「君のことを思う人たちがたくさんいる」。子どもたちに14万冊の本が集まる「ブックサンタ」の活動で広がる優しい輪

文芸・カルチャー

PR公開日:2023/12/17

 寄付をしたい人がサンタさんとなって書店やオンラインで本を購入し、家庭の事情などでクリスマスの贈り物をもらうのが難しい子どもたちに本を贈る——。

 2017年からはじまった「ブックサンタ」の活動が、今年で7年目を迎えた。初年度は848冊だった寄付本が、昨年は7万5000冊を突破。6年間のトータルは14万冊を超えている。

 寄付をする人は、どこかでプレゼントを受け取る子どもの顔を思い浮かべながら嬉々として本を選び、寄付された子どもは、「自分だけの本」を手にして本を読むことの喜びを知る。誰もがそれぞれの幸せを享受できるこの活動は、この6年間、どのような道を歩んできたのだろうか。

「ブックサンタ」活動を運営するNPO法人チャリティーサンタの代表、清輔夏輝さんにお話をうかがった。

(取材・文=吉田あき)

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清輔夏輝さん

世の中には本から恩恵を受けてきた人がたくさんいる

——ブックサンタ以前にも、子どもたちに寄付をする活動をされていたそうですね。その頃は、お菓子などの贈り物をすることが多かったとか。

清輔夏輝さん(以下、清輔):チャリティーサンタの活動を始めたのは2008年からです。2015年からは、国内の困っている子どもたちに向けた活動も開始しました。当初、プレゼントはお菓子などを購入したり、企業さんから商品を提供してもらっていましたが、お菓子って食べてしまったら手元に残らないし、食品アレルギーを持つ子どももいます。企業さんからの寄付だと限定キャンペーンになることが多く、年によっては物品が集まらないという不安定さもありました。

 そんな時に、ネパールの山奥の村で、日販(日本出版販売/出版取次)の若手社員さんと出会うご縁があり、本を子どもに贈れば喜ばれるんじゃないかと。本をクリスマスに贈るご家庭が一定数あることを知っていましたし、経済的に困っているご家庭のアンケートで本を求められることもあったので、ニーズは間違いなくある。日販さんのほうでは、書店を魅力的な場所にしたいという想いもあり、「寄付者の方に書店で本を選んでもらう」のはすごくいいアイデアかもしれない、と。

——今では多くの書店が賛同していますが、書店を巻き込むという方向性は、早い段階から決まっていたのですね。

清輔:最初は日販さんの想いが強かったかもしれませんが、私たちも安定して長く活動を続けたい気持ちがありました。最初に手をあげてくださった書店・リブロさんも、始まる前から「ずっと続くものになればいいですね。そしてリブロだけでやるのではなく、さまざまな書店が参加できるようにしていきましょう」と言ってくださっていたこともあり、その方向性でプロジェクトを拡大していくことになりました。

——活動のスタート自体はスムーズだったと。始まってから苦労されたことはありましたか?

清輔:本当にいい取り組みだと自負していましたが、だからこそ、「近所の書店で寄付できない」という声が多かったのはつらかったです。メディアでの露出もほとんどなかったですね…。それでも、リブロさんだけで全国58店舗あったので、「すごい取り組みが始まったな」と期待にワクワクする気持ちのほうが大きかったです。

 本当はいけないと思いますけど…初年度の動きが鈍いとパートナー書店さんが増えていかないので、少なくとも1店舗で1冊は寄付があるように、遠方に住む友達や出張が多い人にお願いして、各地で本を買ってもらいました。

——そうだったのですね(笑)。でも、当時の不安が嘘のように、今年のパートナー書店は1683店舗となり、多くの人が近所の書店で寄付できるようになりました。どんな工夫をしてパートナー書店を増やしてきたのでしょう。

清輔:200店舗までは日販さんのグループ書店で、急激に増えたのはこの2年くらい。「あの書店も参加しているなら、うちも」という認識が書店さんの間で広がってきたんじゃないかと思います。

——3年前までは伸び悩んでいた、ということでしょうか。

清輔:賛同書店の増え方はじわじわだったものの、寄付される本の冊数はどんどん増えていて、取り組み自体はすごく成長していた、という認識でしたね。

——オンラインで寄付された方も多かったのでしょうね。それだけ社会貢献に興味を持つ人が潜在的に多い、ということでしょうか?

