我らが影の声 (創元推理文庫 )
我らが影の声 (創元推理文庫 ) / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
ダークファンタジーと呼ばれる分野を作り出した作家ジョナサン・キャロルの2作目。怖い、怖い、小説。怖いのだが、異様な迫力があって読むのをやめられなかった。子供の時に重い罪を犯してしまった作家が、親友の男性を裏切って、彼の妻と不倫関係になってしまったことから、地獄めぐりが始める。現実の壁を突き破って、血の凍るような虚構がこの世界が侵入してくる場面にぞくぞくした。怪物に追いかけられる悪夢を見て目を覚ましたら、枕元にまた怪物が立っていたような結末だと思う。
2016/05/02
hit4papa
名作『死者の書』につづく第二長編です。ダークファンタジーの要素がなくても、小説としてなかなかよくできた作品です。登場人物の個性がきっちりと描かれていて、作品世界に入り込みやすいのです(翻訳が素晴らしい)。フツーの小説として読み進めていくと、突然、日常が不協和音を奏ではじめます。いきなり異世界に突き落とされるような感覚が、ジョナサン・キャロルらしさなのでしょう。あとがきの「結末は決して誰にも明かさないでください」という大仰なものではないと思うけれど、現実そのものが崩壊してしまうような薄気味悪さはありますね。
2019/12/06
星落秋風五丈原
兄が死んだのは、ぼくが13のときだった。線路を渡ろうとして転び、第3軌条に触れて感電死したのだ。いや、それは嘘だ。ほんとは……。ぼくは今、ウィーンで作家活動をしている。映画狂のすてきな夫婦とも知り合い、毎日が楽しくて仕方ない。それなのに――。底知れぬ恐怖の結末が、あなたを待つ。鬼才キャロルの長編第2作!「我らが影の声」は多くのことを意味している。読者にとっては、それは本の題名そのものだし、登場人物にとっては、それは語り手が書いた短編小説を脚色した芝居の題目である。
2011/02/03
さるる
【ファンタジー・フェス★】主人公はどこで寝た子を起こしてしまったのか。蓋をしたはずのものにいいとこだけ引っ張り出して利用した時期かそれともロスの親友に出会った時不用意に触れ合った時か。ウィーンでの充実した暮らしぶりや友達との交流シーンは読んでいて楽しいが時々ふと感じる違和感。それは主人公に対する小さな不信感。きっと今後は人との交流のない閉じられた世界で偽りの安心と幸福を手に入れて生きていくのだろう。
2015/10/27
冬見
札付きのワルだった兄はぼくが13歳の時に死んだ。線路の第三軌条に触れたことによる感電死だった。時が経ち、ぼくは今ウィーンで作家活動をしている。そこで出会った映画狂の素敵な夫婦と仲を深めるが、少しずつ歯車は狂い始め……。◆過去に秘密を持つ作家のラブ・ロマンス、の皮を被った……なんだ? これは、なんだ? わからない。もう、怖い。ただただ怖い。徐々に、ほんとうに少しずつ、世界がずれ込んでゆく。そして、気づいたらもう、戻れないところに立っている。いつだってそうだ。彼の小説を読む時は。
2021/05/14
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