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夜明けの縁をさ迷う人々 (角川文庫 お 31-6)

夜明けの縁をさ迷う人々 (角川文庫 お 31-6)

夜明けの縁をさ迷う人々 (角川文庫 お 31-6)

作家
小川洋子
出版社
角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日
2010-06-25
ISBN
9784043410064
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夜明けの縁をさ迷う人々 (角川文庫 お 31-6) / 感想・レビュー

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ヴェネツィア

それぞれの素材そのものは日常の範疇に収まるのだが、それら相互が関係性の中に置かれた時、奇妙な逸脱が始まる。例えば、巻頭の「曲芸と野球」にしても、グラウンドで野球をすることは、きわめて日常的な光景なのだが、その片隅で曲芸師が時には瀕死のケガを覚悟しながら芸の稽古に励むとなると、そこに俄かにある種の歪みが生じて来るのだ。こうした、事物やあるいは登場人物相互の関係性の異和が、小川洋子に特有の物語世界を紡ぎだしてゆく。篇中では「銀山の狩猟小屋」のサンバカツギ、あるいは「涙売り」が怖さでは筆頭か。

2012/10/16

風眠

世の中の片隅で、ひっそりと生きていくこと。良くも悪くも執着し、自分で選びとった生き方を貫くこと。それは覚悟、だ。他者からは決して理解されなくても、ほんの少し病んでいたとしても。曲芸に一生を捧げた女、恋の果てに相手夫婦を手にかけた女、エレベーターで生まれ暮らし続けた男、訳あり物件の言い分、自分の体を切り刻み愛した男に涙を与え続けた女、死んでしまった大切な人との思い出だけで生きていく女、作家だった祖父が遺した作品になぞらえ官能を語る老女など、『夜明けの縁をさ迷う』ように、現実と夢のはざまに生きる人々の短篇集。

2016/08/20

ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中

他の方も仰っていたけどこの方の作品は完璧過ぎて、その世界に1ミリの無駄もなくて、ひと言でも足してしまうと余計な気がして感想が難しい。 淡々と起伏のない日常の世界が徐々に歪む、まさしく「夜明けの縁をさ迷う人々」の9つの短編。日常の美しさはそのまま、少しずつどこかが架け替えられていく歪みにうっそりと揺蕩う。どこまでも音のない原っぱにひっそりと天を支えるエレベーターのテスト棟。銀山の薄暮れに悲しく響くサンバカツギの鳴き声、身の痛みに効力を増す涙。こわい。いとしい。美しい。小川さんの作品はいつも心を静めてくれる。

2019/05/24

yumimiy

大発見!先日読んだ村上春樹氏の短編集と小川洋子氏のこの短編集、作風や奇譚度が似たレベル、まるで双子の話を同時に聞いているようだった。だが、よ~く吟味するとやはり洋子氏の方が、刹那的哀愁が深い。9話の中から「イービーのかなわぬ望み」がまさにそれ、中華料理店のエレベーターの中で出産、置き去りにされた男の子はE・Bと名付けられ店員や客から愛されたが、E・Bはエレベーターの中だけが安息の場、決して離れることはなかった。だが、老朽化したビルは解体されることに、果たしてE・Bの運命は…。「曲芸と野球」は相互尊重の精神

2023/03/27

速読おやじ

ひやりとするファンタジー短編がいくつか。エレベーターの中で生まれて、そこから一歩も外へ出ない「イービーのかなわぬ望み」、涙を流すことで楽器の音色を良くすることができる主人公が良い涙を出すためには痛みを伴うのが一番と気付く、そして最後に取った手段とは?「涙売り」、一つのプレーをきっかけに永遠と再試合が続く夏の高校野球決勝戦を描く「再試合」などは、不条理というかなぜそういうことが起きるのか?など一切の説明がなく物語は進行する。そういう、ひやりとする感覚が堪らない。

2021/12/18

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