6年目の音楽活動を前進させる、温かくて強い「意志のチカラ」――井口裕香インタビュー(前編)

エンタメ

2019/3/8

『とある魔術の禁書目録Ⅲ』 (C)2017 鎌池和馬/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/PROJECT-INDEX Ⅲ

 声優・井口裕香の通算11枚目のシングル『終わらない歌』と、同じく12枚目となる『おなじ空の下で』。自身初の2枚同時リリースとなったこれらのシングルは、2013年に音楽活動をスタートし、5周年を経た「表現者・井口裕香」の歩みが確かな手応えとして伝わってくる、充実の内容になっている。インタビュー前編では、自身が演じるインデックスの心情を織り交ぜながら、包み込むようなやわらかさ・温かさを表現した『とある魔術の禁書目録Ⅲ』の主題歌“終わらない歌”を中心に話を聞いた。アニメ盤/アーティスト盤に収録された3曲から感じられるのは、「少しずつでも前に進んでいこう」と誓う意志の力。立ち止まることなく、ゆっくりだが着実に前進してきたからこそ見えてきた景色とは――?

5周年でもらった気持ちや経験を糧にして、わたし自身の意思も強く出していきたい

――11枚目のシングル『終わらない歌』は、アーティスト盤とアニメ盤を含めて、新曲が3曲収録されているわけですけど、その3曲の充実ぶりがすごいな、と思って。井口さん的にも、とても手応えがあるんじゃないですか。

井口:そうですね。まず“終わらない歌”は、引き続き『禁書目録』のエンディングテーマとして歌わせていただけるのですごく嬉しかったですし、(前作の)“革命前夜”とはまた違って、力強さよりも包み込むような優しさを出せたら、と思っていました。カップリングの“timid”は、だいぶ以前から(作詞・作曲の)渡辺翔さんが仕上げてくださっていた曲です。ほんとに素敵な曲で、『禁書目録』にもあてはまるし、わたしにとっても等身大で歌える曲なので、すごくしっくり来ました。もうひとつのカップリングの“Turning Point”は、今のわたしが好きな曲の雰囲気に挑戦していて。普段はハウスっぽい曲が好きなんですけど、いきなりそっちに振りすぎちゃうと聴き手もびっくりしちゃうし、わたしも歌いこなせないし、ライブでゴリゴリに踊らなきゃいけなくなっちゃうから(笑)、「ノリのいい曲を一度やってみましょう」ということで、曲選びからやらせてもらいました。

――前作の“革命前夜”は10枚目のシングルにして最高の聴き応えを感じさせる1枚だったけど、『終わらない歌』の3曲はそれをさらっと超えてきた感じがありますよ。

井口:ほんとですか? ありがとうございます。“終わらない歌”はもう……終わらないかと思いましたよ!(笑)。歌い方を定めるまでに、ちょっと時間がかかりました。キメるところでお腹から声を出す感じで力強く歌うと、せっかく曲の持つ雰囲気が壊れちゃうし、だけどなるべくふわふわするのも違うな、と思っていて。歌詞自体は未来に向けて輝いている内容なので、レコーディングのときは、その光の場所を定めるのにすごく時間がかかりました。

――ミニアルバム『Love』以降の井口さんの歌はさらに進化していってると思うんですけど、今回さらに成長曲線に角度がついた感じがあって。すごく時間がかかったというエピソードも、いろいろ探して試せるくらい、井口さんの中に引き出しがあるということなんじゃないですか。

井口:確かに。そうだといいな、と思います。“終わらない歌”は、曲の持つ温かさや、包み込むような柔らかさを意識して歌いたいと思っていたけど、それもやっぱり『Love』の制作で自分自身と改めて向き合ったからこそ、出せたものだと思います。5周年を迎えて、いろんなことをやらせてもらったきたからこその楽曲だと思います。

