まつもとあつしの電子書籍最前線Part5(後編)電子出版をゲリラ戦で勝ち抜くアドベンチャー社

更新日:2013/8/14

電子書籍の魅力的な価格とは?

――現在、紙の本と電子書籍の価格が同一の場合が多いのですが、ユーザー側からはなぜ安くないんだという、不満の声も聞かれます。

御社からリリースされる書籍は、戦略的な価格を設定されていますね。

西川:そうですね。
出版社さんとの話し合いで、どのタイトルを行うかや価格に関しても先に決めています。価格に関しては350円でキャンペーンができるものだけにしています。

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――ワンプライスであると。

西川:そうですね。

以前の価格でいうと700円、600円、450円、230円、115円と、いろいろやってきたんですけど。700円、600円の値段ではベスト10ぐらいまでにいれるのがやっとかなと。

今動いている書籍ではないと、ベスト10以内に入って、継続(ランキング内に一定期間留まり続ける)はしないと感じています。450円の金額では、1位を獲得した事はありますが、継続させることはできませんでした。

一方、115円だと、10,000ダウンロードでも115万円にしかならないのでビジネスとしては長く続けるには難しいかなと弊社は考えています。

――さすがに、今度はレベニューシェアの金額が小さくなりすぎる。

西川:そうなんですよね。230円と350円の違いは、あまり売れ行きが大きく変わらないと感じられなかったので、350円で行っています。

――ある意味、適正価格を試されてきたわけですよね。いうならば、缶コーヒーの値段だと、安すぎる。喫茶チェーンのコーヒーぐらいだとOK、そんな感じですかね。

西川:そうですね。iPhoneで電子書籍を買うユーザーの中には、紙の本を買っている方も多くいます。しかし、iPhoneのメインユーザーはライトな層だと考えています。その多くのライトな層の方々が買いやすい値段や、事業として利益を出せる最低ラインの金額としてマッチングしたのが現在の適正価格、350円です。

紙の本の価格を電子書籍の定価として、350円をキャンペーン価格として展開しています。
それでも売れない書籍に関しては1,000円や元の書籍の値段と近い金額で販売しているものもあります。

――円高を受けてAppStoreのアプリが一斉に価格改定された際、多くのデベロッパーは、急遽、価格を再設定(値上げ)しましたが、その中で、御社からの作品は85円という意欲的な価格になったものもありました。

西川:値段改定した当日もおかげ様で1位を獲得しており、他にも10アプリが上位25位内にランクインしていました。しかし、価格改定の影響で、弊社のアプリが上位から落ち続け、上位25位中に1つのアプリしか残っていない時もありました。あの『もしドラ』でさえも上位ランキング外になってました。

値段改定により85円以外のアプリしか売れない状態では、私どもとしても売り上げがなくなる事で、今後の展開を考えました。そんな中で既に85円で販売していた電子書籍の数字を調べてみると、面白いデータがでてきました。 115円から30円値下げした3つアプリとも、約5倍、ダウンロード数が上がっていたのです。 すぐに出版社さんに連絡をして「すみません、値下げをさせてください」と、お願いをしていました。複数のアプリを値下げする事もできたおかげでまたランキング上位に弊社アプリが戻ってきてくれました。

そして今では、85円しか売れないという波も徐々に減ってきました。
他社さんもそうですが、やはり85円では利益に繋げられないという事や許諾をとる事が難しいので350円や元の値段に戻しているようです。

つまり売上げが70万円以上あればOKです。
と、いいながらも、それ以上を狙えそうな書籍を常に物色していますけどね(笑)。現在契約している出版社さんに関しては、ある程度の実績をお返しする事ができていますので、今後のタイトル選びに関してもある程度こちらのご要望を聞いていただける出版社さんが多くなってきました。

――ユーザーからしても、一種お祭りでしたよね。朝起きたら、アプリの値段が一斉に下がっていて。そんな中、85円という数字に、すごくインパクトがあったんでしょうね。

西川:そうですね。ちょうどその値段改定した当日に会社に向かいながら、Twitterで「会社に行ったら、値段を戻すよ」と、ツイートしていたところ、フォロワーから「買いましたー!」と、13アプリも買った人が、わざわざ画像付けて送ってきてくれた人もいました。
非常に驚きましたし、嬉しかったです。

やっぱり、一気に値段が下がると、多くの制作会社が驚いたように、多くのユーザーも驚き、とりあえずアプリを購入したという方々増えたのかなと思います。しかし、85円ではなかなか利益が上げられません。

――そうですよね。

西川:85円になったからといっても、ダウンロード数が1日で2万、3万DLいくわけではないですし、事業としては売れても利益が残らないので撤退しないといけないのではと思った会社も多いと思います。本当に弊社も危機でした。しかし徐々に格安市場の価格も落ち着いてきたので、私どもとしては基本的気には350円で販売しております。

――トップ25位にランクインすることが、最大のプロモーションですということになりますね。25位中、10作品が御社の取り扱い作品ということもありますが。

西川:そうですね。ありがたい事です。ユーザーと出版社さんにはいつも感謝しています。我々は85円の価格に関しては利益以上に広告のような形でとらえています。85円のアプリがランキング上位を獲得することで、アプリ内にあるリンクから他の電子書籍に繋がって行くというシステムをでも大きな流れをつくっています。ありがたいサイクルです。