詩羽さんが選んだ1冊は?「誰になんと言われようと、自分の“好き”を貫く強さを教えてもらった」

あの人と本の話 and more

公開日:2023/7/15

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年8月号からの転載になります。

詩羽さん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、水曜日のカンパネラの詩羽さん。

(取材・文=立花もも 写真=干川 修)

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「どの場面も、描かれるファッションが細部までこだわりに満ちていて、モノクロだと思えないくらい色彩豊かに煌めいている。小学生で初めて読んだときは衝撃を受けました」

 本作の主人公は、高校の服飾科でデザイナーを目指す実果子。彼女のトレードマークでもある厚底靴を自身も履くことが多い詩羽さんは、本作をスタイリングの参考にすることもあるという。

「1巻の表紙では、水色にピンクと黄色という難易度が高い色の組み合わせを可愛くしあげていて、そのカラーバランスだけでも勉強になります。あと、いつだって独自のセンスでこだわりぬいたアイテムを身につけ、メラメラ燃えながら前進し続けている実果子ちゃんの生き方も。学生時代って、どうしてもみんながいいと思うものに流されがちだし、一人だけ浮いてしまうのが怖くて自分を押し殺してしまうことも多い。だけど実果子ちゃんは、“普通”の枠におしこめられて息苦しさを感じていた中学生の頃から、スカーフを大好きな苺の色に染めたりしながら抵抗していた。私も高校生のときは、刈り上げに口ピアスと、女の子があまりやらないファッションを貫いて先生たちと戦うことが多かったから、共感するところも多かったです。誰になんと言われようと好きなものを好きだと言っていいんだと教えてくれた実果子ちゃんのように、私も自分を貫き続けることで若い子たちの背中を押せたら嬉しいですね」

 その生き様は、映画『アイスクリームフィーバー』で詩羽さんが演じた貴子にも通じる。アイスクリーム店で働く菜摘(吉岡里帆)のバイト仲間で、日々に鬱屈を抱えながらも、決して自分を曲げない強さが常に瞳に宿っている。

「誰も自分のことをわかってくれないと思っているんだけれど、それを口にして人とぶつかる勇気はないし、言ったところでという大人びた諦めも抱えている女の子だなと思いました。矢沢あいさんのマンガを読んでも感じることですが、人生ってうまくいかないことのほうが多いし、簡単に救われたり壊れたりもしない。ちっちゃな今の積み重ねで私たちなりに前進していくしかないんですよね。だからみんな、些細なことで本気の恋に落ちたり、アンハッピーのなかにも大事なものを掬いあげたりしようとする。そんな、美しくももどかしい人と人との交錯する瞬間が、この映画にはたくさんちりばめられていると思います」

ヘア:イシわタ美サき スタイリング:久保田姫月 衣装協力:ビスチェ(参考商品)/YASUE NOGUCHI、ネックレス2万7500円(税込)/PAMEO POSE(PAMEO POSE表参道店TEL03-3400-0860)、その他スタイリスト私物

うたは●2001年、東京都生まれ。高校時代からモデルとして活躍。21年に音楽ユニット「水曜日のカンパネラ」に2代目主演・ボーカルとして加入。22年リリースの「エジソン」はストリーミング再生回数累計1億回を突破。今作で役者デビュー。

あわせて読みたい

『ご近所物語』(全5巻)
矢沢あい 集英社文庫(コミック版) 各770円(税込)
いつか自身のファッションブランドを持つことを夢見る実果子。オリジナリティ溢れるゆえに孤立することも多かった彼女の、いちばんの味方はお隣さんで幼なじみのツトム。だが高校生になって二人の関係に微妙な変化が訪れて……。夢と恋の狭間で葛藤する高校生たちの姿を描いた群像劇。

映画『アイスクリームフィーバー』

映画『アイスクリームフィーバー』

監督:千原徹也 原案:川上未映子「アイスクリーム熱」(『愛の夢とか』講談社文庫) 脚本:清水 匡 出演:吉岡里帆、モトーラ世理奈、詩羽/松本まりかほか 7月14日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
●アイスクリーム店でアルバイトする菜摘(吉岡里帆)は、ある日訪れた客の佐保(モトーラ世理奈)に心を奪われる。そんな菜摘を、後輩の貴子(詩羽)は複雑な思いで見守るが……。
(c)2023「アイスクリームフィーバー」製作委員会