『電波少年』の経験あってこその『大家さんと僕』? あのT部長とのトークイベントでカラテカ・矢部、タジタジ!?

エンタメ

2018/6/12


 専業マンガ家以外の受賞は初という第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞し、オリコン2018年上半期BOOKランキング「タレント本ジャンル」では1位を獲得、30万部を超える大ヒットマンガとなった『大家さんと僕』。作者であるカラテカの矢部太郎さんが、『電波少年』シリーズの生みの親であり、“T部長”として数々の若手芸人を震え上がらせてきたプロデューサーの土屋敏男さんと、新宿の紀伊國屋書店で「芸人初の快挙! 手塚治虫文化賞短編賞受賞記念 『大家さんと僕』大ヒット感謝トークイベント&サイン会~『T部長と僕』なんて絶対描きません~」と題し、爆笑トークを繰り広げました。

土屋敏男
1956年静岡県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、日本テレビ入社。『とんねるずの生でダラダラいかせて!!』『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』など数々の人気番組を演出。現在は一般社団法人1964 TOKYO VR代表理事、東京大学大学院情報学環教育部非常勤講師を務める。2017年、萩本欽一のドキュメンタリー映画『We Love Television?』を監督、撮影で得たエピソードをまとめた『誰も知らない、萩本欽一。We Love Television?』(萩本欽一、土屋敏男、木村俊介/ぴあ)を出版。

矢部太郎
1977年東京都生まれ。東京学芸大学教育学部除籍。高校の同級生だった入江慎也と97年にお笑いコンビ「カラテカ」を結成(ボケとネタ作りを担当)。芸人以外にも個性派俳優としてドラマや映画、舞台でも活躍。気象予報士の資格も持つ。父親は絵本作家のやべみつのり。2017年、初のマンガ作品『大家さんと僕』(新潮社)を出版。同作で手塚治虫文化賞短編賞を受賞、30万部を超えるヒットとなっている。現在『大家さんと僕』の続編を『週刊新潮』で連載中。

■矢部太郎は“才能”ではなく“◯◯”で選ばれた!

この日の会場は若い方からご年配のご婦人まで、なんと観客の約9割が女性! しかし矢部さんは極度の緊張に襲われており、会場を見る余裕は一切なし。司会からマイクを持つよう促されると、なぜか置いてあったコップを手にしてしまい、土屋さんから「芸人だろ!」とツッコミが! 「マイクより先に水飲みたくなっちゃった!」と言うほどの慌てっぷりからトークはスタート。

土屋 まさかね、矢部のトークイベントに呼ばれることがあるとはねぇ。だって「来い」ってことでしょ? で、来たらね、「これからは“矢部先生”って呼んでもらえますか?」と言われて(笑)。

矢部 え? 先生とかないです! 違います! 今回どうしても土屋さんに来ていただきたい、と新潮社の方が……僕はけっこうギリギリまで反対しましたけど!

土屋 反対したのかよ!(笑)『大家さんと僕』、なんかすごい売れてるんだって? あ! 30万部突破だって!

すると担当者から「新潮社で今一番売れている本です」と紹介があり、会場がどよめきに包まれます!

土屋 新潮社、大丈夫か?(笑) いやぁ、本の危機はここまできているのか、と。しかも手塚治虫文化賞!

矢部 ありがとうございます。天国の手塚先生も……

土屋 怒ってらっしゃるでしょ?

矢部 いやいやいや! 読んでいただきたいですねぇ、手塚先生にも。それでこのマンガが描けたのが、土屋さんのおかげなんじゃないかっていう噂があるんですよね。

ここで『大家さんと僕』の第1話冒頭、矢部さんの自宅マンションで過激な番組ロケが行われた結果、引っ越しを余儀なくされ、そこで見つけたのが、1階に大家さんが住んでいる今の物件であることが紹介されますが、実はこの番組のプロデューサーが土屋さん。

土屋 うん、そうだね。だから、僕のおかげで30万部があるんだよね?

