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旅のつばくろ

旅のつばくろ

旅のつばくろ

作家
沢木耕太郎
出版社
新潮社
発売日
2020-04-22
ISBN
9784103275213
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「旅のつばくろ」のおすすめレビュー

大沢たかお×松嶋菜々子でドラマ化された『深夜特急』の著者・初の国内旅エッセイ。予定にはない自由気ままな選択がもたらす幸福

『旅のつばくろ』(沢木耕太郎/新潮社)

 80年代と90年代の日本における個人旅行の流行の一翼を担った紀行小説といえば、『深夜特急』(沢木耕太郎/新潮社)だ。私も20代半ばにこの本に出会い、バックパックを背負って東南アジアを旅した。寝台列車に揺られてマレー半島を南下したことは今も忘れない。

 若くて、お金はないけれど、時間だけはたっぷりあったあの頃。埃っぽい道端のカフェに腰をおろしてぼんやりと通り過ぎていく人々を眺めたり、安宿で言葉を交わした人に「どこそこはよかった」と聞けばふらりと出かけてみたりした。

 それから約20年が経ったいま、私はフリーライターとして国内外のあちこちを取材している。政府観光局や自治体などが主催するプレスツアーに参加し、観光地や宿泊施設をまわることも少なくない。好きな旅を仕事にできているのは幸運なことであるが、「記事化する」という目的があるので、「自由に、気ままに」というわけにはいかない。

 取材で行く旅はインプットが多く刺激的だが、心より頭が先に動いてしまう感覚がある。その反動なのか、“撮れ高”を気にすることなく、行きたいとこ…

2024/3/8

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『旅のつばくろ』(沢木耕太郎/新潮社)

*   *   *

近くても遠いところ

 私が東京の小学生だった昭和三十年代、家族旅行はあまり一般的なものではなかったように思う。家族そろっての行楽という習慣がなかったということもあるが、どんな家も経済的にさほどの余裕がなかったのだ。  だから、学校で行楽地に行くことのできる遠足は子供たちにとって大きなイベントだった。何円までという制約の中で、おやつにどの菓子を買って持っていくか。母親の作ってくれる弁当が何なのか。前日から多くの楽しみと期待に満ちていた。  そのようにして、私も東京近郊のさまざまな観光地に行ったものだった。  高尾山、江の島、鎌倉の大仏、鋸山(のこぎりやま)……。  しかし、不思議なことに、そうした観光地は成人してからほとんど行くことのないとこ…

2020/5/6

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『旅のつばくろ』(沢木耕太郎/新潮社)

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贅沢の効用

 そのとき、私にはとても珍しいことだったが、岩手の花巻でタクシーに乗っていた。  タクシーに乗るのがどうして珍しいことなのか?    私は浪費家でもないが、吝嗇家(りんしょくか)、すなわちケチというのでもないと思う。財布というものを持ったことのない私は、あればあるだけの金をポケットに突っ込み、ほとんど無造作に使い切ってしまう。要するに金の使い方に関してはかなり無頓着な方なのだ。  しかし、タクシーに使う金に関してだけは別である。臆病、と言ってもいい。  もっとも、つい最近まで、銀座や新宿の酒場で夜遅くまで飲み、家にタクシーで帰るなどということを日常的に続けていたが、そのときのタクシー代をもったいないと思ったことはない。…

2020/5/5

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旅のつばくろ / 感想・レビュー

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starbro

沢木 耕太郎は、永年に渡って新作をコンスタントに読んでいる作家です。本書は、JR東日本の新幹線車内誌「トランヴェール」に連載されていた旅のエッセイです。何作かはリアルタイムで新幹線の中で読んでいます。改めて纏めて読むと旅情をそそられます。著者程ではないですが、若い頃は旅と言うと海外ばかり行っていました。これからは著者同様国内に目を向けて、まずは47都道府県制覇(現状40都道府県)をしたいと思います。 https://www.shinchosha.co.jp/tsubakuro/

2020/10/05

fwhd8325

やっぱり、沢木さんはエッセイがいいなと思いました。ある時期、小説を書くようになり、どうもエッセイやルポとは違うものを感じて、作品から離れていましたが、やっぱり、エッセイはいいな。それも旅の話なら、間違いない。時に社会に警告を発し、過去の自分に語りかける。どれも心地よい世界を与えてくれるようです。

2020/11/22

Nao Funasoko

一夜に一篇ずつ、41篇を41夜かけて読了。 都内のあちらこちらや祖母が眠る鎌倉霊園や鶴岡八幡宮周辺などのように自分でも歩き知る街の情景を読むのは作家とレイヤーを重ねるような楽しさがあり、また、青森のようにいつか行ってみたいと願っている土地の話には背中を押される思いがある。そして、作中で幾度となく紹介される16歳の沢木青年の東北旅行についての記述はやはり作家生活の原点なのだろう。

2020/07/06

R

旅にまつわるエッセー集というか、沢木さんの思い出語りともいえる一冊だった。若い頃の旅の風景や心情を気取らない文章で記したものが多くて、読みやすいし心地よい。有名観光地にあまり縁がなかったといいつつも、そこに足を向けたときの楽しみ方、かなりの文学青年であった頃の思いとともに歩む道行きが面白く読めた。気負いと気取りがないので、読んで清清しいのがとてもよいと思えた一冊だった。

2021/04/27

ぶち

沢木さんの国内の旅を綴った旅エッセイ。JR車内誌の連載エッセイなのでそれぞれのエッセイはたいへん短いものですが、沢木さんの文章はすっきりとしていて品があって、心地よく読ませてくれます。短いエッセイであっても、私の胸に残るお話がたくさん。その中でも、野辺山の天文台の研究員が語った宇宙人との遭遇の話は、宇宙の広さと悠久の時を感じさせてくれながらもストンと胸に収まるお話で、いたく感心いたしました。沢木さんがある編集者が遺した句を載せています。その句がまたいいんです。「花吹雪 ごめんなすって 急ぎ旅」

2021/12/18

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