――長年インデックスを演じてきた身として、包み込むようなやわらかさを歌で表現できるのは、とても嬉しいことだったんじゃないですか。

井口:そうですね。アニメ本編を観てくださっている方には、冗談で「インデックスちゃん、出てこないですね」って言われるたりして、以前はそれでやきもきしたこともありましたけど、やっぱりインデックスは当麻のことをずっと思いながらおうちで待っている子だし、当麻とインデックスの絆もどんどん強くなっていて。インデックス自身が、焦ることなく、帰ってきたら素直に「お帰り」って言える子になっていってるので、彼女の成長をアフレコで見守ることができるのも幸せだし、こういう楽曲に出会えることも幸せだな、と思います。井口裕香として、今までにいろんな楽曲を歌わせてもらってきて、こういうやわらかい曲がわたしの声にしっくりくるんだなって、改めて再確認できました。

――歌詞を受け取ったとき、グッとくるものがあったんじゃないですか?

井口:作詞のzoppさんはこれまでのアニメを観て、今期のシナリオも読んでから書いてくださっているので、離れていても当麻とインデックスの絆は確実なものなんだって感じられる歌詞になっています。同時に、歌詞を読んで「インデックス、後半もあまり出番ないのかな……」って、ちょっとしゅんとなったりはしましたけども(笑)。でも、インデックスのことが書かれた歌詞でもあり、井口裕香としても気持ちを込めて歌える楽曲だな、と思いました。

――歌詞の中に出てくる《光れ》《叫べ》という、ちょっと強めの言葉が印象的でした。歌の主人公が自分自身を奮い立たせつつ、曲を受け取った人の背中を押してくれる言葉でもあるのかな、と。

井口:うんうん。それもあって、本当はその部分を強く歌いたかったんです。でも、ただ声を張り上げるだけだと聴き心地がよくない感じになってしまうので、レコーディングでも完成形に至るまで試行錯誤した部分ですね。

――《君がいれば 自分らしくいれる》《1人じゃやだ 叫べ 終わらない歌》あたりは、それこそインデックス感がありつつ、とても井口裕香的なフレーズなのかな、と思いました。それこそ1stアルバムの『Hafa Adai』に入っていた“キミのチカラ”のような趣があるというか。ただ、《1人じゃやだ》で終わらないのが、この曲のいいところで、最後には《1人じゃない》と宣言している。なんというか、「“キミのチカラ”2019」みたいな感じがしたんですよ(笑)。

井口:ははは。ここにもまた“キミのチカラ”が(笑)。

――『Hafa Adai』と、2ndアルバムの『az you like…』を経て、井口さん自身の気持ちはすごく前に向かって進んでるじゃないですか。そのことを象徴するような曲だなって思います。

井口:そうですね。足踏みをしていないで、ちょっとずつでも前に進んでいってる感じは、“終わらない歌”からも感じられますしね。歌詞を書いてもらうだけじゃなく、わたし自身も言葉にできたらいいんですけど、なかなか作詞は難しく(笑)。でも、書いてもらった歌詞から受け取ってもらえるのはすごく嬉しいですし、少しでも聴いてくれる人たちの背中を押せる曲になっていたらいいな、と思います。デビューシングル(2013年の『Shining Star-☆-LOVE Letter』)は『禁書目録』の劇場版のイメージソングで、当時は進みたいけど足踏みしている感じの歌だったけど、“終わらない歌”は前に進んでいるし、包み込む優しさも出てきているところがあって、インデックスとわたし自身を感じる気がします。

――役にしても音楽にしても、「井口裕香は継続の人である」と思うんですけど、ただ継続してるだけではなくて――。

井口:ゆっくりと成長! そう、“Grow Slowly”(笑)!

――(笑)井口さん自身が進歩して、表現の選択肢が広がっているのと同時に、この5年間でいろんな人たちが力を貸してくれるようになったことも大きいですよね。

井口:そうですね。音楽の制作チームはもちろん、作家の皆さんも長いお付き合いの方が増えてきたし、映像チームもずっと同じ方たちと一緒にやっていて。ずっと一緒にいるからこそ見えてくるよさのようなものを、さらに活かそうとしてくれています。

――井口さんは、最初はそのチームの中で、真ん中にいながら引っ張ってもらってる感じがあったかもしれないけど、今は音楽を作るチームの空気を引っ張っていってるところもあるんじゃないですか。

