50曲入りのComplete Box発売!「内田彩、きっかけの10曲」インタビュー(前編)

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更新日:2018/7/24

 1stアルバム『アップルミント』から、最新シングル『So Happy』までに内田彩が積み上げてきた楽曲は、49曲。そこに、TVアニメ『百錬の覇王と聖約の戦乙女』オープニングテーマになっている新曲“Bright way”を加えた、50曲入りの『AYA UCHIDA Complete Box ~50 Songs~』がリリースされた。最初は戸惑いもありながら始まった内田彩の音楽は、すべての楽曲に深く思い入れを注ぐ聴き手を次々に増やし、そのことが彼女の自信にもつながって、豊かな表現へと進化を遂げてきた。50曲入りのComplete Boxは、その過程と現在の充実ぶりを示す、とても聴き応えのある3枚組アルバムになっている。今回は、2014年11月に歩みを始めた内田彩の音楽活動における「きっかけの10曲」をセレクト。そのうち5曲と、まさに今佳境であるワンマンライブツアーの一発目、パシフィコ横浜公演について語ってくれた、インタビュー前編をお届けする。

今は、みんなと対等な関係になってるなって思う

――今まさにツアー中ですけど、一発目のパシフィコ横浜公演が衝撃的に素晴らしかったです。

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内田:やったー!

――まずは、パシフィコのステージを振り返ってもらえますか?

内田:なんか、始まる前は「どうしよう?」って思ってたんですよ。「えー、もう明日じゃん。どうしよう、やだやだ、できるかなあー」って(笑)。そんな感じだったんですが、当日余裕を持って会場入りさせていただいて、皆さんといろいろ話したり、おかゆパーティーしたりして(笑)、ちょっとずつ心が会場に馴染んでいき。「ここ、こうやってみたらいいんじゃなかろうか」みたいなアイディアがリハーサルで生まれてきて、「やっていいですか」って聞いたら「いいよ」って言ってもらえて。今までになかった、始まる前のちょっとした余裕があったかなあ、と思います。

――観ていて、すごく自由になった感じがしたんですよ。ハプニングがあったとしても、それも全部ありにしてしまうような自由さがあったし、緊張感はありつつ、それはわりと前向きなものになってるんじゃないかな、と。

内田:それはありました。いい意味で力が抜けていたというか。パシフィコはけっこう広いし、ホールだから、ショウ的な感じで魅せなきゃいけないのかなあって思ってたんですけど、始まってみたら対目の前のお客さんでやっていけば全然いいやって思って。あとは、自分のペースでできたのも大きいのかなあ、と思いました。「次これやらなきゃ、あれやらなきゃ」というよりは、最初から言いたいことを言って、やりたいことをやって、駆けまわって、好きなようにできたのもよかったのかもしれないです。

――“Close to You”を歌う前のMCも、とても印象的でした。目の前のお客さんに届けるんだっていう明確なメッセージが伴って歌われると、より深くささってくるなあ、と思って。

内田:今回は、みんながたくさんきてくれていて、幅広いみんなのことを歌えたので。ツアーの始まりで、ライブも久しぶりだったので緊張していたけど、「ここでよかったんだ」みたいな、“Close to You”の歌にこもっている安心感とか、みんなが照らしてくれている明かりが、「ここが帰ってくる場所なんだよ」って言ってくれてる感じがして、目の前にいるみんなにそのまま渡せる言葉で歌詞が紡がれていたので、「今の状況にこの曲はぴったりだな」と思いました。

“アップルミント”に、《もう もうずっと前から始まってた》っていう歌詞があるんですよ。で、“Close to You”にも《君の隣が私の場所だって/最初からそう決まってた》っていう歌詞があって、すごく沁みるなあ、と歌いながら思っていて(笑)。ライブ前に「いやだいやだ」とか言ってみたり、不安もありつつも……なんていうんだろう、結局、歌ってたらこういう気持ちになれる日がきたんだろうな、と思って。“Close to You”は、みんなのことが思い浮かぶ曲だったので、すごくいい感じでした。いい感じでしたっていうと変なんですけど(笑)、ちゃんと気持ちを込めて歌えた気がします。普段言葉では恥ずかしくて言えないことを言えるのは、歌のいいところだなあ、と思います。

