『嵐が丘』も『トワイライト』も好きな大人のための大型ファンタジー

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更新日:2011/11/25

大人こそ待ちわびていた詩的で情熱的なラブストーリー

 この作品に古典的風格を感じる理由のひとつとして、有名な詩人たちの詩句がたびたび引用され、物語の根幹をなす主題となっている点も挙げられる。
 例えば、カッシアが亡くなったおじいさんから贈られたコンパクトに隠された、ディラン・トマスの「優しくなってはいけない」。この詩を繰り返し読んで真の意味を理解していくカッシアは、ある重大な決意をする。

 詩句に限らず、作者の“言葉”に対するこだわりは随所で感じられる。それは例えば、カッシアがソサエティに内緒で文字の書き方を覚えようとするシーン。あるいは、カイが自分で書いた詩や物語をカッシアに贈るシーン。笹浪さんはこう続ける。
「教師をやっていたことがある作者のアリー・コンディは、きっとさまざまな文学作品を読んできたんでしょうね。この物語のテーマは、“言葉”だと言ってもいい。言葉を制約された社会で、ひとりの少女が言葉を取り戻していく。私たち日本人も古典など読まなくなっていますけど、そのぶん失うものも大きい。歴史を継承していくためにも読み継いでいかなければならない。そのようなメッセージは表には出てきませんが、実は一番強くあると思います」

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 『カッシアの物語』には他にも、さまざまな問題提起が内包されている。思慮深いけれど激しい情熱を秘めたカッシアの心情に寄り添いながらも、自問自答せずにはいられない。
 発売元のプレジデント社担当編集者の藤代勇人さんは、この作品を読んだとき、哲学ファンタジー『ソフィーの世界』にも通じる部分を感じたという。
「一度読み始めるとページをめくる手を止められないストーリーではあるのですが、一行読むたびに“自分だったらどうする?”という問いが生まれるので、なかなか簡単に読み飛ばすことができない作品なのです」
 これぞまさに大人までが楽しめるこのファンタジーの魅力といえる。
「私は今40代半ばですが、『ハリー・ポッター』にはハマれませんでした。同じような感覚を持つ人は、20代後半から40代に少なくないように感じます。『カッシアの物語』はそんな大人の方にこそ喜んでもらえる物語です」

 多田景子さんの挿絵も、静かで力強い吸引力を持つ物語の世界観と見事にマッチしている。その組み合わせを発案し、装幀を手がけた鈴木成一さんは、次のように語ってくれた。
「要は、実感できない見たことのない世界。どこかが違う、ズレている。でも、それでいて不思議とリアルにも感じる。そんな微妙な違和感こそが、この作品の魅力です。物語の世界観につかず離れず、われわれの生きている現代社会ともどこかでつながっているらしい未来の日常をどう表現するか──。そういう観点から、表紙や挿絵は多田景子さんのイラストが最適だと思いお願いしました」

 はたして、あなたはこの物語をどう読むだろうか? 自由と引きかえに約束された平和な人生と、愛に生きる反逆の道の間で、カッシアは何を“選択”していくのか?
 シリーズ3部作におよぶ壮大なラブストーリーは、今はじまったばかりだ。

構成・取材・文=樺山美夏 書影撮影=下林彩子 イラスト=多田景子

アメリカ本国での反響

「愛と自由意思に関するこの未来の寓話はこう問いかけている。選択のないところに自由はありますか、と。主人公カッシアの受容から反抗に至る旅の物語にあなたは引き込まれ、読み出したら止まらなくなるだろう」──カッサンドラ・クレア(作家)

「『MATCHED』(原書タイトル)は、詩人の魂をもって書かれた、読み出したら止まらないディストピアン・ラブストーリーだ。『トワイライト』から『ハンガー・ゲーム』までの読者が待ち焦がれていた「輝かしい新世界」の物語がついに登場した」
──カミ・ガルシアとマーガレット・ストール(共に作家)

「コンディの読者を引き込む、ひねりのきいたディストピアン物語は、魅力的な登場人物と洗練された文体によってより効果を増している。最後まで読んでも決着はつかないが(三部作なので)、主人公カッシアの変容していく過程の物語だけでも読者をつかんで放さず、満足させてくれる」──パブリッシャーズ・ウィークリー(書評誌)

アリー・コンディ
アメリカのユタ州生まれ。大学卒業後、高校教師として教鞭をとる。教師の職を辞した後、本格的に創作活動を開始。夫と3人の息子とともに暮らしている。メジャー・デビュー作となる本書は高い評価をうけ、「パブリッシャーズ・ウィークリー」の2010年のベスト児童書賞や米国ヤングアダルト図書館サービス協会の2011 若い読者のためのベスト・フィクション賞などを受賞。シリーズ第2作は今秋アメリカで刊行。

紙カッシアの物語

プレジデント社 1890円

あなたはわたしの秘密を守れますか?

17歳のごく普通の少女の究極の選択(MATCHED)とは──

読み出したら止まらない、でも決して1行も読み飛ばすことができない
傑作ディストピアン・ラブストーリー、ついに誕生!

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