有名漫画家の息子さん・娘さんが語る、思い出の料理とは? 田中圭一が描く異色のグルメリポート漫画

マンガ・アニメ

2017/2/2

田中圭一の「ペンと箸」: -漫画家の好物-』(田中圭一/小学館)

「神をも恐れぬ所業」とは、神罰が下ることも恐ろしいと思わないような行為を平然とやってのけることだそうで、漫画の神様と讃えられる手塚治虫の絵柄を模倣してお下劣ギャグ漫画を描いた田中圭一の単行本『田中圭一最低漫画全集 神罰』の帯には、手塚治虫の長女である手塚るみ子が「訴えます!!」と叱咤激励(?)のコメントを寄せていた。

 今回紹介する『田中圭一の「ペンと箸」: -漫画家の好物-』(田中圭一/小学館)は、作者が著名な漫画家たちの「息子さん・娘さん」に取材をして、それぞれの親に「縁のある料理」を紹介してもらうという異色のグルメリポート漫画だ。

 本作において作者はパクリ漫画家、もとい霊能者が自分の体に霊を憑依させるが如くのイタコ漫画家として、全23話の一話一話を取材対象の親である漫画家それぞれの作風に似せている。そのため、取材に応じた二世たちは親の画風で立ち現れ、各作品に思い入れのある人にとっては格別な味わいがあることだろう。

 第二話に登場する手塚るみ子によれば、手塚治虫は自身の誕生日とクリスマスには家族でのレストラン・ディナーを欠かさず、お正月と夏休みでの家族旅行を自ら計画して、東京ディズニーランドができた時も連れていくなど、「家族サービスを忘れないのが父でした」という。それを聞いた作者は、「父としても神!!」と手塚タッチで感動を表現していた。この回に紹介された料理は、チョコレート入りのハヤシライスとカレーライスのW盛りで、手塚治虫のチョコレート好きにちなんだ物だそうだ。

 本作が贅沢な仕上がりになっているのは、なにより作者の姿勢にあるだろう。手塚治虫がそうであるように、『アストロ球団』の中島徳博や『まんだら屋の良太』の畑中純など亡くなった親の思い出話を聞くとなると、その漫画家への深い敬意を持っていなければ応じてもらえまい。また、親子のエピソードは味わい深いものであるが、それは隠し味のようなもので、いわば秘伝を教わるのと同じ。やはり亡くなっている『同棲時代』の上村一夫の娘さんは、幼い頃に遊んでもらったことがほとんど無く、唯一の思い出は食パンに醤油で絵を描いてもらい焼いて食べたことだそうだ。20歳になって父がガンで亡くなる前に言われた「もっとおまえに いろんな人を紹介してやりたかった」という言葉も、「ぼんやり聞いていた」そうだ。しかし、父の個展をプロデュースするようになって関係のあった人たちに父のことを聞いてみると、みんながみんな「友達を大事にするやさしい人だった」と言ったとのことで、「生きているうちにそういうところを私にも見せてほしかったですよね」と語る上村タッチのコマでは、しんみりと一杯やりたくなってしまった。

 漫画家というと、第三話の赤塚不二夫や第五話での西原理恵子などのように本人自身が作品の一部でもなければ取材に応じることは少なく、第十九話での平松伸二みたいにSNSをやってはいても家族に見せるようなプライベートな情報は、なかなか表には出にくい。しかし本作においては、かわぐちかいじが一卵性の双子の兄で、ミュージシャンを目指していた弟が自分の夢をあきらめて家業を継いだ話が語られたり、ゆでたまごの作画担当である中井義則が「50歳を過ぎた今も画力を向上させようと絵画教室に通っている」といった、濃いファンでも初耳なのではという話が、次から次へと満漢全席のように出てくる。

 読み終える頃には、お腹いっぱい胸いっぱいで、もう何もいらないという満足感に浸ったが、この作品を続けていくのは大変だと無理は承知のうえで、作者にはおかわりをお願いしたい。

文=清水銀嶺