南沢奈央さんが選ぶ「クリスマスに贈りたい絵本」は聖なる夜にぴったりの奇跡のような一冊

文芸・カルチャー

公開日:2020/12/14

『からすのパンやさん』や『ぐりとぐら』など、大人にとっては懐かしいロングセラーの名作絵本や、不動の人気、ヨシタケシンスケさんの哲学的な絵本など…子どもも大人も楽しめる絵本作品が数多くある中、 ダ・ヴィンチニュースは、本の目利きのみなさんに贈りたい人を想定して「クリスマスに贈りたい絵本」を選書してもらいました。お家時間が増えた2020年、会えない遠くの大切の人や、友人、自分へのプレゼントに絵本を! まだお子さんのクリスマスプレゼントが決まっていないという親御さんの参考になれば幸いです。

 読売新聞読書委員をつとめるなど、大の読書家である南沢奈央さん。クリスマスにやさしい気持ちになれる一冊をご紹介いただきました。

自分にとって大切なおもちゃがある、あなたへ

南沢奈央

 贈る。もらう。クリスマスは、世の中にあらゆるプレゼントが溢れます。大人になってしまった私のもとにはもうサンタさんは来ないけれど、家族や友人から“何か”をもらう。するとそれが、自分の生活の一部になって存在していきます。贈ること、もらうことの意味を考えると、これって凄いこと。

 今度は逆に、そのものにとって自分はどんな存在なのか、と考えてみる。この絵本は、あるクリスマスに、くつ下の中に詰め込まれて贈られたビロードのうさぎの目線で、もらい主のぼうやを見つめるおはなし。ビロードのうさぎとぼうやの心の絆を描いた、聖なる夜にぴったりの奇跡のような一冊です。

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絵本『ビロードのうさぎ』の魅力は?

 私が大人になってから一番読んでいる絵本は、酒井駒子さんの作品。どの作品にも、子どもが楽しめるような愛らしさと、大人の琴線に触れるような繊細さがあります。

 この絵本では、そんな酒井さんが描き出す幻想的な世界と、100年近く前から読み継がれている英国の名作が美しく交わります。

「こころから たいせつに だいじにおもわれた おもちゃは ほんとうのものになる」。

 私は、子どもの頃にいつも一緒に寝ていた大好きなクマのぬいぐるみを思い出しました。

 大人になってすっかり忘れてしまっていた、懐かしい存在。それが蘇った瞬間、宝箱を開けたように、当時の感情が胸いっぱいに溢れてきて、ときめきのあと、切なさをも感じます。

 でも、何度読んでも涙がこみ上げてくる、この絵本のラストにあるのは、大切に宝箱に仕舞っておきたいような、あたたかな希望です。

舞台「アーリントン」〔ラブ・ストーリー〕に出演予定
2021/1/16~1/31 KAAT神奈川芸術劇場
【2021年1月16日(土)~31日(日)】「アーリントン」 〔ラブ・ストーリー〕|KAAT 神奈川芸術劇場