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七万人の命と百六十四人の命は平等か? 全世界で論争を巻き起こしている問題作『テロ』
『テロ』(フェルディナント・フォン・シーラッハ:著、酒寄進一:訳/東京創元社)
良心と法―。人間が社会生活を営むときに、尊重されるべき二つの概念は互いが互いを支え合っていると信じられている。良心があるから法は守られ、法は良心を守っていると多くの人々は疑っていないだろう。しかし、仮に片方を守ることがもう片方を切り捨てることになるのだとしたら? そして、そんな状況が来るはずはないと断言できるだろうか?
世界的ベストセラー『犯罪』でその名を轟かせたフェルディナント・フォン・シーラッハ初の戯曲、『テロ』は世界中で物議を醸している問題作だ。「ある事件」を審議する法廷を通して、読者は良心と法を天秤にかけることを強いられる。誰もがページをめくりながら、答えなき問いと格闘することだろう。
物語は裁判の開廷から始まる。あるドイツ空軍少佐を裁くための裁判だ。彼の罪状は次の通りである。
ドイツ上空で旅客機がテロリストにハイジャックされた。七万人の観客がいるサッカースタジアムに自爆テロをしかけるためだ。空軍による警告射撃も効果がなく、少佐たち現場の軍人は旅客機の撃墜を…
2016/9/28
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テロ / 感想・レビュー
starbro
フェルディナント・フォン・シーラッハは、新作中心に読んでいる作家です。被告人が実はムスリムで、164人を乗せた旅客機の撃墜自体がテロだったというオチかなと思いましたが、そんなことはなく、真っ当な法廷劇でした。本作では、有罪・無罪の二つの結末が用意されていますが、著者はやはり有罪を支持しているんでしょうね?私は中庸のスタンスです。本件は情状酌量出来るので、執行猶予つきの短い有罪(刑期10年程度)を主張したいと考えています。個人的に裁判員裁判を経験してみたいのですが、何故か全く声がかかりません(笑)
2016/08/10
absinthe
テーマは重いがさらっと読める。これは、結末に有罪判決と無罪判決が載っていてどちらも面白いが、absintheなら無罪を支持する。本書は哲学的にはそれほど深い考察は無いが、法的な細部の話は興味深いし面白い。さらにドイツの法律の特殊事情も垣間見える。テクノロジーの進歩により、一人のテロリストでも大惨事を引き起こせる今日この頃。こういった決断はこれからほんとに起こるだろう。すぐに再読したい。(禿帽子さん紹介本)
2016/08/05
紅はこべ
リドルストーリーっぽくしているが、この著者のシャルリー・エブドへのスピーチを読む限り、多分著者は無罪。ただ私はシャルリー・エブドへの違和感が拭い去れないのと同じく、この被告人への違和感が大きい。「乗客は飛行機に搭乗することで自ら危険に飛び込んだ」これは許される言辞か?同じ危険性はスタジアムの観客だって負っている。勿論最も責められるべきはテロリストだが、次はスタジアムから観客を避難させなかった当局、そして被告人もある程度責めを負うべきでは?彼のしたことは英雄的行為とは思えない。
2016/12/29
ケイ
誰かが下した判断をSNS上では簡単に批評できる。深く考えずに、私ならこうしたと言える。では、その判断に対して公の場で裁かれるとしたらあなたの判断はそのままでいいだろうか。ハイジャックされた民間航空機が、何万人もが観戦しているスタジアムに突っ込もうとしている。国防大臣の判断が追撃するなであれば、追う軍機に乗るあなたはどうする? そこで実際に判断を下した人をどう評価する? 話としての出来上がりは、ベストセラーになるにはドラマが少ない。しかし、この作品は最後に彼がした演説と合わせて価値がある(続く)
2019/08/12
さと
何と深く重い。鈍化した脳細胞に負荷がかかって 唸るしかない。目の前で繰り広げられる戯曲は淡々と進み、サンデル教授の講義も重なってくる。しかしそれらは全て併録の著者のスピーチのための序章だったような気がする。彼が言わんとすること、確固たる信念としていることをくみ取ろうと何度も何度も読み返した。私的制裁を放棄しそれを国家に委ねたことの意義。民主主義を破壊するものは復讐心に囚われた私たち自身である。法の秩序の下、法を知るものとして正義を貫くというより、法により守られる自由と寛容(続)
2016/12/01
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