矢部 いや、おかげなんじゃないですよ! 土屋さんの「せい」なんですよ!

土屋 ということは、少なくとも15万部くらいの印税は、僕がもらってもいいってことでしょ?

矢部 いやいや、どういう計算なんですか! 土屋さんのせいで引っ越した、っていうのは認めますけど! まあでも実際、僕も土屋さんに恩は感じてたので……

2人の出会いは今から17年ほど前。当時『進ぬ!電波少年』のプロデューサーだった土屋さんは、芸人の坂本ちゃんが挑戦した企画「電波少年的東大一直線」が2001年春に終わったものの、住み込み用アパートの更新がまだ先であることから、この部屋を使った新しい企画を考えたそう。

土屋 ダウンタウンの松本人志がやった「電波少年的松本人志のアメリカ人を笑わしに行こう」という企画があって、それが上手くいったから、じゃあ次はアメリカ人に似たやつ……アフリカ人を笑わしに行こう、って思いついて。それで芸人をさらっていくときに、すれ違いざまに抱えて走る、という絵が浮かんだんですよ。で、抱えるために一番軽いヤツを探したら……コイツだったんです。だから面白いわけでもなんでもなくて、軽いだけで選んだんです!

矢部 そうなんですか! 松本さんの企画の後だから、その才能を継ぐ男ということかと……

土屋 だって体重何キロ?

矢部 39キロです。

土屋 そんな軽いの、芸能界にいないんですよ! あとは子役ばっかりで。

矢部 プリンセス天功さんも同じくらいですけど!(会場爆笑)

土屋さんに連れ去られた矢部さんは、アパートでひたすら語学習得を目指す姿を映される「電波少年的アフリカ人を笑わしに行こう」に出演。これによって「矢部太郎」の名は一躍全国区に。この企画では毎回食事の前に会話テストがあり、正解できないと飯抜きになるという過酷な内容で、「アフリカ人」に続き、「モンゴル人」「韓国人」「オランウータン」「コイサンマン」とシリーズ化。これがあって、矢部さんは土屋さんに頭が上がらないのです。

土屋 皆さんご存知だと思いますけど、有吉弘行っていますでしょ? 有吉って元猿岩石ってコンビで、香港からロンドンの「ユーラシア大陸横断ヒッチハイク」を『進め!電波少年』で放送したのはたった半年なんですよ。それなのにあんなにスターになる。こいつ、6、7年『電波少年』出てるんですよ? それでスターにならないって、どういうことだよ! それが今になって30万部って!

矢部 だからホント長い付き合いなんですよ~。

土屋 意固地なまま売れずにきて、ここで手塚治虫文化賞ですよ。いやあ、だから人生諦めちゃいけないですね。どこに才能があるかわからない!

■『電波少年』の頃は、矢部のこと好きでもなんでもなかったでしょ?

実は矢部さん、これまでの土屋さんからの数々のムチャ振りを訴えよう!という強い思いを抱いて、今日のイベントへ来たことを明かします。土屋さんが引っ越しでいらなくなったものをすべて部屋にブチ込まれたり(その荷物はまだ矢部さんの部屋にあるそうです)、モンゴル人の家族と同居生活を送ったり(高血圧なモンゴルの方がエアコンの設定温度を18度にするのが、寒がりの自分にとって一番辛かったと吐露)などなど、これまでのT部長による所業が明らかにされるたび、会場からは笑いと悲鳴が!

土屋 あのー皆さん、『電波少年』をご覧になってた頃は、矢部のこと好きでもなんでもなかったでしょ?

矢部 あはは(笑)。

土屋 まさかそんな自分が、10何年後に矢部の本で好きになっちゃうなんて、そんな自分を想像できました? できないと思うんですよ!

