清原翔が語った『クジラアタマの王様』の魅力――「現実離れした設定なのに、どこか身近に感じられる不可思議さ 」

小説・エッセイ

2019/8/7

清原 翔さん

「マンガも効果音まで読んでしまうので時間がかかる」という清原さんにとって小説を読むうえでいちばん大切なのは読みやすさ。伊坂幸太郎さんの文章は不思議となじみ、坂口健太郎さんに薦められて『砂漠』を読み切って以来、読書のおもしろさにも目覚めた。

「といってもなんでも読むわけではなく、自分が好きだと思ったもの以外はハマれないんです。伊坂さんの作品は、小説を読む前から『アヒルと鴨のコインロッカー』を映画で観ていて、“好きだな”と思っていたことも大きかったかもしれません。気づかないところで緻密に敷かれていた伏線があとから綺麗に回収される、ってタイプの作品が好きなんですよ。ただのどんでん返しじゃなくて、あとから見直したとき、ちゃんとヒントが提示されているものが。『砂漠』は初めて読み切った記念すべき小説というのもあるけど、何度読んでもおもしろかった。それで伊坂さんの小説を読み始めたら、作品同士がひそかにリンクしているものも多くて、楽しくなったんです」

『砂漠』を読み切るのにかかった時間は3カ月。作品世界に入り込むのにも時間がかかってしまうというが、『クジラアタマの王様』では小説の合間に挟み込まれるコミックパートの意味がわかってから、読むスピードも加速した。

「絵も伏線のひとつというのが、やっぱりおもしろかったですね。昼はふつうの会社員だけど、夜は夢のなかでモンスターを倒しながら冒険している、っていう設定も新鮮で。現実と夢がリンクするなんて聞くとファンタジーに思えるかもしれないけれど、伊坂さんの作品はどれだけ設定が現実離れしていても、すごく身近で起きていることのように思えるから不思議です。読んでいると、どんなラストを迎えたとしても納得できる。それで、もう一回その世界に触れたくて、読み返したくなるんです」

 本誌で「こんな女性と結婚したい」と語っていたように、岸の妻推しのアツい清原さん。だからというわけではないが、岸への共感も強い。

「最初に、池野内議員が『自分たちは夢で会ってる』って言いにきたとき、岸はちゃんと会話はするんだけど、あんまり信じてなくて、はぐらかす。僕もそういうところがあって、きみはそう思うんだ、僕は違うけどね、って感じで、あんまり受け止めていなかったんです。でも『なつぞら』に出演してから、思いがけずたくさんの方が感想を送ってくださるようになって、なかには僕以上に深く照男(※清原さんが演じる、主人公・なつの義兄)を考察している人がいて。ほかにも、キャラいじりをまじえながら感想のイラストをSNSにアップしていたり。それらを見て、自分の捉え方はけっこう安直だったんだな、と気づきました。こんなにさまざまな捉え方があることもおもしろくて、いまは、他の人の感想や意見に興味津々なんです。役者としても、自分の考えだけでは演技が一辺倒になってしまうと感じていたのも大きかったかもしれません。自分とは違う意見を咀嚼して取り入れていくことで、演じることが前以上に楽しくなった気がします」

 自分とは異なるものを受け入れていく――それは想像力を要する作業だ。「こんなふうに考えることもあるのか」という驚きは、引き出しを増やしていく清原さんのようにプラスに働くこともあれば、ときにマイナスにも作用する。

「僕も大学2年までは事務所にも所属しない、ただの一般人だったので、有名人に対してあれこれ言いたくなる気持ちはすごくよくわかるんです。でも、いざ自分が業界に身をおいてみると、ほんの一瞬だけ切りとられて責められている人たちがあまりに多いから、どうしてなんだろうって思うことも多くて……。でも人が人を判断するのって、瞬間的に見たものを材料にするしかないんですよね。だからこそ、自分が思っているのとは違う考え方や現実があるんだ、って知っていくことは大事かなと思います。たくさんの愛人がいて、疑惑を追及されてた池野内さんも同じですよね。しょうもない部分はたくさんあるけど、けっきょく彼はいい人だから」

 ちなみに清原さんにとって、いい人とはどんな人を指すのだろう?

「自分を犠牲にできる人、ですね。自分の利益のためでなく、動ける人。僕はいい人でありたい願望はあるけど、余裕がないときは、自分を犠牲にしてまで相手に優しくするのは難しい。こいつは本当にいいやつだ!って思える友達はいますが、じゃあ彼が完全無欠の聖人かというとそうではない。でも、ここぞというタイミングで行動に出てくれると嬉しいし、印象にも残る。そういうことじゃないのかな」

 出てくる人々が決して完璧ではないからこそ、彼らの報われた姿に希望が見える。ハッピーエンドをどう定義づけるかは人によって異なるだろうが、どんなにやるせない事件が起きたとしても、最後に必ず何かしらの形で救いが残されているのも、伊坂作品の魅力だ。

「とくに『クジラアタマ~』は、みんながちゃんと報われる。それに、ただおもしろいだけじゃない、残るものが必ずあるから、読んだあとは誰かと感想を語りあいたくなる。同じ作品を読んだはずなのに、まるで違う角度からの感想を聞くと、それもまたおもしろいですし。ずっと浸っていたいと思える作品だから、映像化したら、ぜひ出演したいですね」

取材・文=立花もも

 

清原 翔
きよはら・しょう●1993年、神奈川県生まれ。『MEN’S NON-NO』専属モデル。2016年、俳優デビュー。19年、NHKの連続テレビ小説『なつぞら』、映画『うちの執事が言うことには』『PRINCE OF LEGEND』、WOWOW『虫籠の錠前』などに出演。20年には、映画『サヨナラまでの30分』の公開が控えている。

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