爆笑と共感と驚きに満ちた著者と“お友だち”になれる2冊!

新刊著者インタビュー

更新日:2013/12/4

『東海道四谷怪談』に人生の真実を読む

 さていよいよ2冊目、『本屋さんで待ちあわせ』を見てみよう。一日の大半を本やマンガを読んで過ごしているという三浦。本に対する嗅覚も鋭いはずで、彼女が書く書評集が面白くないわけがない。

 まず驚くのは、取り上げている本のジャンルの幅広さだ。現代小説に留まらず、古典文学の解説書、20世紀のセレブや植民地の古本屋についてなど、多様なテーマの本が登場。江戸時代の和算や数の単位など、数学・科学系のものも多い。もちろん、濃い口のマンガ(ボーイズラブを含む)の紹介もたっぷり。
「小説はむしろ少なめでしたね。実はノンフィクションやルポルタージュをよく読みます。とくにヤクザものとか。彼らは社会に厳然と存在するのに、今の日本では見ないふりをしている。何故だろう? そういう部分をえぐり出している本は魅力的ですね。結局それは、歴史や差別の構造などについて考えることでもある。理系の本も好き。自分があまりにも疎いので、その世界の人たちが何を思考して何を目指しているか、とても興味がありますね」

 どの本やマンガについても、三浦の視点は冴えまくっている。意外な切り口で読者を驚かせつつ、それぞれの核心的主題に迫る。しかも、やはり爆笑の連続だ。ハイライトはまるまる一章を費やした『東海道四谷怪談』の解説。今も上演される歌舞伎の人気作で、江戸末期に鶴屋南北によって書かれた台本だ。
「この作品でとくにすごいのは、ラストシーン。お岩の夫の伊右衛門は最低最悪の男ですが、彼が成敗されてめでたしめでたし、というハッピーエンドにはなりません。それどころか明確な結末は存在しないんです」

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 三浦は、歌舞伎や文楽に造詣が深いことでも知られている。こういった結末の描き方は、それらの古典芸能に共通する特徴の一つで、だからこそ三浦は惹かれるという。
「私たちが今一般的に目にしている、はっきりした起承転結のある物語は、近代以降の西洋的な手法です。歌舞伎や文楽は、それとは一線を画した作劇法なんですよね。緻密な伏線もあって人物描写も深いんですが、世界の把握の仕方が近代西洋的ストーリーとはまったく違う。美しい結末の代わりに、無常観や虚脱感が漂ったりもします。世界の有様というものは、自分たちの意図を超えていて、計算なんかできない。そういう突き抜けた感覚が、作劇に反映されていると思うんです。一見なげやりなんですが、それって私たちの人生そのものですよね。人生だって思いどおりに行かないし、結末なんかありません。小説を書くときにも、歌舞伎や文楽の手法を上手く取り入れられないだろうか。最近は、そんな興味を抱いています」

 最後に、三浦さんにとっての本やマンガの素晴らしさとは?
「一人でも読めるところ(笑)。道具もいりません(笑)。“ここが面白い!”“あのシーン最高!”って、同じ本を読んだ人と感動や興奮を共有できるのも楽しいですよね。『本屋さんで待ちあわせ』もブックガイドとしてはもちろん、“三浦の読み方は甚だしく間違っている!”とか(笑)、ツッコんだり対話したりするような感じで読んでいただけたらとても嬉しいですね」

 確かにその通り。“私はこう思った”“私はこんなことがあった”。ページをめくりながら三浦自身とおしゃべりしている。そんな特別な喜びを、彼女の作品はいつも与えてくれる。そして、今回の2冊の新刊本を読了したならば、みんな必ず三浦に伝えたくなるはずだ。─「お友だちからお願いします」。

取材・文=松井美緒 写真=下林彩子

紙『お友だちからお願いします』

三浦しをん 大和書房 1470円

著者3年ぶりのエッセイ集。内容は本人曰く「よそゆき仕様(自社比)」!しかしながらもちろんそこには、笑いと妄想と鋭いツッコミに満ちた、ミウラシヲン的日常が迸る。“オヤジギャグ”や“体毛”のマナーとは? キリストの墓探訪の顛末は? 以前からのファンも三浦作品は初めてという人も、漏れなく楽しめる極上の一冊!

紙『本屋さんで待ちあわせ』

三浦しをん 大和書房 1470円

一日の大半を本やマンガを読んで過ごしているという著者の書評集。現代小説に留まらず、和算やヤクザ、BLの歴史など多彩なジャンルの本を紹介。1章をかけた『東海道四谷怪談』の解説は読みごたえ充分。著者らしい鋭くて笑える視点で、あらゆる書物の魅力をえぐり出す。マンガ好きの方も安心。巻末にたっぷり紹介されている。