【京極夏彦特集】作家デビュー30周年記念! 作品、仕事、妖怪のこと…読者から募集した質問に京極さんが一問一答形式で回答

文芸・カルチャー

更新日:2023/9/15

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年10月号からの転載です。

 雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年10月号では、2024年に作家デビュー30周年を迎える京極夏彦さんを特集。シリーズ17年ぶりの書き下ろし長編最新作『鵼の碑(ぬえのいしぶみ)』の魅力に迫るとともに、作家生活30年の軌跡を追う記事を展開している。この特集を記念して、読者から京極夏彦さんへの質問を募り、一問一答形式で答えていただいた。

京極夏彦さん


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読者から京極さんへQ&A

Q 書き始めてから書き終えるまで、最短と最長の作品名とかかった時間を教えてください(49・女)

A 書き下ろしの場合は大体同じですね。最長も最短もあんまり変わらなくて。3カ月程度。絵本は分量が少ないので、12分。

Q 「百鬼夜行」シリーズの終わりはもう決めていらっしゃいますか?(38・男)

A 「もう書かなくていい」って言われたところが終わりです。なので常に最終回のようなつもりで書いてます。

Q 「百鬼夜行」シリーズの中で、お気に入りのシーンはありますか?(32)

A ないですねえ。

Q 「百鬼夜行」シリーズの中で苦労したシーンはありますか? 中禅寺秋彦が好きなので結婚に至る経緯なども知りたいです。(42・女)

A ひたすら面倒なだけで苦労はしてません。結婚に至る経緯は書いていないのでわかりません。

Q 登場人物の名前はどのように決めていらっしゃいますか? 何か参照されたり基準にされていたりするものがあるのでしょうか。(28・女)

A 基準はないです。適当にキーを打って最初に出た字のままです。久保竣公も柴田耀弘もそうでした。名前なんて記号ですから、わかればいいので。

Q 「百鬼夜行」シリーズでお気に入りのキャラクターは誰ですか? 出来れば沢山お願いします(俺は青木くんです!)(14)

A 別に誰一人気に入ってはいないですね。著者にとっては小説の一部ですし。

Q 登場するキャラクターの中で一番友人にしたい人は誰ですか?(19・女)

A 榎木津のお父さんはお金持ってますから実在したならいいかも。

Q 主要キャラクターで書きやすいのは誰でしょうか?(47・男)

A すべて同じです。

Q 登場人物のプロフィールはどのくらい作りこまれていますか?(22・女)

A 登場人物は小説のために作られる小説の一部なので、作品に必要な属性を与えるだけで、それ以外はなしですね。別の作品に流用する際に必要とあれば属性を追加することはありますが、全部を決める意味はないので、プロフィールはありません。

Q 「百鬼夜行」シリーズには毎回個性豊かな人物が登場しますが、京極先生が人間というものを描く際のこだわりはありますか?(21・女)

A こだわりは持たないようにしています。それに人間を描いているつもりは一切ないんです。小説を書いているだけで。

Q タイトルを先に決めて書き始められることが多いでしょうか? それとも最後に決めることが多いですか?(27)

A すべては一度にできます。

Q ストーリーを考える時は、どのような順番で組み立てていらっしゃるのでしょうか?(49・女)

A ストーリーは考えません。構造は考えますが。ストーリーないんですよ、僕の小説。ストーリーがあればあらすじが書けるんですが、僕の小説はあらすじが書けないといわれます。

Q 執筆前から、完成後の大体のページ数は分かっていたりしますか?(33・女)

A ページ数が決まっているものはピッタリに書きます。だから枠が決まってないと書けないんですが、書き下ろしって枠がないので困るんですよ。構造優先で進めますが、選び取った素材次第で必要情報が増減します。複雑な構造を選ぶとさらに増えちゃう。ほんとは全部同じ厚さで揃えた方がきれいなんですが、いまさら書き直せないですし。

Q 宗教や文化のことを描くにあたって、どのような調査をされていますか?(15・男)

A 調査とか、取材とかしないんですよ。「ために」する読書ができない。レポートじゃなくて小説なので、付け焼き刃の知識は使えないです。だから知ってることでとりあえず書いて、後であってるかどうか確認して、間違ってたら直すようにしています。今回も、警察法の改正は昭和29年だったよなあ、程度で書いて、書き終わってから施行は七月だとわかって大笑いですよ。作中は二月なんだし。直しました。取材旅行なんかも一度も行ったことがありません。

