謎が解けたら、つぎの謎へ 真鍋真さんインタビュー(前編)『わたしはみんなのおばあちゃん』、「恐竜博2023」

文芸・カルチャー

公開日:2023/4/29

わかりやすく親しみのある語り口で、テレビやラジオでもひっぱりだこの“恐竜の先生”、真鍋真さん。さまざまな子ども向けの恐竜本の著作・監修・翻訳を手がけています。前編では、震災をきっかけに絵本の力を認識した体験談や、自ら翻訳を手がけた絵本『わたしはみんなのおばあちゃん』(岩波書店)について語っていただきました。また、国立科学博物館(上野)で開催中の特別展「恐竜博2023」展示内容についても解説! 恐竜ファン必見です。

 

「僕にできることなんてないだろうな」と思ったら、絵本があった

――以前絵本ナビでは『せいめいのれきし 改訂版』(岩波書店)の監修についてインタビューをさせていただきました。真鍋さんご自身も子どもの頃『せいめいのれきし』を読んでいたそうですね。他にもさまざまな絵本を監修されていますが、絵本の魅力はどんなところにあると思いますか。

ひとつは、小さいお子さんから、大人、年配の方まで、幅広い方が一緒に楽しめるところが魅力だと思います。『せいめいのれきし 改訂版』を出版した際、思った以上にたくさんの人から感想をもらいました。あらためて絵本には、博物館に展示されているひとつひとつの標本や、展示室をつないで、ひとつのお話のように伝える力があると実感しました。

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せいめいのれきし 改訂版

文・絵:バージニア・リー・バートン訳:いしい ももこ監修:まなべ まこと

出版社からの内容紹介

1964年の刊行から半世紀もの間、たくさんの子どもたちに愛されてきた絵本『せいめいのれきし』が、現在の知見に照らし合わせ、アップデートされました!
監修は恐竜研究の第一線で活躍中の真鍋真先生。2009年にアメリカで刊行されたUpdated Editionをもとに、「宇宙」「地球」「生き物の進化」の歴史など、適宜改訂を加えました。石井桃子さんの名訳も活きています。
地球に生命が誕生してから、今この瞬間までのお話をお芝居形式で語る壮大な絵本。最後には、生命のリレーのバトンは本を読んでいるあなたに手渡されます。生きるよろこびに満ちあふれた、ユニークで美しい絵本です。
8年もかかって作り上げたバートンの絵には、たくさんの楽しい仕掛けがほどこされています。何度読んでみても、あたらしい発見がありますよ。

『せいめいのれきし』より

『せいめいのれきし』の素敵なところは、三葉虫や恐竜といったその時代の生き物が、主役として次々に舞台に登場することです。バートンさんは、(中略)進化の歴史を、単に科学的な事実ではなくて、もっと身近で心温まるストーリーに感じさせてくれます。
『せいめいのれきし』監修者真鍋真先生インタビュー(2015.07.30)より

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もうひとつ、2011年の東日本大震災で感じた、絵本の力があります。あのとき、博物館もめちゃくちゃになり、“博物館人として何かしなければ”と思いながらもあまりの惨状に「僕が役立てることなんてないだろうな」と思っていたんです。岩手県立博物館の方に「何かできることがあったら言ってくださいね」と言ったら、「これだから東京の人は」と怒られまして。何をしますかと聞くんじゃなくて、被災地をまずは訪れて、できることを探すんだと、そう言われたんですね。

4月下旬、夜行バスや車を乗り継いで陸前高田市に入り、とにかく瓦礫の中から博物館の標本と思われるものを探して拾い集めることから始まりました。それから陸前高田に通うようになり、そのうち「恐竜の真鍋先生が来ている」と広まって「何か話してください」と頼まれました。

「いいですよ」と言ってついいつものようにパソコンを抱えて行こうとすると、避難所や仮設住宅にはプロジェクターなんてありません。そのとき「じゃあ、絵本なら」と思いついて、大島英太郎さんの『とりになったきょうりゅうのはなし』(福音館書店)とか何冊か持ち込んで、スタッフの方に持ってもらい、読み聞かせをしながら、僕なりの解説をしたんです。

