まつもとあつしの電子書籍最前線Part5(後編)電子出版をゲリラ戦で勝ち抜くアドベンチャー社

更新日:2013/8/14

ストアのレビューとどう向き合うか?

――電子書籍における顧客サービスの1つがレビューです。それが比較的高いのも、御社の取り扱い作品の特徴ですね。

本の中身ではなくて、ビューワーが使いにくいために評価が下がるという例もありますが、そういったレビューを見つけた時はどういう対策をされているんでしょうか?

西川:本の内容に例えば誤字脱字がある際は、すぐに対策します。まずはレビューに対して詳細にて記載します。やはり誠意が感じられる対応ということになると思います。

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――そのレビューの監視やメンテナンスも、御社のほうで引き受けてらっしゃるんですか?

西川:そうです。出版社さんが何か対応しなければならない、ということは基本的にはありません。出版社さんの方で、私たちより先にクレームを見つけた場合も、私たちに連絡が来て、こちらで対応します。

――Twitterで検索して、言及されている数が多ければ、露出が上がっている、ということですし、逆につぶやいてくれてないことが分かると……。

西川:もうちょっと工夫してつぶやかないといけないかなと思います。

――Twitterは版元さんがやるイメージがありますが、そうでもない?

西川:版元さんにもやってもらっています。版元さんに「このタイミングでやってください」とお願いしているところや、これまでTwitterを、やっていなかった出版社さんにもお願いしてTwitterを使用し始めて、今では書籍の広報にも活用している出版社さんもあります。

出版社さんと制作会社は、目標地点は一緒なので。「こういったことをやったほうがいいですよ」というポイントや、プレスリリースの書き方ひとつにしても伝えた方がいいと思う事はどんどん伝えています。

――あと、逆に、「やってほしくない」ということもありますか? Twitterの公式アカウントが炎上することが話題になっている時期でもありますので。

西川:そうですね。今のところ出版社さんにNGだと言われているところはありません。炎上したら会社的には大問題ですよね。しかし、私的には炎上するくらいの反響があればいいなと思ったりします(笑)何も反応がないという事はさみしすぎる事なので。

1秒で中身がイメージできるアイコンが勝負の決め手

――アプリの説明文なども御社が用意しているのでしょうか?

西川:基本的には、弊社でやっています。そのあとに出版社さんに見てもらい、手直ししていただいています。

春木:本ってやっぱり、立ち読みされたり、手に取って見られる方が多いので。なるべく絵で情報を多く伝えようかなと。スクリーンショットに関しても気を使っていますね。

今までは、機能を紹介する画面を使っていたのですが、ユーザーには、それよりもやっぱり中身が訴えるものだということに途中から気がつきました。今では中身を多く紹介するようにしています。

――アイコンも、かなり目を引くデザインですね。そこはコンセプトとか、何か決め事のようなものはあるのでしょうか?

西川:パッと見で、1秒以内にイメージができるアイコンを作らなければいけないなと気をつけています。

――1秒。

西川:アイコンって、そんなに長く見ないものなので。パッと見て、何だろう?って思って、題名や値段を含めて見てもらわないといけませんので。アイコン見て、しばらく考えないとイメージがでてこないものだとNGですね。

デザイナ―に関してはアイコンを複数作ってもらい、部署内や近場の同僚に見てもらい反応をみて、更にアイコンを調整し、また調整と。アイコン作りには弊社でも時間をかけて作っています。私も含め、アイコンにはみんなうるさいんです(笑)

たとえば弊社が担当させていただいている、太田出版さんの『ぼくハゲ』(藤田慎一)の紙の本の表紙は少し堅い印象です。アプリを作る際には表紙も作りかえてリリースしました。太田出版の担当の方が、どうしてもこの書籍を電子書籍としてリリースして世の中の「薄毛に悩んでいる人」に伝えたいという熱い思いに、心動かされ表紙も作り替えてのリリースになりました。結果、ランキングで1位を獲得する事もできました。

本棚アプリ移行後の対策とは?

――今後、本棚アプリに移行していった場合は、アイコンの見た目での勝負ということが、できなくなってしまいますね。本棚アプリにする場合の懸念を教えてください。

西川:本棚になると一気に売上が下がってしまうと考えています。現在、本棚アプリ形式に移行したストアで大成功しているところが少ないのが一番の不安ですね。

――なんとかアプリのままでいく方法というのは、ないんですか?

西川:そうですね。理想としてはこのまま行きたいのですが――。今後は単体でのアプリにしていくのは難しいと思いますので、どのようにすれば売れるのか仕組みを考えていく必要があります。

ゲームアプリを年内に幾つかリリースして、そこから数十万人ぐらいのユーザーがストア(本棚アプリ)のに流れてくれればいいなと考えています。

リッチ化の是非/今後の展開について

――この連載ではG2010さんに取材したこともあります。書籍のリッチ化という方向性についてはどうお考えでしょうか?何かそこに必然性、あるいは逆にしなくていいみたいな、そういう思いみたいなものって、ありますか。

春木:もちろんあります。制作側は常にさらにいいものを作りたいという思いがあります。そこはすごく難しいところですね。

求められるスピード感と、新しいものを開発していく手間―人を使って、コストを掛けて―を考えると悩んでしまいますね。

――初代iPadが出てきた時に、あたかもマルチメディア再び、と言われましたが、一方でそのコストを誰が負担するのか、という課題がありました。そこの答えが見えない以上は、シンプルでいい、というのは1つの判断となりますね。

AndroidやiOS以外のプラットフォームへの対応は考えていますか?

西川:Androidには、既にアプリをリリースしていますが、現時点では売上がAppStoreの数十分の一ぐらいと少ないので現在はあまり力をかけてはいないです。ただ、今後は注力しておかないといけないなと考えています。

――アプリ型書籍の継続の場としてということですね。

西川:はい。

「まつもとあつしの電子書籍最前線」記事一覧
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■第2回「赤松健が考える電子コミックの未来」(前編)(後編)
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