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アニルの亡霊

アニルの亡霊

アニルの亡霊

作家
マイケル オンダーチェ
Michael Ondaatje
小川高義
出版社
新潮社
発売日
2001-10-31
ISBN
9784105328030
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アニルの亡霊 / 感想・レビュー

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(C17H26O4)

出会ってからの短い間に声で会話した時間はどれくらいだろう。100時間か、いや多分それ以上。いや時間では計れないはず。互いの人生や心を良い意味で探り合うような日々は、多くの知り得ない事柄や少しの誤解と共に気遣いや思い遣りで溢れている。こんなことがあるんだね、という言葉が嬉しくて頷いたのだった。物語に軸はあるが本質はそこではない。登場人物の会話から次第に立ち上がって見えてくる彼らの人となりや生き方こそにほぼ全てがある。目的が終わったとしても彼らの人生が交差したこと、おそらく深いところで繋がったことは確か。

2021/05/22

南雲吾朗

雑草を抜くように簡単に人が殺される。そんな日常が当たり前の世界で暮らすというのはどういう感覚なのだろう?戦争は私たちが想像し得ないような価値観を生み出し、それがまかり通ってしまう。この物語はスリランカ内戦の悲惨さを国際協力(検死)という形を通して語りかけてくる。国内(スリランカ)の情勢を国外(西欧諸国)の感覚で判断すると必ず歪が生まれる。国際的判断というものは万国に通じるわけではない。たとえ不正な事だとしても、真実の追及が必ずしも道を正すとは限らない。(続く)

2020/10/03

たま

80~90年代のスリランカ内戦が背景で、国際機関から派遣された法医学者のアニルが考古学者のサラスと遺体を検分する。幾つかのイメージ(夜の遺跡、森の中の廃墟の僧院、人の住まない古い屋敷など)は素晴らしく美しいのだが、内乱下に2人だけで各地を移動する展開やアニルの人物設定が不自然に思え、彼女の滞米中のバカ騒ぎの回想も意味不明で頭をひねりながら読んだ。最後の仏像開眼場面での「自然史を織りなす風景」(ここの描写は素晴らしい)は内乱だの国際社会の介入だのを越えて続くスリランカの山河への信仰表明なのだろうか。

2021/01/20

アヴォカド

読んだあとしばらく放心してしまった。重量級の小説。知らなかった、スリランカの内戦の凄まじさ。毎日のように出る誘拐による行方不明者、テロの怪我人や死者。その日常の中で暮らすということ。スリランカで生まれ外国で暮らして法医学者となったアニルはオンダーチェの生い立ちとも重なり合うところが多い。そのアニルが帰国して政治テロの大量殺人を暴こうとするという設定だからこそ、外から見たのではないスリランカと、そこに暮らす人々が生々しい。生々しく悲痛で、苦しい。光の描写が印象的。そしてラストシーンは映像的で素晴らしい。

2020/01/30

saeta

一つ一つのセンテンスも短く纏められ、静謐さと言うか間を感じる佇まいが素晴らしい作品だった。この辺りは作者が詩人である事にも関係がありそうだ。私含め、日本人の多くは仏教国であるスリランカが四半世紀も内戦を繰り返していたとは知らなかったのでは。考古学者の師匠で仙人のような暮らしをしているパリパナや仏像絵師アーナンダなど魅力的な人らが脇を固め、さらにベースの物語に度々挟まれるアニルや医師のガミニの過去のサイドストーリーもなかなか良かった。明け方に仏像の目入れを行うアーナンダのエンディングは、とても映像的だった。

2020/10/22

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