――音楽活動初期のライブだったら、なかなか表現できなかった気持ちですよね。

内田:そうですね。言葉でも言えなかったし、やっぱり心からは思ってなかったような気がします。それを、心からしみじみと思えるようになったのかもしれないですね。最初は自分でいっぱいいっぱいで、みんなが頑張れって言ってくれて、「うん、頑張るね」っていう感じだったんですけど、今はみんなとすごく対等な関係になってるなって思います。

――これまではどういう関係だと思ってたんですか。

内田:応援してくれて、わたしが頑張って作ったもので楽しんでもらわなきゃ、みたいな感じでした。「みんなが楽しんでくれるようなものをやらなきゃいけないんだ」って思ってたんですけど、今は逆というか、「意外とこれはもう対等だぞ」っていう。

――それもやっぱり、いいライブを一緒に作ってきた歴史があるからこそ、ですね。

内田:歴戦の勇者たちっていう感じ (笑)。いろんな曲があるから、あまり歌えない曲もあるけど、毎回アレンジとかを変えることによって、変なマンネリはしてないと思うし、一個一個の曲をみんなも楽しんでくれてる感じがします。ライブの感想のお手紙を読んでいても、「いつ行っても、どの角度から見ても楽しめます」って言ってくれる人がいたりするので、嬉しいなって思います。

自分から湧き出てくる気持ちを声にして、言葉にして出す仕事が天職なんだなあ、それが大好きなことなんだなあ、と思う

①アップルミント(1st FULL ALBUM『アップルミント』収録)

――今回のリリースは今まで発表してきた曲をすべて収録した『AYA UCHIDA Complete Box ~50 Songs~』ということで、50曲それぞれによさがあるし、ファンの方もみんなそう感じてると思うんですけど、その中でも特に何かのきっかけになったと思われる10曲について話を聞いていきたいと思います。

内田:いいですね~。

――①“アップルミント”。これは始まりの歌であるし、今もみんなこの曲が大好きだと思うんですけど、発表してから4年近く経ってみて、改めてどういう存在だと感じているか、聞いてみたいです。

内田:心身ともに、だいぶ育ったなあっていう感じです。きっとみんなの中でも、「これがデビュー曲なんだ」みたいな感じがあると思うし、ライブでの感じ方はそれぞれ違うとは思うんですが、やっぱり盛り上がることは間違いなく。最初はほんとに初々しくて、大切な曲ではあったんですけど、最近はちょっと頼もしくなりつつあり――いや、とっくに頼もしくなってて、最近はもうご隠居みたいな(笑)。

――隠居させちゃダメ(笑)。殿堂入りみたいな?

内田:そう、殿堂入りみたいな感じです。「そこにあるもの」みたいになった感じがします。最初は曲数も限られていたし、“アップルミント”がフレッシュさと盛り上がりと想いの原点、みたいな感じでした。それから、「新たな今のわたし」みたいな曲ができたり、みんなへ気持ちを届ける曲ができていったんですけど、“アップルミント”でポンって生まれた気持ちがどんどん広がっていった曲がいっぱいあるし、どの曲も“アップルミント”から成長してきたんだなっていう感じがします。“アップルミント”を大事にしてくれている人が、また別の曲にも思いを馳せるようになったり。“アップルミント”は内田彩のまっさらな大地に芽吹いたことにより始まった、始まりの種、みたいな感じですね。

――たまに、自分の曲にちゃんづけをする人がいるじゃないですか。“アップルミント”の場合、完全に「さん」をつけるべきですよね。

内田:“アップルミント”さん!(笑) 確かに~。最後の締めにも使えるし、序盤の駆け出しにも使えるし、折り返しの盛り上げにも使えるし。やっぱり素晴らしい“アップルミント”さんです。

②Breezin’(1st FULL ALBUM『アップルミント』収録)

内田:“アップルミント”と同時期発表で、初夏の風がさーっと吹いていくような2曲だったはずなのに、“アップルミント”さんとは……“Breezin’”はちゃんでいいかな。“Breezin’”ちゃん(笑)。

