山崎ナオコーラ Interview long Version 2009年9月号

インタビューロングバージョン

更新日:2013/8/19

表紙のまんなかに描かれた、白い、耳の大きな生きもの。これは、うさぎ? いいえ、違います。この子の名前は、モサ。カルガリという妖精の男の子。山崎ナオコーラさんと絵本作家・荒井良二さんのコラボレーションで生まれた、この物語の主人公です。

「中学生くらいのときから、メモ用紙を使って絵本みたいなものを書いたりしていたんです。いまはせっかく作家になれたのだし、あのころの絵本のようなお話を書きたいと思って。そうして出来上がったのが『モサ』なんです」

一見すると、モサはふさふさしていて、なんともかわいらしい男の子。でも、じつはとっても複雑なこころをもった存在。お父さんとお母さんからは〈きらわれている〉と感じていて、スカートをはいているのも世間への〈ただの反発〉から。学校に行けば中学2年生にあたるものの、〈文部科学省に対して違和感〉を抱いて登校していない。自称〈ニート〉だったりする。

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「歳が若いときって、『生きるっのて大変』とか『こんなおかしいことを考えているのは自分だけ?』と思うことがあるけれど、そのひねくれっぽいものを肯定したい気持ちがあったんです。わたしも、学校に行っても、家族といても、うまく折り合えないことがあって、モサと同じように“将来、自分が社会に出るなんて想像できない”と思っていた。でも、そういうとき、いつも本に助けられていたんです。別に“こうしたら生きやすくなる”というようなことが直接書いていなくても、本を読めば違う世界に行けたりできるから。だから、若い人たちにとってそんな本になるようなものを、と考えて、書いていました」

友だちのハリも、星のように降ってやってきた女の子も、妹のミサも、モサのまわりにいる子たちは、みんな他人との距離の取り方を知っている。それで、モサは、いらいらしたり、悪態をついたり、いじわるをしたりしてしまう。

でも、モサは言う。

〈自分がすごく気持ちの悪い生き物に思えるんだ。この世界にある、きよらかな空気や、おいしい肉を、自分みたいな化け物が消費しちゃっていいのかな、って考えちゃう〉

モサのこの感情がよくわかるという人は、多いと思う。人にやさしくすることは、若い人でも、大人でも、すごく難しいことだから。出口なんてないようにも思える自己嫌悪する気持ち、そこに山崎さんは肯定を与える。〈しっとも、いじわるも、なかったことにしないよ〉という、こころから視線をそらさないための、手ぬるくない肯定。

「明るい終わり方をしたい、ということは、最初から決めていたんです。ただ、それだけではなく、キュートな絵を描いてくださった荒井さんや、すべてのページに文章と絵をきれいにデザインしてくださった装丁家の名久井さん、色のひとつひとつにこだわってくださったプリンティングディレクターである甲州さんの力があって、この本はあるんですよ」

「手に取って、ページを開いたときの雰囲気を愉しんでもらえたら」と話す山崎さん。そして、もうひとつ、山崎さんには望みがあるよう。

「ムーミンのことをカバだと思っている人っていますよね。そんなふうに、『あのうさぎってさ』『違うよ、モサは妖精なんだよ』みたいなやりとりが生まれるといいなあって思いますね」