労働時間革命 残業削減で業績向上! その仕組みが分かる』(小室淑恵/毎日新聞出版)

 皆さんは働くうえで一番大事にしていることは何だろうか。私は1年半前に転職をしたのだが、その際最も重要視したのが「ワーク・ライフバランス」だ。というのも、前職では長時間労働がたたって体調を崩し、こんな働き方ではあと2年ももたないと思い辞めたからだ。仕事は好きだが、やりがいや給料と長時間会社に拘束されないことを天秤にかけ、結局後者をとった。

 だが本当に、何か実りある仕事をしようとするならば、最優先に仕事を位置づけ、プライベートを犠牲にして長時間労働もいとわないようでなければならないのだろうか。2016年、安倍首相は「一億総活躍社会実現対話」で「働き方改革は安倍内閣の最大のチャレンジだ」とまで述べているが、現場レベルではパソコンやシステムの導入があるにせよ20年前と働き方や価値観はほぼ同じ、むしろスピードを以前にも増して求められるうえに人員削減によりさらなる長時間労働を強いられている、というところもあるのではないだろうか。

 社員の長時間労働のうえに成り立っている会社なり業界は今後立ち行かなくなる、それどころか日本経済がだめになる、と警鐘を鳴らすのが本書『労働時間革命 残業削減で業績向上! その仕組みが分かる』(小室淑恵/毎日新聞出版)だ。

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 本書の第1章のタイトルは「長時間労働は『勝つための手段』ではなく『負けている原因』」と強気だが、そういうだけの根拠がしっかりと示されている。そのひとつが「人口ボーナス期」と「人口オーナス期」だ。

 日本は1990年代半ばに、若年層が多い「人口ボーナス期」から、支えられる側が支える側より多くなってしまう「人口オーナス期」に転換した。このため、経済発展しやすいルールも以前とは違ってくる。人口ボーナス期では「なるべく男性が働く」「なるべく長時間働く」「なるべく同じ条件の人を揃える」方が有利だったが、人口オーナス期では「なるべく男女ともに働く」「なるべく短時間で働く」「なるべく違う条件の人を揃える」に変わる。なぜなら、労働人口の減少や介護のための時短など社会的背景が異なるからだ。

 では、どうすれば変えられるのか。長年続いた職場のルールや仕事のやり方を変えるのは並大抵ではない。著者は働き方改革のコンサルティングも行っているため、豊富な事例が紹介されている。その中から、さいたま市役所でのケースを紹介する。

 さいたま市役所では、以下の5つのステップを回しながら改革を進めていった。


1.現在の働き方を確認する(朝メール・夜メールを用いて)
2.業務の課題を抽出する
3.カエル会議で課題を話し合い、見直し施策を決める
4.働き方の見直し施策を実行する
5.定例会でコンサルタントとともに進捗を確認する

 1の朝メール・夜メールとは、自分の1日のスケジュールを15〜30分単位で組み立てて、朝のうちに上司・同僚にメールで送り、それが実際どうだったのかを夕方にふりかえった結果を送るというもの。その朝と夜のずれに着目すると「会議が長引く」「集中できる環境がない」などチームの課題が見えてくる。そうしたチームの課題をあぶり出し、解決策を考えるための会議が「カエル会議」だ。

 これを繰り返すことによって、業務の効率化や属人化の解消、組織力の強化が図られ、働き方の変革へとつながった。

 紹介事例は業種や事業規模も多岐にわたるが、中には愛知県警察本部の「刑事部門」など、時間管理は到底不可能と思われるようなものもある。

 これらの事例が示すのは、トップを含めた働く人の意識改革とチームワークで効率を上げるシステムづくりが重要である点だ。いずれも残業時間は減少したのに業績は伸びている。こうした取り組みは、育休取得者がキャリアをあきらめることなく管理職を目指すモチベーションを持てたり、独身社員は自己研鑽や婚活の時間を取れたりと、業績以外にもさまざまな効果があるとのことだ。

 組織での取り組みが難しい場合でも、第5章にひとりでもできる労働時間改革法が提案されているので一読いただきたい。ワーキングマザー、育児世代の男性、20代若手女性など、それぞれの立場に向けての具体的なアドバイスである。本章に「自分の人生の時間をどう使うのかを主体的に決めること、すなわち自分の人生を自分でハンドリングしている感覚は、人間の幸福の大きな条件だと思います」とあるが、まったく同感である。

 20年前とは時代が変化している。そしてその変化の波は大きくなりながら今後も続く。その変化に対応するためにも、働き方を見直し、生産性と幸福度をあげる改革が今すぐ必要なのだ。本書は職種や立場に関係なく働くすべての人に読んでもらいたい1冊だ。

文=高橋輝実