観た後に悲しみではなく幸せの涙を流せるのが“キャラメルボックス”の舞台 辻村深月×成井豊対談【後編】

文芸・カルチャー

2017/7/10

■原作の“外側”も描き出す舞台版『スロウハイツの神様』

辻村深月(以下、辻村) 『スロウハイツの神様』の脚本も、成井さんからは事前に「環と公輝の物語に絞っていいですか」と聞かれていたのですが、第一稿を読んで、「えっ、全員がちゃんと生きてますけど!?」って思いました(笑)。

成井豊(以下、成井) 僕は、通行人とか、時代劇の斬られ役とか、記号にしかならない役をつくらないようにしているんですが、それはただ、役者に申し訳ないからなんですよ。ほら、映像と違って舞台は、どんなに小さな役でも、稽古と本番あわせて最低でも二か月近く拘束するでしょう。それなのに無名の役だったり、一瞬で出番が終わったりするのは、拷問だと思うので。どの役も、役者が心をこめて演じられるものにしたいんですよね。

辻村 その気遣いをもっていらっしゃるのが、素晴らしいです。

成井 気が小さいだけだと思うんだけど(笑)。でも、だから辻村さんの作品を読むと嬉しくなる。登場人物全員が、ちゃんと魅力的だから。

辻村 そういう成井さんだから、脚本に新しく書き加えてくださったシーンも嬉しかったんです。たとえば、回想シーンで必ず登場する人物がいますが、もしかしたら私が書いていなかっただけで、小説のなかでもあの人はこんなふうに、環とコウキを見守り続けていたのかもしれないと思えて。

成井 僕の役目はあくまで、辻村さんの書いた『スロウハイツ~』という作品の素晴らしさを観客に伝えること。でも、限られた時間と空間のなかで、いかに演劇的な付加価値を生み出せるかが、舞台化する意義だと思うので、いろいろ手法は考えました。

辻村 他にも、狩野や正義たちの会話を読みながら、私の知らないところでみんなはこんなやりとりをしてたんだ、こんなことを思ってたんだ、って知ることができて。私が書かなかった外側の時間がどう流れていたのか、書き終えて何年も経ってから見せていただけるなんて、すごく幸せなことだと思いました。むしろ、原作を、成井さんの表現の枷にはしないでほしいと思ったくらい。

成井 そう言っていただけると、気が楽になります。原作にないものを書くのは、申し訳ない気持ちもあったので。

辻村 安心してお預けしています。キャラメルボックスを観続けてきたからこそ、台詞の合間を成井さんがどう演出するか想像できましたし、なんなら役者さんの声で脳内再生されていたので(笑)。

成井 もはや原作者の立場を超えて、座組の一員ですね(笑)。

■物語はいつも、悲劇が起きたあとから始まっている

辻村 キャラメルボックスからは、言葉のセンスも学びました。『また逢おうと竜馬は言った』とか『さよならノーチラス号』とか、毎回、お芝居のタイトルが全部ドラマチックでかっこいいですよね。

成井 へえ~。(『スロウハイツの神様』を手に取って)こんなすごいタイトルをつけてる人が……。

辻村 だって『ブリザード・ミュージック』ですよ!

成井 なんちゅう英語だって感じですけどね(笑)。

辻村 勝手に、継承させていただいている気持ちでいます(笑)。それから、キャラメルボックスの舞台を観ると、いつも元気になれるんですよね。なぜかというと、観終わったあとに流すのが、悲しみではなく幸せの涙だから。登場人物たちの幸せを想うと嬉しくなって、よかったねえって言いながら泣いちゃうんですよ。

成井 ははあ。よかったねえ、ですか。

辻村 人が死んで泣けるのはあたりまえ。そうじゃないところで感動は生み出せるんだというのを、すごく感じていて。『スロウハイツ~』を書いたのは、実は私が小説家として一番とんがっていた時期だったので、絶対に悲惨な物語で泣かせてやるものかと思っていたんです(笑)。笑いながら泣いてくれるところを、めざしたかった。いまは大人になって多少は丸くはなりましたけど、やっぱりそこは変わらないですね。

成井 『スロウハイツ~』も『かがみの孤城』も、悲劇はすでに起こったあとなんですよね。誰かの死を悲しんだり、学校に行けなくなってしまったりという出来事は、回想では語られるけれど、登場人物が直面している“今”ではない。悲劇のあとで登場人物がどう起き上がって未来に向かっていくかを、辻村さんは描かれている。僕の物語もそうありたいと思いますね。

辻村 キャラメルボックスのテーマは、“人が人を想う気持ち”ですけれど、それって、ただのラブではないですよね。

成井 そのとおりです。

辻村 確かにラブストーリーって、いちばんわかりやすい。だけど、それだけになりたくないと私が思うのは、恋愛ってどうしても見返りを求める気持ちが発生してしまうことが多いから。好きになった相手には、自分のことも好きになってほしい。これだけ尽くしたんだから、返してほしい。でも、本当に人を想うってそういうことじゃないだろうということと、成井さんは闘い続けてきたのだろうと思いますし、私も見返りを求めるのではない人のつながりを描いていきたいと思わされます。

成井 まさに『スロウハイツの神様』は、そういう物語でしたね。ああ、そうか。だから、「よかったねえ」なのか。その言葉の意味がようやく、わかりました。

辻村 今は、環とコウキに対して、たくさんかわいがってもらえてよかったねえ、という気持ちでいっぱいです。ああ、もう、はやく観たい。たぶん、公演をいちばん楽しみにしているのは私だと思います(笑)。

取材・文=立花もも 写真=花村謙太朗

【前編】辻村深月の『スロウハイツの神様』が舞台化! 脚本・演出家の成井豊、“ラストが圧巻”『かがみの孤城』を語る!

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