――被災地のみなさんとお話するツールになったのが、絵本だったのですね。

そうなんです。陸前高田と、あと福島県のいわき市にも通うようになって、しばらく地域のボランティアの人たちと一緒に避難所や学校を回って読み聞かせをするようになりました。そうすると自然に子どもからお年寄りまで集まって、いろんな質問が出てくる。そのとき「恐竜じゃなく、私たちの進化はどんなふうだったんですか」と聞かれて。そうしたら「僕は恐竜が専門なので……」なんて言えないじゃない(笑)。

「じゃあ、次回は私たち人間への進化の話をしましょうね」と約束して、現地を後にしました。東京に戻ってきて、人間への進化について、私が解説するのにいい絵本がなかなか見つからなかったんです。そのうち、被災地でもプロジェクターやパソコンを使ってお話ができるようになりました。

 

進化のストーリーをからだで感じる絵本『わたしはみんなのおばあちゃん』

わたしはみんなのおばあちゃん はじめての進化のはなし

作:ジョナサン・トゥイート絵:カレン・ルイス訳:真鍋 真

出版社からの内容紹介

「わたしは、さかなのおばあちゃん。からだをくねくねさせて、およぎます。きみもくねくねできるかな?」大むかしの魚や、ほ乳類など、いろいろな種類のおばあちゃんが語りかけます。じつは、みんなわたしたちヒトの祖先です。おばあちゃんたちの動きをまねしながら、生きものの進化をたどってみよう!大人のための解説付き。

――2019年に日本語版が出版された『わたしはみんなのおばあちゃん』は、真鍋さんが初めて翻訳を手がけた絵本作品ですね。この絵本を訳そうと思ったのは……?

震災からだいぶ時間が経ってですが、あるとき偶然インターネットで『わたしはみんなのおばあちゃん』の原書を知りました。取り寄せて読んでみると、実によくできているんですね。魚から、四足歩行になり、陸に上がって呼吸するようになり、哺乳類が生まれ、霊長類から人間へと進化していく……。単純な言葉で、魚から私たち人間に至る生命の進化の過程がうまくひとつながりのストーリーとして書かれていて「いい本だなあ」と思いました。編集者に「日本語訳を出したらいいと思いますよ」とおすすめすると「真鍋さんが翻訳するならぜひ出版したい」と言われまして、僕が翻訳を手がけることになったんです。

『わたしはみんなのおばあちゃん はじめての進化のはなし』より

――翻訳の際、工夫したことはありますか。

「くねくね」「はいはい」「すーはー」といった擬音語、擬態語を入れたことです。例えば原文だと、「わたしは あしで じめんを はいはい して すすむことが できました。きみも はいはい できるかな?」の「はいはい できるかな?」は「Can you crawl?」。「きみも すーはー できるかな?」は「Can you breathe?」なんですよね。直訳では子どもたちがつまらないだろうと思ったので「きゅーきゅー(なきました)」「ぎゅっと(だきしめました)」などのオノマトペで表現を工夫しています。

――うちでも6歳の息子と読んでいますが「きみも くねくね できるかな?」という問いかけに「できるよ!」と答えてくねくね体を動かしたり、「すーはー できるかな?」のところで「すーはー」と息を吸ったり吐いたりしています。自分のからだを通して進化を体感できるのが素敵ですね。

『わたしはみんなのおばあちゃん はじめての進化のはなし』より

僕もお話会で読み聞かせすると、小さな子はみんな一緒に「くねくね」「すーはー」とからだを動かしてくれるので、すごく楽しいんですよ。

絵本の言葉は、語数が限られている分、単純化せざるをえないところもありますが、みんなでお話を共有できるのは大きな魅力だと思います。それに本書の巻末には、進化の系統樹や、「進化についてのよくある誤解」などさらに詳しい解説も載っています。大人も子どもも、読めばきっとたくさんの発見があると思います。

