ホラーの帝王 スティーヴン・キングのじわじわ怖い短編集『深夜勤務』。30年前に死んだはずの人が復讐を開始する…!?

文芸・カルチャー

更新日:2024/4/2

深夜勤務
深夜勤務』(スティーヴン キング:著、高畠文夫:訳/扶桑社)

 ホラーというジャンルは何に描かれるかによって怖さの種類が変わると思っている。漫画では、ページをめくると「わっ!」と驚くような恐怖が描かれ、アニメーションや映画ではシーンが変わる瞬間に幽霊が登場し、視聴者を恐怖のどん底に落とすのがスタンダードだろう。

 では、小説はどうか。本記事で紹介する『深夜勤務』(スティーヴン キング:著、高畠文夫:訳/扶桑社)では、漫画やアニメーションのような一瞬の怖さは感じられないが、常に不気味さと怖さが入り混じったじっとりとした恐怖を感じることができる。びっくりする恐怖が苦手な人におすすめの作品だ。

 本作は10の作品が綴られている短編集だ。話の一つひとつにつながりがないため、どの話からでも読み始めることができるようになっている。タイトルを見て直感で気になる話から読み進めていくのも一興だろう。すべての作品からは徐々に迫りくる気味の悪い恐怖を感じたのだが、個人的に最も感じられたのは第9話「やつらはときどき帰ってくる」だ。

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 時は30年前。主人公のジム・ノーマンは地元の不良青年たちに絡まれてしまう。そのとき主人公をかばおうとした兄は、不良青年たちと一緒に列車にはねられ死んでしまう。30年後、高校教師になったジム・ノーマンだったが、遅進生が集まる授業を担当することになったとき、目の前に、30年前に兄と一緒に死んだはずの不良青年たちにそっくりの生徒が現れるのだ。彼らはどうやら過去から蘇ったらしく、次々とノーマンの生徒に手を掛けていく……。

 30年前の怨念が現代を生きる主人公とその周りにふりかかる話なのだが、そのやり方は「陰湿極まりない」の一言に尽きる。ただ、この陰湿さや周りからじわじわと追い詰められていく描写がより怖さを引き立てており、この話の魅力ともいえるだろう。実際に怨念が目に見える形となって現れることは、リアルな世界ではあり得ないことなのかもしれない。しかし、世界では生きている人間に幽霊が乗り移る「憑依」という言葉もある。今回ノーマンの前に現れた不良青年たちはまさに憑依の一種だろう。怨みにあふれた不良青年たちの復讐を、主人公はどのように阻止するのか。そもそも阻止する術はあるのか……? 結末はぜひ本書を手にして確かめていただきたい。

 本書を読むと、恐怖小説が読者に恐怖を抱かせるときは、人間の内側に存在する憎悪や疎外感などにふれたときなのだと感じる。いわゆる、ジャパニーズホラーとはまた少し違う恐怖が作中全体に詰まっていた。僕が感じた「じっとりとした恐怖」を味わいたい人にはおすすめの作品だ。

文=トヤカン

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