茗荷谷の猫
茗荷谷の猫 / 感想・レビュー
モルク
幕末の江戸から昭和の東京まで9人を描く連作短編集。すれ違うことのない彼らが時空を越えて土地を縁として結びつく。どの話も余韻のある終わり方である。過ぎ去った昔にふと思いをはせるとき心のどこかにしみてくる。「てのひら」は感慨無量だった。幼い頃自慢だった母親が上京する。その老いと都会から浮いた姿そして「もったいない、まだ使える」という考えが貧乏くさく恥ずかしい娘。娘と母親双方の気持ちを思いジーンとした。母親側に近い我が身を考えると辛い。短いながらも存在感のある作品ばかり、その微妙な繋がりもよかった。
2018/01/07
文庫フリーク@灯れ松明の火
わずか10ページの〔てのひら〕が心に響く。子として父母の老いを感じる年齢に、自分もなってしまった。『笑い三年泣き三月』の原型感じさせる〔庄助さん〕表紙は染井吉野なのですね。もっと長い物語で出会いたかった〔染井の桜〕兎角この世はままならぬ。逃れたいと願っても、しがらみからは逃れきれない〔隠れる〕時代は江戸末期から明治・大正・昭和でしょうか。登場人物がもっと影響しあう濃厚な連作短編期待したのですが、これが木内さんの味なのでしょうね。短編9編ご馳走さまでした。
2011/11/10
藤枝梅安
幕末の江戸から東京オリンピックの槌音高い東京まで、約100年に渡る「東京奇譚集」。各章はタイトルに地名の副題が付けられ、いくつかの建物を出入りする人々の不思議な縁を縦糸に、「町」が「都市」になっていく変遷を横糸に織りなしている。幕末の「染井吉野」にまつわる物語から、時代が現代に近づくほど、訳の分からないことが増えていく。夢を捨てきれない男達と女達の後悔が積み重なって時間が流れていく様子が精緻な文章で綴られている。文章の美しさが物語の不気味さと儚さを増している部分と、逆に邪魔になっている部分がある。
2011/02/18
はる
江戸が終わり、明治、大正、昭和。時が移り時代が変わっても、人は生まれ、悩み、そして死んでいく…。市井の人たちの喜びも悲しみも振り返れば忘却の彼方。この世は夢か幻か。それでもずっと後になって、ふとしたはずみに現れる過ぎ去った時代の人たちの生きた証、秘かな想いに出会ったとき、しみじみとした感動を覚えます。読み終えたとき、不思議な旅から戻ってきたような気分。
2016/10/06
なゆ
9つの話が、幕末から昭和の高度経済成長期までの長い期間を追ってる事に驚いた。舞台は東京のあちこち。その時代ごとの雰囲気を感じながら、街の片隅で地味にひたすらに生きる人々を見つめる感じが、しみじみと、いい。茗荷谷の平屋の家がいくつかの話に出てくるたびに、時は移り変わっててもそこにすぅっと軸が通るような心地よさが。「染井の桜」の揺るぎない夫婦、「隠れる」のことごとく裏目に出る可笑しみや、「庄助さん」の泣きと笑い、「てのひら」の苦い感情も印象に残る。木内さんの本をもっと読んでみたくなった。
2014/08/28
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