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恐竜博2023「今度の主役は『トゲトゲ』だ!」

――真鍋さんは、国立科学博物館で数年に1度開催されている特別展「恐竜博」の監修もされていますね。2023年の見どころと注目ポイントを教えてください。

「恐竜博2023」の注目の標本は、なんと言っても、鎧竜史上最高の完全度を誇る「ズール・クルリヴァスタトル」の実物化石です。もちろん、日本初上陸です。とても珍しいこの鎧竜の全身化石をみなさんにお見せしたくて、前回の「恐竜博2019」直後から交渉を続け、ついにカナダのロイヤルオンタリオ博物館から借りてくることができました。

ズール・クルリヴァスタトルの胴体部分(実物化石)©Royal Ontario Museum photographed by Paul Eekhoff

トゲトゲって固そうに見えますが、やはり体の骨ほどは固くないので、トゲトゲの皮膚部分まできれいに化石に残っているケースなんて、実はほとんどないんですよね。一部化石になってもバラバラになってしまう。このズールのように、頭から尻尾の棍棒までつながって見つかっている鎧竜って、この子くらいしかいないんです。

このズールは、おそらく川に流されて仰向けのまま埋もれて化石となったため、たまたまトゲトゲの形がきれいに化石として残ったのではないかと言われています。棍棒部分を支える腱などの軟組織まで化石になっていて、まさに鎧竜の教科書のような全身標本と言えます。所蔵先のロイヤルオンタリオ博物館以外では初公開です。

植物食恐竜の出現によって、恐竜は爆発的に多様性を広げていきました。その中で本展では、胴体に板状・トゲ状の突起や鎧をもつことで守りを強化していった装盾類(そうじゅんるい、剣竜と鎧竜の総称) の進化に迫ります。さらに肉食恐竜たちと対比させ、「攻・守」という観点から恐竜たちの進化を読み解きます。

ズール・クルリヴァスタトル(左)とゴルゴサウルスの対峙シーンを再現した全身復元骨格 撮影:山本倫子

撮影スポットとして人気があるのは、「ズールVSゴルゴサウルス」の戦っているシーンを再現した全身復元骨格。ズールの尻尾の棍棒によって、傷つけられたと考えられる、ゴルゴサウルスの脛(すね)が発見されていることから、もしかしたらこのような攻防がありえたのではないかとイメージして、骨格をレイアウトました。尻尾の棍棒部分の影を動かすことで、どのくらいの振れ幅で棍棒部分をズールが動かし、ゴルゴサウルスに対抗したのか、みなさんの想像が膨らむような仕掛けもあります。

――「守」を進化させた装盾類のかっこよさが伝わってきます! 生きていたときの姿が想像できますね。

個人的に気に入っているのは、約7600万年前のゴルゴサウルスの頭部の実物化石。全身は9メートルくらいだったと思われます。展示の後半で登場する、ティラノサウルスと比べると、ゴルゴサウルスの後頭部はすっきりして幅も狭いことがわかります。

ゴルゴサウルスの頭骨(実物)撮影:山本倫子

白亜紀最末期の6600万年前頃に、13メートルにまで大型化していったティラノサウルスは、後頭部が大きく幅広くなり、獲物を噛み砕く力もゴルゴサウルスより強かったのだろうと考えられます。「タイソン」という愛称のティラノサウルスは、実物化石を組み込んだ全身骨格が展示されていますが、世界初公開です。

――他に、注目してほしい標本がありましたらぜひ教えてください。

そうですね。僕らがアルゼンチンの研究者チームと一緒に発掘した、南半球の新種のメガラプトル類マイプの実物化石の一部や、アメリカ・モンタナ州で発見され、東大チームの研究で新種の可能性がある角竜の標本(「ケラトプス科の未記載種」と表記)。

これまたすごく珍しい、内臓の軟組織まで化石になった元祖ミイラ化石と言われる、白亜紀前期のスキピオニクスというイタリアの”赤ちゃん恐竜“の展示にも注目してほしいなと思います。実物化石が日本初公開ですが、イタリアを出たのも初めてです。腸内部のヒダヒダなど、生物としての恐竜を実感して下さい。

スキピオニクスのホロタイプ標本

見どころはたくさんありますので、ぜひ「恐竜博2023」を見に来てくださいね。

後編へ続く

インタビュー・文: 大和田 佳世(絵本ナビライター)
編集: 掛川 晶子(絵本ナビ編集部)

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