蝶のかたみ
蝶のかたみ / 感想・レビュー
るか
★★★★★自分が同性愛者であることに引け目を感じ、世間に堂々と女装姿をひけらかす弟に反発心を抱く『蝶のかたみ』。乱雑な部屋の一角で小さく流れる「うれしい雛祭り」を聴きながら、雛飾りをうっとりと眺める弟の姿が印象深い。もう一編は96年の芥川賞候補となった『バスタオル』。高校教師と生徒の純愛を書く。比喩が繊細で切なく、墨田の仕草一つ一つが健気でやるせない気持ちになる。儚く虚無感すらあるラストに胸が締め付けられた。著者が三島由紀夫の愛人(真実かどうかはさておき)だったと知り、何だか少し納得した。
2016/10/12
頭飴
「蝶のかたみ」と「バスタオル」二編が収録。 蝶のかたみは同性愛者二人の兄弟の晩年を書いた私小説かドキュメンタリーの様な内容だった。 バスタオルは高校の男性教師と男子生徒との情事について書かれた物語。 主人公が初めて生徒と接吻する時の描写が生々しく、エロチックだった。 主人公の実らぬと分かっていても慕う様子に哀愁があった。けれど移り変わりが激しい心情は情熱的と思う反面、執念と自意識、思い込みが強い人物だなとは思った。 最後のバスタオルのくだりの文は秀逸であり、上手く言い得ていると思った。
2021/12/31
かわしよ
愛の形を多様に表現している二篇。 二篇目が際立って良い。 今でこそ結ばれ得る愛の形であるが、当時の時代背景から想像される、磁力は引き合っているにも拘らず間に大きな隔たりが存在する物悲しさ。 美しくも、胸のいたむ話であった。
2021/07/03
ゆこ
あの鼻持ちならない物言いの石原慎太郎と、好きな作家の一人である宮本輝が推したと聞いて読んでみた。 純粋でありながら穢れた愛の話。つまり純然たる恋愛小説ともいえる。ひどく感情的にも扇情的にも書かれていないのに、今まで読んだどれよりもそれを色濃く感ぜられた。 最後に主人公の主観で語られるバスタオルが印象的。不毛な二人の愛の象徴とばかりに自らを卑下し責める主人公に胸を抉られる。 愛の自由を選ぶことの叶わない時代背景が二人の愛にマッチしていた。男色者の恋愛などという異端を見事なまでに文学に昇華させている。
2017/01/27
るか
2016/10/12に図書館本で読んだものを古書で購入し再読
2017/04/29
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