Q 京極堂と千鶴子さんの馴れ初めの話が読みたくてたまりません。今後描かれる可能性はありますか?(23・女)

A 依頼があれば。依頼されなければ何も書きません。僕は何一つ書きたいものはないのですよ(笑)。

Q 『魍魎の匣』はアニメになりました。シリーズの他の作品や『魍魎の匣』の再アニメ化など、改めてアニメで見たいと思われる作品はありますか? 私は『天狗』をアニメで見たいです。(25・男)

A 面白いアニメにしてくれるんだったら見たいですね。作品は何でもいいですよ。『オジいサン』でも。

Q お酒のお伴で好きなものは?(45)

A お酒は飲みません。好き嫌いは一切ないです。まずいものはまずいなり、うまいものはうまいなり。この世に食えない食いものはない。

Q どうして妖怪に興味を持ったのでしょうか?(42・女)

A 質問に質問で返すのは失礼かと思いますが、ラーメンが好きな人に「どうしてラーメンが好きになったのですか?」と聞いたとして、答えられる人が何人いるでしょう?「食べたから」としか言いようがない気がします。人って、嫌いな理由なら具体的にいくつも上げるんですけどね。

Q 京極先生イチオシの妖怪を知りたいです!(17・女)

A そんな贔屓はできませんって(笑)。お化けに優劣はありません。みんな平等。質問とは関係ないですが、お化けにかかわらず、数値化できないものに順列を付けるのはおかしな行為だと思います。応援するとか愛好するとかではなく、推すのでもなく、〝推し〟という概念の流布にもやや疑問を持っています。

Q 妖怪は人の心が生み出したものであり、事象に名前をつけただけにすぎない、というのは重々承知ですが、「この妖怪が実在したら面白いな」と思う妖怪はいますか?(25)

A 実在したら面白いなというものだけが現在〝妖怪〟として認知されているのでしょうね。でも本当に実在したら、その途端に面白くなくなること受け合いです。

Q 作品を作るときのモチベーションはどのように保っていますか?(45・男)

A 仕事ですからね。モチベーションは関係ないです。納期までに完成させる努力をします。品質を保てるように管理をします。労働対価は頂きます。できればより多く頂きたいとは思います。そうしたありかたが次回の発注に繋がります。それが生活の糧となる。一般の仕事と同じですね。

Q 本のことや執筆のことを考えていない時は何を考えていますか?(42・女)

A ご飯を食べるときは食事のことを考えていて、お風呂に入るときは入浴のことを考えていて、トイレに入るときは排便等のことを考えていますね。眠っているときは何も考えていません。それ以外は仕事をしていますから、基本的に執筆のことを考えているはずですが、たぶん同時に映像ソフトを観ているし、並行して思考や情報の整理整頓をしているんだと思います。

Q 国や宗教の違いで「怪」の姿は変わると思いますが、本質的な部分は一貫するものでしょうか? 根底からの違いが出るものでしょうか?(48・女)

A 国や宗教というより生活習慣や文化、なんでしょうけどね。お化けは文化の上澄みみたいなものだし、恐怖や嫌悪は生物学的な意味合いでは種として共通でしょう。一方「怪」というのは社会の中で認知されるものですからね。何をして本質、根底とするかは立場によって変わってくるでしょうね。

Q 作家になってよかったこと、嬉しかったことはありますか?(55・女)

A 別にないですね。ただ、出勤しなくていいのは助かりますね。寝所から仕事場まで移動するのに30秒から40秒かかるんですが、それも省けたらさらに良い。嬉しかったことも特にないですね。敬愛する作家さんが文学賞を受賞されたりすると嬉しいですが、それは僕が小説家じゃなくても嬉しいでしょうからね。

Q 仕事(オン)と趣味(オフ)の比重はどのくらいが幸福だと思われますか?(40・男)

A 人間は生きてる間はすべてオン、オフは死ぬ時でしょう。仕事と趣味って、経済活動に結び付くか結び付かないかの差ですよね。後は、他律的か自律的かの差です。作業というか、行いとしては大差ないですよ。むしろ幸福は健全な生活、規則正しさと整理整頓によってもたらされるものだと思います。

文=朝宮運河

京極夏彦
きょうごく・なつひこ●1963年、北海道生まれ。94年『姑獲鳥の夏』でデビュー。日本推理作家協会賞長編部門(96年『魍魎の匣』)、直木賞(2004年『後巷説百物語』)など受賞多数。「百鬼夜行」「巷説百物語」「書楼弔堂」など多くのシリーズで読者の絶大な支持を得ている。

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