身もこがれつつ-小倉山の百人一首 (単行本)
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「身もこがれつつ-小倉山の百人一首 (単行本)」のおすすめレビュー
歌を介して交わされる、男たちの究極にピュアで熱い愛憎! 『百人一首』に秘められた、ままならぬ恋の物語『身もこがれつつ 小倉山の百人一首』
『身もこがれつつ 小倉山の百人一首』(周防柳/中央公論新社)
『百人一首』を習った高校時代、ふと考えたことがある。
「来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ」
いつまでたっても現れない人を待っていると、まるで松帆の海岸で夕どきに焼く藻塩のように、わたしの身は恋焦がれるのです──『百人一首』の編者である、藤原定家自身の作だ。
『百人一首』には、こういった恋の歌が多く収録されている。藤原定家は、今でいう“恋愛もの”が好きだったのだろうか。彼は、なにを基準にこれらの歌を選び、並べ連ねたのだろう。そういった疑問へのひとつの答えを、きらびやかなエンターテインメントとして読ませてくれたのが『身もこがれつつ 小倉山の百人一首』(周防柳/中央公論新社)だ。
応保2年(1162年)、藤原定家は、平安時代に栄華を極めた藤原北家の傍流の家に生まれた。すぐれた歌人である父の薫陶を受け、日夜修行に励んでいた定家だが、元服の翌年、熱病が原因で、歌を詠むために必要な微細な音を聴きわける力を失ってしまう。
しばらくはふさぎこんだ定家だが、彼はやがて、紙と薄板を貼り…
2021/8/20
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身もこがれつつ-小倉山の百人一首 (単行本) / 感想・レビュー
trazom
それにしても、作家の想像力というのは凄いと感心する。断片的に承知している歴史的事実(後鳥羽天皇の神器なき即位、藤原定家の直情径行の不器用な性格、源実朝の殺害、承久の乱、後鳥羽院の遠島と還京拒否、新勅撰和歌集、百人秀歌、百人一首)が、後鳥羽院と藤原定家と藤原家隆という三人の恋を軸にして、見事に紡がれる。「百人秀歌」と「百人一首」の相違の謎解きに至る構成は、推理小説のような面白さでもある。史実や文学的評価(百人秀歌と百人一首はどちらが先か)からの異論もあろうが、定家の思いに心寄せた作家の想像力を満喫した。
2021/09/04
さつき
百人一首が作られる過程を、後鳥羽院、藤原家隆、藤原定家の3人の愛憎に焦点をあて描いた作品。恋歌の極意は?との問いに「未練でございます」と答える定家の姿が忘れられません。古歌の手札を並べて伝えた恋情は秘めやかで甘美。私もカルタの札を並べてみたくなりました。
2021/08/04
nico🐬波待ち中
雅な百人一首作成の裏側でこんなにも政治的策略が蠢いていたとは。時代は平安末期の、貴族社会から武家社会へと大きく変わる激動の頃。平家が滅び源氏が台頭、鎌倉に幕府が置かれ平安京も徐々に衰退。政の中心も京から鎌倉へ移ったことで治安も乱れ放題。このような国の混乱期に、今昔の歌人のうちから百名の秀歌を選びましょう、なんて呑気なことをやっていたことに驚いた。朝廷VS鎌倉幕府は歴史的に見ても面白かった。藤原定家が何度も唱えていた「古歌に学べ」のように古の歌も改めて詠むと奥深い。百人一首を改めて詠みたくなる物語だった。
2022/02/20
真理そら
『逢坂の六人』でかわいすぎる「つらゆき」を描いてくれた作者が今回はこじらせすぎた「さだいえ」を描いてくれてうれしい。定家と後鳥羽上皇と藤原家隆のBLっぽい三角関係で優しい物語の雰囲気を作りながら、平家滅亡から始まった公家から武家への時代の流れの血生臭い政治情勢の中での生き残り方も見せてくれる贅沢で楽しい作品。大阪四天王寺の夕陽丘という地名の元になったと言われる家隆が「さだいえ」に別れを告げる場面もいい「われらはなにも変わらぬよ」。小倉百人一首の最後の4首を優しい気持ちで味わえる。
2022/05/02
しゅてふぁん
定家を中心に後鳥羽院や友人の家隆、そして武家とのあれこれを描いた物語。思っていたのとは方向性は違ったけどとても良かった。和歌を中心とした話なのに雅な雰囲気は一切なかったのは、この物語の作風なのか、それとも武士が台頭し始めた時代のせいなのか(もしや後鳥羽院が破天荒だったからか!)。武家への強い反発心、王朝時代復活への執念、歌人の和歌に対する思いが詰まった一冊だった。百人一首選歌の謎解きはこんな使い方もあるのかとまた新しい発見。後鳥羽院と定家と家隆、順徳院、百人一首の最後の四人の見方が劇的に変わった。
2021/09/14
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