遠い声、遠い部屋
遠い声、遠い部屋 / 感想・レビュー
starbro
私はハルキストでも村上主義者でもありませんが、村上春樹の新作は小説も翻訳物もコンスタントに読んでいます。村上春樹が新訳のトルーマン・カポーティの処女作は、初読です。本書は、半分私小説で純文学的作品のせいか、アメリカ文学界に衝撃を与えた記念碑的デビュー作という程は、響きませんでした。 https://www.shinchosha.co.jp/book/501409/
2023/08/18
buchipanda3
始まりは少年が未知の土地へ踏み入れようとする現実的な世界。それが新たなキャラが登場するごとに著者の豊かな感受性が窺える描写が浸食してきて、気が付けば風変わりな世界へ迷い込んでいた。でもそれがむしろ偽りのない世界を描いているようで何か良い。どの人物からも著者の影が見えた。不在な父親への思い、遠い雪景色への憧れ、他者と違う自分への戸惑い。それらをジョエルの未熟な心は物語のような虚言で補おうとする。でもそれはズーが言うように大した嘘であり、彼は素直な心を残した。やがて大人な声が彼を見つける。無垢な詩性を携えて。
2023/09/05
アキ
原題"Other Voices, Other Rooms" 1947年トルーマン・カポーテイ23歳時の最初の長編小説。最初の一文「旅行者はヌーン・シティに行くうまい方法をなんとか自力で見つけなくてはならない。というのは、その方角に向かうバスも列車も存在しないからだ。」アメリカのどこにも存在しない街で、13歳の主人公ジョエル・ノックスの自分自身のルーツを探す旅に迷い込んだ感じ。どの登場人物も個性的で、文章も装飾的で、読むのに時間がかかった。著者の内面を写した著作。村上春樹の訳本はいつも解説を読むのが楽しみ。
2023/10/09
藤月はな(灯れ松明の火)
再読。時が止まったようなヌーンシティに行くには公共機関ではなく、ヒッチハイクか、街に物資を届けに行くトラックに載せていってもらうしかない。そんな街に住む見知らぬ父親に会いに行くジョエル。そこで彼は残酷な世界、そこでしか居場所を見出せないからこその味わう人生の苦み、それでも生きていくために付く嘘を思い知らされる。それは同時に少年時代の終わりを告げていた。どこにでも行けると思っていたのに生きる事に擦り切れていく内にいつの間にか「ここにしか生きられない」と思い、地に縛られる現実に我が身を重ね、目を伏せる。
2023/10/20
くさてる
カポーティはそれなりに読んでいたつもりだったけど、ちょっとこの作品には参った。いままでわたしはカポーティのなにを読んできたんだろう。グロテスクで濃密で、酔うように甘くて感覚的で、圧倒された。ストーリーとかキャラとか、そういうレベルではなく、参った。そのあたりの戸惑いについては訳者あとがきを読むことで整理がつきました。なるほど、という感じ。好きとか嫌いではなく、なんとも圧倒的な世界です。
2023/08/30
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