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希望のゆくえ

希望のゆくえ

希望のゆくえ

作家
寺地はるな
出版社
新潮社
発売日
2020-03-25
ISBN
9784103531913
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ジャンル

「希望のゆくえ」のおすすめレビュー

放火犯の疑いがある女と失踪した弟。真面目で律儀なはずの弟の真実の姿に、兄はたどり着けるのか──

『希望(きぼう)のゆくえ』(寺地はるな/新潮社)

 先日、ひさしぶりに父に会って驚いた。最近料理に凝っているそうで、スマートフォンでレシピを検索し、手際よく美味しい食事を作る。「そんな人だったっけ?」と思うのは、自分の中に「亭主関白な昭和の父親」というイメージがあったからだ。が、振り返れば、私は家事をしなかった昔の父に、「お父さんって亭主関白な人だよね?」などと確認したことはなく、勝手なイメージを抱いていただけだ。友人、同僚、周囲の誰にも、「本当はどんな人ですか?」とたずねたことはない。

 そんな事柄により深く向き合わざるを得なくなったのが、『希望(きぼう)のゆくえ』(寺地はるな/新潮社)の主人公・柳瀬誠実(やなせ・まさみ)だ。

 34歳の誠実は、妻とふたり、言いたいことを呑み込みながらもつつがなく暮らしている。そんなある日、誠実のもとに母からの電話が入った。弟の希望(のぞむ)が、仕事中に、ボヤ騒ぎを起こした女性とともに姿を消してしまったというのだ。「かけおちじゃないかって言われたのよ」。母は弟の失踪を、「古めかしすぎてむしろ滑稽にすら感じられる」…

2020/4/18

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希望のゆくえ / 感想・レビュー

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さてさて

『希望』とは、『明るい言葉のようでいて、じつはなにもたしかなことはない』ものです。そんな『希望』という名の男性と様々なかたちで接してきた人物たちの人生の苦悩が描かれたこの作品。一番身近な存在でもある兄の誠実がそんな弟を、弟というものの実像を探し求める様が描かれるこの作品。それは、そんな弟の姿を通して兄が未来への『希望』を探し求める物語だったのかもしれません。寺地さんのならではの人の心の機微を丁寧に写し取った描写の数々の中に、人生に苦悩する人たちの未来に『希望』の光がほのかに射すのを見た、そんな作品でした。

2021/12/08

いつでも母さん

寺地さんは時々兄弟姉妹・親子家族関係における『気付いてはいるが言葉にしない』あたりを抉るように突きつけるから厄介だ。読後感はスッキリしない。だが、人の心なんて例え同じ親から生まれた間柄だって、全てを分かり合えている訳はないのだ。あるのは自分が見て・感じてきた【一面】でしかない。それを関わった人の目にはどう映っていたかなんて、混乱するばかりじゃないかー希望という名の弟が失踪したことから兄・誠実は自分の内なる声と向き合うことになるのだが、この兄弟はきっと二人を縛っていたものから解放されたのだろうなぁ。

2020/04/25

ウッディ

管理していたマンションの女性とともに失踪した柳瀬希望(のぞむ)、兄の誠実(まさみ)は、弟の行方を捜すため、高校時代の彼女や仕事先の後輩と会い、彼らから見えている希望の姿と自分が見ていた弟の印象が違うことに気付き、探していたものが、弟の行方ではなく、弟の真の姿自分であることを知る。誰からの頼みも断らず、空っぽの容器のよう、 相手が望むように振る舞う希望の生き方がどこか寂しげで、得体がしれない印象だった。希望のゆくえがどうなったのか、タイトルの意味を読者にゆだねる結末は、スッキリとしない余韻だけが残った。

2020/09/12

❁かな❁

突然失踪した弟の希望(のぞむ)。兄の誠実(まさみ)は放火犯かも知れない女性と姿を消した弟を探すことに。希望を知る人達から話を聞く度に異なっていく弟の印象。人によって見方が違うし、一概に良い人、悪い人では括ることができない。印象違うのは仕方ないだろう。毒親や事勿れ主義だったり、心の中で人を見下していたり嫌な人物が多いけどすごくリアル。歪んだ親子関係、夫婦や人間関係の難しさなど描かれる。実像とはなんだろう。人はそんなにも正しく自分の実像を捉えられていないんじゃないかな。胸が痛むけど寺地さんの新境地も良かった。

2020/07/04

とろとろ

突然、「希望」という名の弟が失踪する。その弟を兄が探す。兄の今の境遇や、一緒に失跡した女性のこと、弟の同僚やその恋人のことなど、次々と語り手が変わっていく。最後に主人公の語りで終わるのかと思ったが無かった。兄が育った体験を通して弟を語っているのが唯一の手がかりだが存在感が薄い、薄くて霧のような存在。最後までその霧のようにモヤモヤでスッキリしなかった。最近読んだ「夜が暗いとはかぎらない」を読み、この作家さんはホワッとした話ばかりなんだと思っていたが今回は全く印象が違う。これは新しい境地の本なのかと思う。

2020/06/25

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