日本人であることが罪になる時代――人種差別の歴史を描き、現在に警鐘をならす小手鞠るいの最新刊『星ちりばめたる旗』

文芸・カルチャー

2017/10/14

『星ちりばめたる旗』(ポプラ社)

 「日本人であることが、罪になる」。そんな衝撃的な文句が帯を飾る本作『星ちりばめたる旗』(ポプラ社)は、1900年代にアメリカへわたった日本人移民・幹三郎と、その妻・佳乃(かの)が端をなす家族三世代の物語だ。まだ人種差別の根強かった時代、真珠湾攻撃によって日米関係に決定的な亀裂が入ったアメリカで、迫害を受けながらも家族はどう生き抜いていったのか。私たちの「今」に決して無関係ではない戦争と人種差別に、著者・小手鞠るいさんは何を想い本作を描いたのか。お話をうかがった。

■人種差別を受けながら、アメリカで生きるしかなかった夫婦の物語

――まずは、本作を書こうと思ったきっかけから教えていただけますか。

小手鞠るい(以下、小手鞠) 戦後の激動を描いた前作『アップルソング』に繋がるものを書きたいと思ったとき、編集者に「日本人移民をテーマにしてはどうか」と提案されたんですよ。確かに、中国系移民を描いた『ワイルド・スワン』や『ジョイ・ラック・クラブ』、アイリッシュ系を描いた『アンジェラの灰』などはあるけれど、日本人移民を描いた作品は、小説としてはほとんどない。だとしたら、今、アメリカに住んでいる私だからこそ書けるものがあるかもしれないなと。

――書かれてみて、何か発見はありましたか。

小手鞠 そうですね……。アメリカにはさまざまな人種が集まりますが、自分たちのルーツについて語る機会はないんです。でも、人にはそれぞれ、世代をまたいだ歴史があるのだということを改めて考えるようになりました。本作では、まず幹三郎が貧しさから脱却するため移住し、その後を、夫の顔も知らぬまま結婚した佳乃が追いかけた。この2人がアメリカの地で出会い、夫婦となったことがすべての始まりであり、今に繋がっている。そういう歴史がどんな人の背景にもあるのだと。

――幹三郎と佳乃の設定は、どのように生まれたのですか。

小手鞠 幹三郎は、男尊女卑の気質が強かった生粋の明治男ですが、その精神性を必死でくつがえし、現地になじもうとした。だけどそれによって財をなしたことで、黄色い猿のくせにとなじられる。だからといって日本に帰ろうと思っても、農家の実家に長男以外の居場所はないし、徴兵されるかもしれない不安を抱えるだけ。だったらアメリカで生き続けるしかないんです。

――日米戦争が始まったあとも、アメリカでも日本でもスパイとして疑われる自分たちの身の上に、幹三郎だけでなく彼の家族全員が葛藤することになりますね。

小手鞠 どこにも居場所を見つけきれないまま道を切り拓いてきた幹三郎にとって、佳乃の存在こそが大きな支えだったでしょう。佳乃もまた、足が悪いせいで諦めていた人生を、幹三郎に愛されることによって救われた。すべての始まりである彼らの通わせた夫婦の愛は、生きていくうえでとても大事だったんじゃないかと思います。どうか頑張ってほしいと祈りながら物語を書いていましたね。

■真珠湾攻撃の裏側で何が起こっていたのかアメリカに生きる人々の目を通じて描きたかった

――アメリカで生きるための努力を重ねた幹三郎の、〈個人的な、良好な関係を結べば、人種差別はある程度は乗り越えられる〉という言葉は、非常に印象的でした。

小手鞠 それは私自身がアメリカに住んでいて感じることで、日常生活で個人同士が接するぶんにはなんの問題もないんですよ。アメリカは、たとえば性別や人種によって雇用条件を限定しないなど、差別を生まないための法律が施行されているし、差別感情をもつことは恥ずべきことだという意識をみんなが社会的に抱いている。もちろん、個人の抱く偏見を完全になくすことはできません。たとえば「黒人がかっこいい」というのも逆差別に繋がる発想ですし、誰しも無意識に他者に優劣をつけてしまうことはあるでしょう。大事なのは、それをいかに恥じて乗り越えていくか。そのための制度が徹底していれば、差別はなくなっていくんじゃないかと私は思ってます。

――でもそれは、裏を返せば、差別をよしとする空気ができてしまうと暴動が起こる可能性もある、ということですよね。

小手鞠 そうです。もともとアメリカには、イギリスで居場所をなくしたアイルランド系の移民が大勢いて、彼らは日系移民が労働力として認められ、家族を増やしながら土地を手に入れていくのを見て危機感を抱いた。自分たちの財や職をすべて奪われてしまうかもしれない、と。普段は隠されている差別意識は、お金や政治・権力と結びついたとき集団の力となって噴出する、と何かの本に書いてありましたが、まさにそのとおりのことが起こったわけですね。

――そして開戦後は、増え続けた日系人が、内部からアメリカ人を攻撃するかもしれないという恐怖心とも結びつき、迫害に繋がったと。

小手鞠 真珠湾攻撃は、まさに運命の分かれ目でした。そこから怒涛のようにアメリカ人の感情は反日に動き、不安を鎮めるために日本人は強制収容されていった。アメリカで生きる人々の目に、真珠湾攻撃はどのようなものとして映っていたのか。日本人でもアメリカ人でもいられない日系移民のアイデンティティはどんなふうに揺れていたのか。そのすべてを、幹三郎たちを通じてアメリカの内側からしっかり描こうというのは覚悟していました。それがこの作品にとって一番の肝であり、私が書く意義だとも思ったので。

【後編】に続く。

取材・文=立花もも