(会場の皆さん、しきりにうなずく)

矢部 あ……、うなずいている方いらっしゃいますね……

土屋 だから人生何が起こるかわからない、っていう。

矢部 まさか僕もマンガ描くなんて思ってなかったです。

しかし「電波少年的◯◯人を笑わしに行こう」シリーズでは、部族の方の似顔絵を描いたり、すでに絵でコミュニケーションを取っており、現在の片鱗を見せていたという矢部さん。

矢部 糸井重里さんと対談したときに「そういうのやってたよね」って言われて、思い出したんです。

土屋 糸井さん、変なところ覚えてるんだね。あ、そういえば汐留でも描いてたよね? 似顔絵を描いて、集まったお金を全部ギャンブルに突っ込むという……皆さん、マンガを読んでほのぼのとしているかもしれないけど、コイツ、とんでもない男なんですよ!

矢部 いやいや! 土屋さんがやらせてたんじゃないですか! 似顔絵も相当描かせてもらいましたよね。1枚1000円で、50万円くらい集まったんですよ。だから500枚くらい描いたんですね。なんでそんなにお金が必要だったかっていうと、土屋さんから借金してたんですよ。

土屋 そうだ、借金! ひどくないですか? プロデューサーから芸人が借金するって!

矢部 あの、それは……企画で100万円を僕に持たせるっていうのがあって。

土屋 違う違う。1000万円持たせたんだよ!

矢部 あ、1000万でした!

(会場からは「えーっ」という驚きの声が)

土屋 透明の袋に鎖を付けて、1000万を持ち歩くっていうただそれだけの企画(※)なんですよ。そしたらコイツ、途中で使いやがったんですよ、100万くらい。しかもそうだ!……因縁だなぁ、ここ(新宿の紀伊國屋書店)の前のグッチじゃない? この男がですよ! 似合いもしないこのヒョロヒョロの男が、グッチの店員にいいように言われて!

※……矢部さんが番組の収録に遅刻したので、1000万円を透明のビニール袋に入れて街を歩く、という罰ゲーム的な企画だった。

矢部 あー、そうですね。グッチだ! 1000万持ってたら、グッチの人が挨拶してきたんです。それで「あー、どうも」って店へ入って行って……100万、すぐ行っちゃうんですよ、グッチだと(笑)。飲み物も出してもらいましたよ!

土屋 知らねぇよ!(笑) それで100万返せよって言ったら、「ないです」って。

矢部 だから「グッチで買った服あげます」って言ったじゃないですか!

土屋 お前のサイズなんか着れるわけないだろ! それで、じゃあお前の得意な絵で返せよってことになって、似顔絵を描かせたんです。でも結局足りなくて、その金を持って韓国のカジノへ行って賭けたんです。そしたら……案の定負けたんですよ。スッテンテンになった。

矢部 良くないですね。邪心があったから。そのとき、土屋さんは僕の逆に賭けてたんですよね?

土屋 そう。こういうときに賭ける人間は邪だから、逆を張れば勝てるだろうと。だから僕は同じ額賭けて、倍になって返ってきました。

矢部 だからそれで借金は無事返済されたんです!

土屋 返済されてないだろ! 俺の金だよ!

矢部 いえいえ、そのときにキレイに返済しております、ありがとうございました……土屋さんが来たらこういうふうになるのがイヤだったんですよぉ!(笑)


■『電波少年』の経験あってこその『大家さんと僕』?

T部長からの数々のムチャ振り企画をこなしてきた矢部さん。実は『電波少年』シリーズが終了する際に、土屋さんからあることを言われたそうで……

矢部 『電波少年』が終わったときに、土屋さんが僕と相方の入江(慎也)くんをステーキに連れて行ってくれたんですよ。そこで「番組で一回も逃げなかったのは、お前が初めてだ」って言われて。これって土屋さんからしたら最大級の褒め言葉ですかね?

土屋 口止め料だね(笑)。まあでも『大家さんと僕』もね、矢部がずっとそこに居続けることで描かれたマンガという意味ではね、そうでしょうね。

矢部 あのときアパートに缶詰になって勉強したことで、集中していろんなことができるようにはなったと思うんですよ。だから気象予報士の勉強もできたし、マンガもひとりで描けるんですよね。

土屋 あのときのアフリカ人を笑わしに行ったりとかしたことで、苦じゃなくなったと?