――(笑)初期にやってた頃と今とで決定的に違うのは、お客さんが合いの手を入れる場所の数ですよね。もはや息を吸う場所がないというか。

内田:ない(笑)。この曲は、一番楽しいかもしれないですね。めっちゃ疲れてても、この曲が始まると「うわあー」ってなっちゃいます。「やらなきゃ、疲れてる場合じゃないぞ」って。力が沸きますね。“Breezin’”ちゃんはまだまだ現役でどんどん伸びてるし、よりフレッシュになってる気がします。“Breezin’”が今みたいな曲になっていなかったら、“キリステロ”とかもやれると思わなかったかもしれないですね。一緒に盛り上がれて、みんなが参加できる部分がたくさんあったし、“Breezin’”は最初からすごく楽しい曲で、それは後々のライブ感につながってます。

――まさに、ライブにおいてお客さんのテンションをブチ上げるツートップが“Breezin’”と“キリステロ”ですよね。これもある意味象徴的というか、リード曲でもシングル曲でもないのに、ライブで歌われるうちにぐんぐん育っていった曲たちで。

内田:育ちましたね~。この間のライブも、“Breezin’”でわたしがやったKのポーズについて、すごい書かれてて(笑)。「うっちー、相変わらずKを逆にやる」みたいな。「マイクを左手に持ってるから、逆になっちゃうのは仕方ないんだよ!」って思いました(笑)。次はちゃんとやります。”Breezin’”は、ライブを重ねるごとにどんどん変わっていくのが楽しいですね。

③ピンク・マゼンダ(1st FULL ALBUM『アップルミント』収録)

――“ピンク・マゼンダ”、ファンの人たちからものすごく人気みたいですね。

内田:わたし、4年前は「この曲が好きだ」って言われても、なんでなのかわからなかったんですよ。ただ「歌うのが難しかったよぉー」っていう感じだったんですけど、こんなに愛される曲になるなんて、ほんとに想像してませんでした。

――当時言ってたのは、1stアルバムの中で一番苦戦したのがこの曲だったっていう。

内田:そうなんですよ、難しくて。どうやって歌ったらいいかわからなかったです。

――今、ライブで歌うときはどうなんですか。

内田:いやあ~、楽しいですね。自分が一番、曲の展開と空気感を楽しんでるかもしれないです。歌の世界に一番入っているのはこの曲なのかも。今でも歌うときは毎回めちゃくちゃ楽しいです。全然タイプじゃなかった人を大好きになっちゃった、みたいな(笑)。自分のこの感じをどう操ろうかな?みたいなところを一番楽しめるのが“ピンク・マゼンダ”かもしれないです。変に考えず、普通にしゃべってるくらいの感じで始まって、自分から出てくるものを一個一個楽しめている感じがします。やっとわかったんですよ。最初は全然わからなかったんです、「なんでみんな、そんなに好きなの?」くらいに思ってたんですけど。

――これは自分のイメージですけど、それこそ“ピンク・マゼンダ”は「内田彩が持ってるもの」を一番表現できている曲だと思うんです。

内田:わーお。でも、確かにやっと、ここ1年ちょっとくらいで、わたしのものになってきた感じがします。今は自信を持って、これはわたしのものですって言えるようになりました。

――そんな“ピンク・マゼンダ”の呼称は?

内田:呼び捨てで(笑)。

④Blooming!(2nd FULL ALBUM『Blooming!』収録)

――“Blooming!”の頃、内田さんは音楽活動について「吹っ切れた」という言葉を使ってたんですよ。最初、『アップルミント』の頃は楽しんでいるけれども、音楽活動を始めること自体に不安もあった。それがほどけていく途中にあったのがこの“Blooming!”で、だからこそ育った曲になったのかな、と。

内田:すごく育ってますね。懐が深い曲なんです。音域も下から上まで使うので、歌っていて楽しいし、力強くもあるし、解放感もあるし。あとは、みんなと一緒に歌うみんなの曲、みたいなところもあって。ライブでやると、もう生き生きとキラキラとしてる曲ですね。

――みんなの曲、とは?

