黄色い家 (単行本)
「黄色い家 (単行本)」のおすすめレビュー
社会からはじき出された少女たちは、なぜ犯罪に手を染めたのか。善悪の狭間を描く、川上未映子の新境地!
『黄色い家』(川上未映子/中央公論新社)
人生をやり直せるなら、どこまで時間を巻き戻すだろう。今にたどりつく分岐点は、どこにあったのだろう。日々の暮らしの中で、ふと、そんなことを考えてしまう時がある。
きっと『黄色い家』(川上未映子/中央公論新社)の伊藤花にも、無数の分岐点があったはずだ。犯罪に手を染める前に、なんとかできたのではないか。引き返すチャンスは何度もあったのではないか。だが、そんなものは“持てる者”、もしくは自分は“持つ側”だと信じ込んでいる大人の戯言にすぎない。社会の仕組みからはじき出された少女が、生き延びるにはまず金が必要だし、稼ぐために取り得る選択肢なんてそう多くはない。大事な家を守りたいと必死にもがいた結果、違法行為に加担したとして、それは本当に“悪”なのか。犯罪に突っ走る花たちを夢中で追いかけながら、善悪を決めるものは何なのか、金とは、生きるとは何かを考え、思考と感情をもみくちゃにされた。
2020年春、惣菜店で働く花はあるネット記事を目にする。それは、かつて一緒に暮らしていた吉川黄美子が傷害と脅迫、逮捕監禁の罪で起訴された…
2023/2/20
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2024年本屋大賞受賞作 『成瀬は天下を取りにいく』(宮島未奈/新潮社)
『成瀬は天下を取りにいく』(宮島未奈/新潮社)
【あらすじ】 同作は、第20回「女による女のためのR-18文学賞」大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞した短編小説「ありがとう西武大津店」を含む宮島未奈のデビュー作だ。
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2024/4/10
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まとめ記事の目次 ●黄色い家 ●君が手にするはずだった黄金について ●水車小屋のネネ ●スピノザの診察室 ●存在のすべてを ●成瀬は天下を取りにいく ●放課後ミステリクラブ 1金魚の泳ぐプール事件 ●星を編む ●リカバリー・カバヒコ ●レーエンデ国物語
金とは、生きるとは何かを問いかける『黄色い家』
『黄色い家』(川上未映子/中央公論新社)
同作は、芥川賞作家・川上未映子が2023年2月に発表したクライム・サスペンス小説。“黄色い家”に集う少女たちの危険な共同生活を描いた作品で、「王様のブランチBOOK大賞2023」や「第75回 読売文学賞(小説賞)」といった数々の賞を総なめにしてきた。
物語は202…
2024/2/25
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黄色い家 (単行本) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
主人公(物語の語り手でもある)の花は、これまでにも世間一般の幸福からはほど遠かったし、それは今もまたそうであり、将来もまたおそらくはそうだろう。結局のところ花が幸せだったのは、あの黄色い家で黄美子、蘭、桃子と暮らしたあの時期だけだったのである。10代で身分を保証するものは何もなく、頼る相手もいない。そんな中で犯罪と知りつつも日々の苦闘を続けていた花。この危うい生活が崩壊に向けて突き進んでいくことは、花にもわかっていた。しかし、どうすることができただろう。事柄の真相は花にも読者にもわからないのだが、⇒
2023/10/01
さてさて
『黄色』にこだわり『黄色』を名前に含む黄美子との過去を振り返りながらコロナ禍を生きる主人公の花。そこには世紀末の世に極めて危うい橋を渡りつつ『金運』に支えられた人生を生きてきた花の姿が描かれていました。世紀末の世に『X JAPAN』が意味を持って取り上げられるこの作品。”カード犯罪”の恐ろしさとそれに関わる者たちのあまりの安易さに呆れもするこの作品。単行本608ページという圧倒的な物量にも関わらず、スピード感に溢れ、ぐいぐい読ませる川上未映子さんの筆致に、あっという間に読み切ってしまった圧巻の物語でした。
2024/02/10
starbro
川上 未映子は、ご主人阿部 和重共々、新作中心に読んでいる作家です。本書は、著者の新境地でしょうか、桐野夏生ばりのシスター・ノワールの意欲作でした。600頁超ですが、ノンストップ読書で軽やかに駆け抜けました。最初黄美子が主人公かと思いましたが、花でした。 少し気が早いですが、今年のBEST20候補です。 https://www.chuko.co.jp/special/kiiroiie/ 🟡🟨🟡🟨🟡🟨🟡🟨🟡🟨🟡🟨🟡🟨🟡🟨🟡🟨🟡🟨🟡🟨🟡🟨🟡🟨🟡🟨🟡🟨
2023/03/03
まこみや
最初は『ヘヴン』だった、川上未映子の圧倒的力量を認識したのは。人物も背景も違うけれど、この『黄色い家』は『ヘヴン』の延長上にある。両者に共通するのは、崩壊する精神が描く詩情、いわば徹底した生活のリアリズムを追窮する中で垣間見える心のリリシズムとでも呼ぶしかない文体だ。どうにもならない壁に向かって血を流しながらひたすら爪を立てて足掻く人物の心の叫びは、読み手に破滅に向かう切迫感と狂気の淵を覗き込むような息苦しさとを覚えさせずにはおかないのである。
2023/03/17
bunmei
こんなに心が沈んでいく物語は初めて。自分のエネルギーまでもが吸い取られていくようで、遅々としてページをめくる手が進まなかった。親からも見放され、必死になって働いて稼いだ金も、自分の手の中から無情にもすり抜けていく。それによって、よりリスクの高い悪の稼ぎへと手を出し、堕ちていく若者。そんな社会の底辺を生きる者が、黄色は金運と幸福を招く色と信じ、唯一手を差し伸べてくれた人に付いていこうとする。結局、金は裏切りや妬みとなって、自分に降りかかってくる現実を、リアルな描写で描き切った、クライム・サスペンス。
2023/03/28
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