清輔:私たちの認識としては、社会貢献に関心があるというより、本から恩恵を受けてきた大人がたくさんいるのではないかと。自分が本に魅力や価値を感じているからこそ、子どもたちにも手渡していきたい。そこまで意図して始めたわけではありませんが、別のものなら、こうはうまくいかなかったと思います。

——プレゼントするのを本にしたことが結果として吉と出たのですね。チャリティーなので運営の大変さもあると思いますが、過去には赤字の危機もあったとか…。

清輔:プロジェクト単体で言うと、始動から3年間はずっと赤字でした。ご存じの通り、書店での売り上げはあっても、僕らのほうに利益が入るわけではないので…。そういう意味では、2020年が転機になりました。クリスマス時季、「ブックサンタ」が毎日新聞など、3つの新聞で一面に掲載されたんです。おそらく、コロナ禍で世の中のイベントが全部なくなり、誌面が空いていたのだと想像していますが…(笑)。この年は、他のメディアも合わせると、11月から12月にかけて全部で33媒体に取り上げてもらえました。これを機に寄付金も増えて、どうにか黒字に転じました。

——新聞3紙で一面を飾るとは…、反響も大きかったと思います。

清輔:そうですね。当時、年間6000冊の寄付を目標にしていたのですが、この年で急遽、1万3143冊と、目標の倍くらい集まりました。前年の2019年は4000冊程度だったので、前年比でいうと3倍くらい。相当増えたなと。これまでは余裕がなく、できるだけコストをかけずに運営してきましたが、次の年また冊数が増えることを考慮して、翌年の2021年から本の在庫を収めるための倉庫を構えました。

ブックサンタ

興味はあるけど関わりがない人に、新しい関わり方を提案

——素晴らしい活動だけに、運の良さもついて回っているような印象を受けました。今年からは、作家が推薦本を教える特別プログラム「作家サンタとブックサンタ」や、出版社と連携した「小学生向け推薦図書リスト」の作成も始まっています。寄付したいけど子どもの本を選ぶのは難しい…という人も選びやすくなりましたね。

清輔:サンタが届ける本というと、絵本の印象が強いようですが、実は絵本ではない小学生向けの本が足りないという課題があったので、小学生に限定したリストを作ろうと。おかげさまで今年は、小学生が好きな児童書などが増えている印象はありますね。図鑑でも、未就学児向けの大きな図鑑だけではなく、もう少し小さいサイズの小学生でも楽しめるような図鑑をよく見かけます。

——「作家サンタとブックサンタ」には、発起人の今村翔吾さんをはじめ、北方謙三さん、湊かなえさん、そして黒柳徹子さんなど、錚々たる顔ぶれが集まっています。

清輔:今村さんが声を掛けてくださった方や、編集者さんから紹介していただいた作家さんなど、たくさん集まっていただいて私たちも驚いています。こちらでも、そんなに多くはありませんが、ブックサンタを通して知り合った作家さんにご相談していました。

——作家さんのファンにとっては飛びつきたくなるような企画だと思います。こうして著名な方の参加が増えることで、さらに「ブックサンタ」の認知度が高まりそうですね。

清輔:はい。興味は示してくださるけど関わりがなかったような方に、新しい関わり方を提案できたのかなと。「作家サンタ」で関わり方のバリエーションを増やしながら、「推薦図書リスト」で寄付の実態を伝えつつ、需要と供給のバランスを整えていく。今年はそれが実現できた年でした。

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