内田:みんなの笑顔が咲いてる、みんなが咲いてる曲なので、自分の曲というよりはみんなの曲なんですよね。みんなのことを歌っている曲というか。《カラフルな花/いっせいに咲き誇った》っていう歌詞があるんですけど、もうみんながカラフルな花で、「咲き誇ったね、うん、OK!」みたいな。そういう、「みんなの歌」みたいなところがあって。それは年々強くなっている感じがします。

――いい感じで育ったし、もはや育てることをお客さんに委ねた感じもあるというか。

内田:そうかもしれないですね。わたしが頑張って伝えなくても、もう笑顔の花が咲いてる、みたいな。発声練習も兼ねてマイクチェックをするときは、この曲を歌わせてほしいってけっこうお願いするんですよ。あまり考えずに歌えるから、安らぎますね。考えてるうちに歌詞を間違いそうになっちゃう曲とかもあるんですけど、これはばーんって歌っても、歌えちゃうんですよね。なんでだろう?

――歌うときにまったくプレッシャーがないから、とか?

内田:確かにそうかも。そして、みんなの歌だからかもしれないです。自分の気持ちを強く伝えるというよりは、「そうだね、咲いたね、そうだよ」っていう。ほんとにそういう曲なんです。

⑤妄想ストーリーテラー(2nd FULL ALBUM『Blooming!』収録)

――この曲を選んだのは、2016年8月の日本武道館公演の1曲目だったから、です。まずは、物語というキーワードがあるこの曲を1曲目に選択したことについて聞きたいです。

内田:“妄想ストーリーテラー”って、武道館以来ライブで歌ってないんですよね。そう考えると、また急に歌いたくなってきました。逆に、この曲って、ある種の特別なきっかけがないと歌えないのかもしれないんですけど、武道館の1曲目としては、最初から「もうこれはここでしかないでしょ」っていう感じになってたんです。展開も含めて全部がうまくハマッていて、衣装もこの曲に合わせて羽がついてたりしたんですけど(笑)、真っ白な衣装に真っ白な羽がついていて、その後でどんどんカラフルになっていって。あのときのためにあったといっても過言ではない曲になってますね。こういう曲は最近歌ってないから、またやりたいなあって、今すごく想いを馳せてしまいました。

――武道館から2年近く経ちますけど、あのライブ以降変わったことって何でしたか?

内田:ほんとに変わりましたね。楽しかったし、生き生きとしてる自分も感じたし、当日は体調やのどのこともあって、「限界かもしれない」って思ってたんですけど、全然できたし(笑)。そう考えると、演じることもそうですけど、自分から湧き出てくる気持ちを声にして、言葉にして出す仕事が天職なんだなあ、それが大好きなことなんだなあ、と思います。それで褒められたり、喜んでくれる人がいるということは、実は自分にすごく向いてたり、自然にできたりすることなんだなって、武道館のステージ上でめちゃくちゃ感じて。武道館という場所がそうさせてくれたのかもしれないですけど、「あ、いいんだな」って思いました。「わたしはこれで生きていけるかもしれないな」「自分がこうやって生きてるって、いいことだなあ」って、すごく思いましたね。今やってるってことは向いてるんだ、わたしにはこの状況がすごく適してるんだな、と思ってました。

――ステージ上では、すごく冷静だったんですね。

内田:ほんとに「できないかも」って思ったり、途中で声が出なくなるかも、無理かも、歌えないかも、体力もたないかも、とかいろいろ考えてたんですけど、大丈夫だったし、逆に生き生きと走り回ってすごく楽しかったです。自分にとってイヤなことだったり、向いてないことだったら、きっと声が出なくなったり、倒れてたり、心が折れてたりしたんだろうな、と思うんですけど、むしろ「もっとやりたい」って思ったくらいで。終わった後の方が元気だったし――武道館で、スイカ割りまでして(笑)。それってやっぱり、いいことなんだろうなって思ったし、生かされてるなって思いました。

――いいですね、生かされてる。

内田:生かされてる。「この場所が、わたしを生かしてくれてるな」って思いました。

インタビュー後編に続く

取材・文=清水大輔