聴こえない母に訊きにいく
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「聴こえない母に訊きにいく」のおすすめレビュー
「ぼくは、生まれる前に殺されていたかもしれない」。優生保護法により命を奪われていた可能性のある著者が伝える、聴こえない母の切実な声
『聴こえない母に訊きにいく』(五十嵐大/柏書房)
“もしかしたらぼくは、国によって生まれる前に“殺されていた”かもしれない。”
「優生保護法」――過去、この国に存在した差別の権化とも言える悪法によって、障害を持つ多くの方がさまざまな権利と健康を奪われた。五十嵐大氏によるノンフィクション作品『聴こえない母に訊きにいく』(柏書房)は、ろう者である著者の母の歴史を辿る中で、かつて存在した優生思想の恐ろしさに触れている。
著者の母・冴子は、宮城県塩竈市で生まれた。先天性のろう者で、中等部から入学した「宮城県立聾学校」で出会った浩二と交際を経て結婚。その後、二人の子として生を授かったのが著者である。
本書において冴子が語る内容は、自身の姉との絆も含めて「幸せな記憶」が多い。小学校時代の友人との思い出、恩師との温かな交流、夫との出会い――悲しみや恨みごとをほとんど口にしなかった母の姿に、著者の胸中は“ぐちゃぐちゃになった”という。母が語る幸せな記憶の裏側に潜む「差別」の片鱗は、現在進行形で社会にあふれている。そのことをよく知っている著者は、母だけではなく、伯母…
2023/10/7
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聴こえない母に訊きにいく / 感想・レビュー
ナミのママ
「障害者の親なんて嫌だ」ときとして子どもは残酷だ。そして母は決まって言う「耳が聴こえないお母さんで、ごめんね」。元ヤクザの祖父、宗教にすがる祖母、ろう者の両親のもとで育った僕は耳が聴こえる。コーダの作者が母に聞いたことを軸にしたエッセイ。母の子ども時代から始まり、2人の姉へのインタビュー、母校、恩師と聞き取りは広がっていく。優生保護法の歴史、現在も続いている裁判はニュースで見聞きするのとはまた違う重さがある。障害者の人権について考えさせられる。文章力がもう少しあれば良いのにと、少し残念。
2023/06/17
すだち
ろうの母の過去について母自身、関係者への取材を重ねる。同年代の仲間がいること、言葉を習得し意思疎通することは聞こえる人なら普通なのに、ろう学校中等部で初めて叶えられたという。祖父母なりに愛情をかけて育てたとは思うが。 優生保護法で10代前半の子が知らぬ間に不妊手術をされた時代。将来子を持つ権利を奪われるだけでなく、健康被害、人間不信など一生に関わる問題と改めて知る。裁判は今も続く。いつの世も生きづらさを抱える人はいる。著者のコーダとしての発信にとどまらない活動に今後も目を向け、自分も考えていきたい。
2023/10/01
Kurara
★3 ろうの両親を持つコアの作者が母について書いている。恥ずかしくて両親の障害をひた隠しにしたとあったが、まだまだ社会の差別はこういった方にもあるんだな。
2023/10/25
ケディーボーイ
codaである著者が笑顔を絶やさない母親の人生を辿る。 そこでわかった事は家族内や社会に見え隠れする善意による差別意識。 昨年読んだ幾つかの小説にも書かれていた事が当たり前だが現実に存在する。 平易な文だが投げかけられる問題は重かった。 優生保護法による被害者は子供を持つ機会を奪われただけでなく、手術の影響による健康被害や周囲から『あなたは子どもを生んではいけない人』とされたために自己否定感に苛まれもしたという。 また祖父が優生保護法に関わっていたが為に自分を「加害者」とする方の次の言葉に考えさせられた→
2024/02/04
なつ
小説じゃなかったことに驚く。だから余計に、複雑な心境。色んな状況が、色んな環境が、色んな言葉達が、色んな時代が、全く他人事じゃないから。私の父は耳が聴こえない父(補聴器をつけたら微かに聴こえる)と目が見えない母(眼鏡をかけたら輪郭がぼんやり分かる)の元に生まれた。初めて知ったコーダ(CODA:Children of Deaf Adults、聴こえない親を持つ聴こえる子供)。祖父母の症状は幼い私にとっては当たり前のことで障がいだとは思っていなかったけど、父はコーダだったんだ。父の人生、私も訊いてみなきゃな。
2023/12/08
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