矢部 もしかしたら、うーん……あんまり認めたくはないですけど、それはあるかもしれないですね(笑)。ひとつのことをやるのが好きになったと思います。僕は2、3個やることがあると、ちょっとテンパっちゃうんですよ。

土屋 だからホントに矢部太郎って、それこそ、知ってる人ってけっこういると思うんですよ。でもねぇ、テレビタレントとしては本当に大成しなかったですよね。

矢部 過去形で語るのやめてくださいよ! これからもやって行こうと思ってますから!

土屋 もういいでしょ? もうこんなに売れたら?

矢部 いやいやいや! やりますよ!

土屋 今でも緊張すると、股間握るの?

矢部 股間は握りますねぇ。でもマンガは握ってても大丈夫なんですよ! 家で握りながら描けるんですよ!

(会場失笑)

土屋 これ、握りながら描いたって知ったら、買うのイヤになっちゃいますよね?

矢部 でも手は逆ですよ! 描いてる手と、握ってる手は!

土屋 バカヤロウ!(笑)

■次回作は『土屋さんと僕』をアノ雑誌で連載?

土屋 昔の話をいろいろとしましたけど、結構話はあるんですよ。だから『土屋さんと僕』っていうマンガをね……

矢部 読みたい、って声が……土屋さんも絵、描けるんじゃないですか?

土屋 描きましょうか?(笑) あ、じゃあ原案でいいですよ。印税70%くらい? どうですか、新潮で?

矢部 取りすぎでしょ! でも土屋さんとは、ほっこりするエピソードが皆無なんですよ。

土屋 『大家さんと僕』に対してハードボイルドでね。だってライオンも出るし、オランウータンも出る。だから2、3冊は描けるよ?

矢部 そんなに! ハードボイルドだから、連載は『週刊新潮』じゃなくて『BUBKA』とか『実話ナックルズ』とか、ちょっと媒体選ばないと! それだったら可能性あるかもしれないですね!(会場爆笑)

土屋 しかし30万部ってねぇ。まだまだ伸びてるの? でもこういうイベントやるってことは、まだまだ伸ばそうっていう気があるってことだもんね。ニコ生も中継してるし。今日はこの後サイン会なんでしょ?

矢部 はい、今日は手塚プロとのコラボで、こういうスタンプを押します!

ここで手塚治虫文化賞受賞を記念して、『大家さんと僕』と『鉄腕アトム』がコラボレーションした特別なスタンプが初披露。しかしまだ焦っているのか、矢部さんはスタンプ面を会場に見せ、「そっちだと絶対に見えない……」と新潮社の方を慌てさせていました。

土屋 大家さんと僕の間に鉄腕アトム……これ無許可じゃまずいんじゃないの?

矢部 許可いただいてますんで! ご厚意で。まさか僕がこんなことになるとは思わなかったですねぇ……

土屋 草葉の陰でね、今ごろ舌打ちしてるよ! 「お前にやるために作った賞じゃねぇよ!」って。

矢部 なんていうか、今日は思ってた感じじゃない展開で……あれ~、なんかおかしいなぁ、受賞おめでとうみたいな話になるじゃないかなと思ってたんですけど、ほぼそうならなかったと。でも……ありがとうございました(笑)。

土屋 矢部がどんな形で世の中に売れるのか、まあそんなことないんだろうなってずっと思ってたんですけど、ホントに新潮社の酔狂な人たちのおかげでこんなことが起きて。やっぱりいろいろと諦めちゃいけないな、ということを改めて思った次第です。そして『土屋さんと僕』、乞うご期待!

矢部 『実話ナックルズ』で!

土屋 『BUBKA』でね(笑)。

この後行われたサイン会では、土屋さんが自著にサインをしながら「矢部と並んでサインするなんてなぁ」と言うと、矢部さんは「異常な光景ですよ!」と返すなど、最後までイジられっぱなしの矢部さんでした。


取材・文=成田全(ナリタタモツ)