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里奈の物語

里奈の物語

里奈の物語

作家
鈴木大介
出版社
文藝春秋
発売日
2019-11-27
ISBN
9784163911328
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実の母の顔を、里奈は一生忘れることはない。『里奈の物語』⑧

物置倉庫で育った姉妹(里奈と比奈)は、朝の訪れを待ちわびた。幾つもの暗闇を駆け抜けた先に、少女がみつけた希望とは―。ルポ『最貧困女子』著者が世に放つ、感涙の初小説。

『里奈の物語』(鈴木大介/文藝春秋)

「カランコロン」とスナック入り口ドアのカウベルが鳴ったのは、風雨がピークに達した午後7時頃のことだ。そろそろ夕方まで自動車用品店で勤めた幸恵ねえが、駆け足でやってくる頃。そう思って里奈が志緒里ママを見上げると、その表情はなぜか固く強張っていた。

 入ってきたのがたとえ警察官だったとしても、志緒里はこんな顔はしない。誰が来たのだろう。里奈がカウンターの陰に隠れるようにして店の入り口を見ると、そこには上から下までずぶ濡れの女が両手にふたりの子どもを引きずるように連れて、鬼気迫る顔で仁王立ちしていた。

 嵐の中を走ってきたのだろうか。肩で息をする女のきつく整った顔には濡れたショートソバージュがへばりついている。ふたりの子どもは、比奈と同い年ぐらいの男の子に、まだ2歳になったばかりぐらいに見える幼い女の子。どちらもびしょ濡れで、男の子の顔は不機嫌そうなしかめっ…

2020/1/18

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ママの店は、男たちが風俗店に行く前の待合室でもあり、“ノミ屋の窓口”でもあり…『里奈の物語』⑦

物置倉庫で育った姉妹(里奈と比奈)は、朝の訪れを待ちわびた。幾つもの暗闇を駆け抜けた先に、少女がみつけた希望とは―。ルポ『最貧困女子』著者が世に放つ、感涙の初小説。

『里奈の物語』(鈴木大介/文藝春秋)

 その日、中心気圧9‌0‌0ヘクトパスカル前半、最大風速45メートル/秒という非常に強い台風は、九州地方に上陸後、西日本をゆっくり横断。高潮と相まって大きな被害を出していた。里奈たちの住む伊田桐市もまた、昼頃から降り始めた雨がほんの1時間ほどでたらいをひっくり返したようなような暴風雨だ。

 幸恵の勤めるパブスナックは安普請で、強風が吹くたびに壁に叩き付けられる大粒の雨音が、バラバラとまるで小石でも投げられているかのようだった。 「こんな天気じゃ客もくそもねぇがん」

 店長兼ママさんの志緒里さんが毒づく割に、カウンター10席にボックス20席ほどしかないパブスナック店内は結構な人の入りである。と言ってもその面々は付近の飲食風俗店のスタッフばかりで、あまりの大雨に早々にその日の営業を諦めて集まってきたという次第だった。

 そんな客層だから、志緒里ママもずいぶん…

2020/1/17

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里奈の物語 / 感想・レビュー

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のぶ

壮絶な生き方をした少女の半生の物語だった。主人公は高橋里奈。里奈を育ててくれているのは実母ではなく、伯母の高橋幸恵。そんな伯母も忙しく、幸恵の実子である比奈と二人で幸恵の知り合いのところに預けられ、現在は倉庫のような処で夜を過ごすことが多い。そんな生い立ちもあり、里奈は15歳にして性風俗の世界に飛び込み、そこで生きてゆくことになる。ここでの描写が凄いものだった。ノンフィクション出身の作家が書いているだけあり、現実感がある。ただこの部分が非常に長いのと、視点が単調なのでやや退屈に感じる事もあった。

2020/01/30

アキ

実母に捨てられ伯母の元で育ち、伯母が逮捕されて施設暮らし。15歳で田舎を飛び出し池袋で一夜を明かした朝、学校へ行く中学生とすれ違う里奈の気持ちが切ない。身寄りのない未成年ではウリで生きていくしかない。16歳で未成年援デリをまとめ、ヤクザとの関係、ショバ争い、警察へのタレこみなど知ることのない世界の構造を垣間見た。18歳で妊娠し一人で育てることを決意する。末期がんの叔母と病院で再会し、わたしの母と呼ぶ。そうだ女は女だけで生きていけるんだ。男なんて子ども作る時の種、子ども育てる時のエサで十分。やっぱ女は強い。

2020/03/01

ネギっ子gen

触法少女らの生きる現場を取材したルポ作家が、「脳コワさん」当事者になってから初めて挑戦する小説表現。物語は、物置倉庫で朝の訪れを待ちわびた小1・里奈の「あー。またママ、来なかったんだ」との呟きに続き、4歳になる妹・比奈を起こすシーンから始まり、「なんなんさ、こりゃ、大ごとだがね」というような描写が続く──。“ウリ”とか“援交”とかのダークワードが多出する、『最貧困女子』などの著者ゆえに描けた社会的養護のリアル。里奈に「絶対あんた『ジャンプ』の漫画で主人公やれる」って告げる台詞あったが、『約ネバ』のエマ!⇒

2021/08/18

ナミのママ

【挫折本】興味のあるジャンルで楽しみに借りたのですが。ごめんなさい、全くダメでした。ノンフィクションを書いている方だったのか…。とにかく淡々と長い…。もういいや、と思い、流し読みもやめてしまいました。

2020/01/20

アズマ

とにかく面白くて一気読みでした。過酷すぎるけど里奈が強くて真っ直ぐですごく引き込まれました。好きです。別れもあって辛いことも沢山あったけど最後のシーンのおかげで読後感がよかったです。

2020/03/31

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