文芸・カルチャー

絵本作家・ヨシタケシンスケさんのアトリエ訪問 『りんごかもしれない』『もう ぬげない』の自由な発想はここから生まれた!

ヨシタケシンスケさんのアトリエにて。本棚にはさまざまなジャンルの本がぎっしりと並んでいる

 生まれ育った家に戻ってきたのは10年前のこと。妻と2人の子どもたち、家族で暮らすその家の2階にヨシタケシンスケさんの仕事場はある。

「この部屋は姉の部屋でした。ここには高校を卒業するまでいたんですけど、帰ってきた感はあまりなく、新鮮な気持ちで暮らしていますね。仕事をするのは、子どもたちが学校に行き、静かになったあたりから昼過ぎ頃まで。彼らが帰ってくると騒がしくなるので、入れ替わりに僕が外へ出て、コーヒーショップとかでネタを考える作業をしています」

窓際にかわいい猫を発見!

『トイ・ストーリー』のおもちゃはヨシタケ家の子ども達にも人気のよう

部屋のドアには子どもたちが描いた絵がたくさん!

1階の壁には立派なツノをはやしたこんな作品も

 ぐるり仕事場を見渡すと、そこにあるもののひとつひとつが、まさにヨシタケワールド!

「ここは仕事場というより部屋なので(笑)。好きなものばかり置いちゃって、まぁ、気が散りますね(笑)」

 そんな“部屋”からまた楽しさの矢印が違う2冊の作品が生まれた。

『つまんない つまんない』(白泉社)は、“つまんない”という普段、放っておいている気持ちをとことん考えた絵本。

手元には愛用の革製手帳が。中にはたくさんのイラストがストックされている

「以前から、ずっと考えていた気持ちだったのですが、ちょうどうちの子がよく言ってたんですよ、つまんない、つまんないって(笑)。大人になると、立場上、なかなか“つまんない”って言えないですよね。でも、子どもはそこ、正直に申告するわけですよ、大きな声で。自分は今、つまんない状態にいるんだと、どうにかしてほしいんだと。けれど大人になると、思っていても、だんだん言わなくなってきてしまう」

原画を大公開!

 主人公の男の子の目線で、探っていく“つまんない”。つまんないって何だろうと考えたり、面白いことと対比したり。けれど、どんどん進んでいくと、つまんなくも面白くもないことってあるよねというところにも行き着く。そしてそれは、大人になってからの日常そのものかもしれないと、はたと気が付く。

お蔵入りになった『つまんない つまんない』の表紙イラスト

「何か気持ちが盛り上がっているときのことは意識にのぼるけど、そうではない状態のときってあるよね、実はそっちの時間の方が長いよね、ということを、この絵本で言えたということが、自分ではけっこううれしくて。そして、物事の価値が時間の経過とともに変わってくることも、“つまんない”を通して、表せたかなと」

“あれはつまんなかったんだよ”と、主人公に話す、おじいちゃんの顔はなんだかうれしそう。“そういえば”と、自分がつまんなかったことも思い出していくと……。

「子どもが主人公ではあるんですけど、どうしても大人である僕が出てくるというか、大人から見た子ども像や、大人から見た大人像というのが滲み出てくるはずで、むしろそうなってほしいなと。僕は絵本を描いていて、一番うれしい褒め言葉というのが、“これ、大人が読んでも面白いですね”なんです。子どもは絵が好き、大人はお話が好き、とか、同じ部分では面白がらないにしても、それぞれにぴんと来る好きなポイントが入っていてくれたらいいなと思っていつも描いています」

“その町のはずれの一角に、「あるかしら書店」があります”という一文から始まる『あるかしら書店』(ポプラ社)は、“○○の本ってあるかしら?”ときくと、“たとえばこんな感じどうかしら”と、書店員さんが出してきてくれるお話。ちょっとめずらしい本、本にまつわる道具、本にまつわる名所……“こんな本、あったらいいなぁ”と、心躍る本が次々登場、見開き2ページのなかに広がっていく。

“本好き”のわくわくがとまらないラインナップ

「一冊一冊の本が、見開き2ページのなかに収まりきらない話になれば、と。このあと続編が描けるくらいの話を描いていこうと思いました」

 古今東西の本を集めた自分のコレクションをぎっしりと詰め込んだ図書館の周りに、少しずつ水がたまり……ちょっぴり長い「水中図書館」のお話は、もしかしたらどこかにあるんじゃないかと思うだけでわくわくする。

「水中図書館」にはまさに本から広がるファンタジーが描かれている

「読んだ人が、これ、どんな風に作ったんだろうとか、ついつい想像していただけたらいいなって。描いていることしか読み込めないものでは面白くない、自分で描いていても気になって仕方なくなる、そんな隙間の空いている話にしたかったんです」

 ヨシタケさんの本にまつわる思いもあちこちに。毎日ひとつずつ拾ってきた石を眺めながら、その石が主人公のお話を考えるおじいさんお話「ひとりの本」は、まるでヨシタケさんの創作に向かう思いを映しているよう。

「この話は、ずーっと描きたかったもの。ヘンリー・ダーガーという、アウトサイダーの巨匠と呼ばれる方がいるんですけど、その方がまさにこのおじいさんのような人で。彼は、生涯孤独のなかで、誰に見せることなく膨大な物語と絵を描いてきたんですね。その死の直前にそれらが見つかって世に出たという。その話が、僕はすごく好きで。自分を見てほしい、わかってほしいではなくて、ずーっとやっちゃってたという記録だけが残っていた。やっていたことが楽しかったのかつらかったのかさえもわからない、けれど、ただ記録は残っていたというところがすごくいいなと。“勝手にやっちゃってる”人に、僕はすごく憧れがあるんです。自分はついつい怖がっちゃうタイプなので、人の意見を気にせずにどんどん突き詰めている真剣さみたいなことにはかなわないなぁと、いつも思っているんです」

 ヨシタケさん自身の芯の部分も垣間見えてくるような本書は、一般文芸書として送り出された。

「こうして新たな作品を、今回は2冊一緒に送り出すにあたり、改めて作者と作品は別物なんだなぁと感じています。以前は、自分の分身みたいなものだと思っていたんですよ。でもどうやらそんなにべったりしたものではないらしい、ということがだんだんわかってきたんです。子どもみたいに生み出してはいるけれど、その子がどこに旅立って何になろうが、僕がコントロールできるものではなかったりするので。だから面白いんですよね、本を生み出すことって。そういう意味では、この本たちが行った読者のみなさんのもとで、好き勝手に育ってくれたら一番うれしいですね」

取材・文=河村道子

 

よしたけ・しんすけ●1973年、神奈川県生まれ。2013年に刊行した絵本デビュー作『りんごかもしれない』で第6回MOE絵本屋さん大賞第1位、『りゆうがあります』で第8回同賞第1位、『もう ぬげない』で第9回同賞第1位の三冠に輝く。『このあとどうしちゃおう』で第51回新風賞など受賞作多数。著書に『なつみはなんにでもなれる』、子育てエッセイ『ヨチヨチ父―とまどう日々―』など多数。



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