井口:引っ張れて……いたら、いいなあ。わたし自身、率先して舵を取るタイプではないですが、5年経ちましたし、今年はなんとなくでもそういうことをちゃんとできたらって思っているので、そう言ってもらえると自信になります。いろんなことがわからないながらにアーティストデビューさせていただいて、たくさん力を貸してもらいながらやってきて。ちょっとずついろんなことを経験しながら進んでこられたので、5周年でもらった気持ちや経験を糧にして、わたし自身の意思も強く出していきたいです。

曲が形になるのはもちろん、それまでの過程が今はすごく楽しい

――カップリングの“Turning Point”はバキバキのK-POPみたいな曲で、正直驚きました。

井口:何パターンか音源を聴かせてもらったんですけど、もっとポップなのもあれば、もっとゴリゴリな曲もあって。今までやってきてなくて新しい、でもみんなにすっと受け入れてもらえるような曲が歌いたかったので、話し合いながら決めました。これ……悩みました(笑)。もっとバキバキにカッコよく歌いたいけど、「わたしってそうじゃないよなあ」ってなって。それこそ、やりたいことと歌える曲は違うので、初挑戦だったからこその試行錯誤がありました。

――今までにやってたことがある枠の中に納まっていたとしたら、この曲はその枠を確実にはみ出してますよね。「新しいことをしよう!」という意思を感じますよ。かつてない艶があるというか。

井口:おっ! やったあ! キメキメで歌おうとすると、「なんか違うな」ってなるので、力を抜いたほうがいいんだなって思いました。キメキメでカッコよく決まる人もいるけど、「あ、わたしはそうじゃないほうなんだな」っていう(笑)。わたしらしさが突然なくなってしまう感じがあったというか。

――今の話を聞いて思うのは、井口さんって自分のことをとてもよくわかってますよね。

井口:ちょっとずつ! ちょっとずつですね。挑戦させてもらえたから、改めて現実を見たところもある(笑)。でも、いろいろチャレンジできる環境にいるのは、すごく幸せなことだと思います。受け入れてくれるスタッフさんがいて、聴いてくれる人たちがいて、その中で一緒に楽しんで作っていってる感じがするので。だから、曲が形になるのはもちろんなんですけど、打ち合わせだったり、MV撮影だったり、それまでの過程が今はすごく楽しいです。

――逆に、もうひとつのカップリング“timid”は、井口さん自身を振り返るような歌詞になっていて。「timid」って、小心者とか臆病っていう意味みたいですけど、『az you like…』の制作前に感じていた「他の誰かをどうしても気にしてしまう感じ」が描かれてるというか。

井口:確かに、まるっと入ってますね(笑)。その当時だったら、こうやって歌えなかったかもしれないし、今だから歌えるところもあるのかもしれないです。

――「誰かを気にしてしまう感じ」は今でもあるのかもしれないけど、そういう自分を受け入れられてる今があるわけですよね。他の人の表現を刺激に変えて、「こういうことをしてみたい」「これはちょっと自分には合わないな」って井口さん自身の中で対象化できるから、この歌をしっかり歌えるのでは。と。

井口:そうかもしれない。客観的に物事を見られてます(笑)。この曲の主人公はまだ、自分を受け入れられてなくて、憧れている状態ですね。

――『az you like…』の出発点って、まさにその感情だったじゃないですか。そう考えると、“timid”はこの数年間の井口さんの成長をわかりやすく伝えてくれる楽曲ですよね。

井口:過去、現在、未来……ほんとだ! そう言われてみると、このシングル自体がそれを表してる1枚ですね。“終わらない歌”は、頑張ってる人が優しさに包まれたい、今の自分を肯定したいって思ったときに聴くと、きっと「頑張ろう」って思える曲だと思います。“timid”は、「その場で立ち止まってもいいんだよ」という感じで、背中の押し方が違うような気がします。カップリングでもいろんな挑戦ができて、自分のいろんな面を歌うことができるのは、すごく幸せだなって思います。

後編に続く(3月9日配信予定です)

井口裕香『革命前夜』インタビューはこちら

取材・文=清水大輔