まつもとあつしの電子書籍最前線Part5(後編)電子出版をゲリラ戦で勝ち抜くアドベンチャー社

更新日:2013/8/14

 

電子書籍アプリ総ダウンロード数50万件突破!
電子出版をゲリラ戦で勝ち抜くアドベンチャー社(後編)

9月6日より引き続き、電子書籍アプリを40作品以上配信し、それらの30%以上をAppStoreのブックカテゴリーのランキング1位獲得、9割を25位以内にランクインさせている注目の会社・アドベンチャーの現場に迫ります。
前編はこちらから

 

(右)西川剛司●にしかわたけし 1981年3月2日愛媛県生まれ。松山聖陵高等学校卒業。主に広告事業の仕事に携わり現在に至る。2010年に春木とともにiPhone事業部を立ち上げ、半年後電子書籍に注力。出版社へのライセンス営業、広報担当。「継続する事業」をモットーに現在も市場を模索し続けている。
(左)春木和也●はるきかずや 1983年新潟生まれ。大学卒業後、株式会社アドベンチャー入社。広告営業、モバイルWebメディア運営、モバイル公式サイトのWebメディアディレクターを務める。2010年西川とともにiPhone事業を立ち上げ。香港にある子会社で開発している電子書籍アプリ「@book viewer」を主軸とした事業を展開している。

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単体アプリのランキング制覇は紙の本とも相乗効果あり

西川:作品単体の電子書籍アプリが、AppStoreの上位ランクすれば、Amazonのランキングが上がるという相関関係があります。たとえば、『人は「話し方」で9割変る』(福田健/経済界)に関しても、Amazonで5,000位前後をずっと推移していたものが、アプリが上位ランクインし1位から転落するまでは1,000位代前後までランキングが上昇し推移していました。

――AppStoreで、上位に入ることによって、紙の本のAmazonのランキングも上がっていくわけですね。マーケティングにも効果が認められると。

西川:そうですね。

他のアプリに関してもですが、現在3位の(7月取材当時)『好かれる人の魔法の言葉』に関しては、240,000位から6,000位台まで上がりました。他の作品も数十万位から1万位をきるところまで来ているものが大半です。(ランクが上位にならないものはそこまでは上がらないです。)

――急上昇ですね。

西川:そうですね。弊社ではリリース時に、Amazonランキングでチェックし数字を控えています。電子書籍のランキングが上がっている際の数字も記録するということをやっています。出版社さんによっては、書店営業の時もそういった数字を使って役に立てているところもあるようです。

――なるほど。

西川: アプリの方が断然安い値段(基本的に350円のワンプライス)で売っているんですけれど、書店さんもiPhoneアプリについての情報に詳しい人は少ないので出版社さんの書店営業のなかでネタになりますよね。「このiPhone電子書籍の市場で1位を獲得したアプリですよ」と言えば説得力がありますから、少なからず何もないより購買意欲も上がると思いますし、そういう事もできるのであればちょっと置いてみようかなと言っていただける書店さんもあるようです。

――アプリがランキング上位に入ると、紙の本も動くというのは、どういう理由があるのでしょうか?

西川:そうですね。やはり露出が大切だと思います。弊社では、他の制作会社さんと比べて露出量を増やす工夫を行っています。プレスリリースやブログはもちろん、Twitterなどのソーシャルメディアなどいろんなツールを活用しています。露出が多ければ多いほど、ランキングにも書籍にも繋がると感じています。

ユーザーはその商品を知ってしまうと、物欲がありますので買わないと気が済まないという人も多くいます。(私もそのうちの1人です)そのユーザーを探す為に誰でもができる事といえば露出を増やす事だと思います。

出版物、露出を増やせれば書籍が売れるようにiPhone電子書籍も露出を増やせばランキングが上がります。更には露出を増やしさえすれば圧倒的に多い紙のユーザーにも繋がっていくという事だと思います。

――電子書籍そのものの売上げも大事だけれど、紙の書籍の売上げにつなげるための施策でもあるわけですね。

西川:はい。そうです。

やはり、まだ本は紙で読みたいというお客さんも多いですね。アプリランキングで上位になることで、そのアプリのキーワード、例えば『ぼくハゲ』や、他の電子書籍アプリ名をWEBを通じて見る機会が増えます。しかし、iPhoneを持っていない方や書店で買うのはちょっと気が引けるという方は、Amazonで検索して買って頂いているという事だと思います。書店に関してはどのくらい繋がっているのかわかりませんが、影響はすくなからずあると思います。私どもとしては電子書籍だけではなく紙の売り上げにも少しでも繋げている事で、出版社さんが我々に求める価値を返す事ができればと思います。

――いわゆるカニバリがなく、相乗効果があるということですね。

西川:そうですね。関係ないという事は契約している出版社さんにもお話しをきいています。ありがたい事です。

――ユーザーの発言を捕捉する(キーワード検索を行って、例えば作品名での投稿があればそれに答えたり、リツィートしたりする)ことも行っていますか?

西川:もちろんやっていますね。私のほか数名で担当しています。まだ自動化はできていないので、人力でやっています(笑)

弊社は無料のゲームも作っていて、会員が数万人いますので、そこでも告知をしています。

たとえばゲーム内でレストランを作るアプリ『レストラン・マニア』では、ゲームの世界の中に、書店があり、そこに入ると書籍アプリで参照できたのと同じカタログが表示されます。

このゲームの会員に対しても、プッシュ通知で、書籍アプリがリリースしたと告知することができます。無料での広報サポートは非常に反響があります。

私どもとしてはiPhoneアプリ市場でのライバルは電子書籍以外にあると感じています。つまり、ゲームやエンタメ、ライフスタイル系のアプリと競争できる要素を持つ必要があります。そして、少しでも電子書籍市場で皆が潤う事を考えていければと思います。

そうしないと、電子書籍の市場自体が大きくならないですし、現状の電子書籍のパイを取り合っても今後の継続が難しいのではないかと考えています。