【ダ・ヴィンチ2018年2月号】佐藤正午特集番外編

特集番外編2

更新日:2018/1/10

【ダ・ヴィンチ2018年2月号】佐藤正午特集番外編


嘘を本当に見せる――佐藤正午とはいかなる作家であるのか

編集I

『ジャンプ』(2000年刊)を読んで無性にお会いしたくなって佐世保にうかがって以来、ずっと追いかけてきた作家・佐藤正午さん。

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 その後も新刊が出るたびに取材依頼をしたり、本誌のさまざまな企画でエッセイや短編の寄稿をお願いしたり、2001年からはWEBでエッセイの連載もしていただいたり……と編集者の特権を享受しまくっていたのですが、2006年の年末くらいに佐藤さんが心身ともに調子を崩されました。それは「多忙」が原因とうかがって、以降ご依頼ごとは控えていたのです……が、15年に山田風太郎賞受賞、昨年、直木賞も受賞されて、機は熟したとばかりに、佐藤正午大特集(30p)を組みました(再び編集者の特権享受)。

 山田風太郎賞受賞作でもあり、最長編でもある『鳩の撃退法』(通称ハトゲキ)がこの1月に文庫化ということもあり、本作を大プッシュしています。記事を作るにあたって、初めて賞の選評を拝見したのですが、選考委員の方々(奥泉光さん、京極夏彦さん、筒井康隆さん、夢枕獏さん)の激賞っぷり、四者四様の褒め表現のすばらしさに震え、『ハトゲキ』の箇所を全文掲載! また、「僕にとって佐藤さんの最高傑作は『鳩の撃退法』」と激推しの伊坂幸太郎さんからは「語りの技術については世界最高峰のレベル」という熱いコメントをいただきました。書評家の杉江松恋さん、豊﨑由美さんは、『ハトゲキ』の不思議な読み心地や構造を明快に論じてくださっています。

 そして『ハトゲキ』の文庫解説は糸井重里さん。佐世保で佐藤さんと対談もされたそうで、対談の模様は、1月中旬に「ほぼ日」に掲載予定とのこと。糸井さんが佐藤さんから、どんな言葉を引き出してくださったのか、とても楽しみです。

 今回の特集で、私がいちばんやりたかったのが佐藤さんを囲む編集者の方々への取材でした(編集者が語る「小説の現場」)。

 みなさん、ホントに担当歴が長い。最長の大久保雄策さん(光文社)に至っては30年超。『ジャンプ』『身の上話』といったヒット作も大久保さんの担当作です。

 稲垣伸寿さん(小学館→現在フリー)は、私が佐世保の佐藤さんのご自宅にうかがったときにリビングでコタツに入っていた方で、佐藤さんに執筆してもらうために小説誌(『qui la la きらら』)まで立ち上げたという強者(佐藤さんとの出会いは97年)。大木秀臣さん(小学館)は、2004年くらいから稲垣さんと合流されて、佐藤さんのデビュー25周年を記念して『正午派』というとんでもないファンブックを出されています。

 坂本政謙さん(岩波書店)は、直木賞受賞作の『月の満ち欠け』が初の小説担当作で、その刊行までの18年間は、佐藤さんが各種媒体で執筆したエッセイ等をまとめて書籍化したり、『小説の読み書き』という文章読本を岩波新書で出されたりしていました。

「作家・佐藤正午」への強いリスペクトと深い愛はみなさん変わらずで「佐世保から出ない」佐藤さんをしっかりと支えていて、その熱気は記事からも伝わってくると思いますが、佐藤さんとのお付き合いの仕方はさまざま。その点が興味深くて、佐藤さんのほうでそれぞれに要望の度合いや方向性を変えてらっしゃるのかなと思った次第です。『月の満ち欠け』『鳩の撃退法』『身の上話』で描かれている現場で、編集者の方々の長きにわたるさまざまなエピソードをうかがえたことは、佐藤正午ファンの一人としても、とても楽しい時間でした。

 作品紹介の企画では、江國香織さん、角田光代さん、中江有里さん、盛田隆二さん、池上冬樹さんに、ご贔屓の作品についてご寄稿をいただいています。今回、直木賞で佐藤正午さんを知った方々に、ぜひ既刊を読んでほしいと思って特集を企画したこともあり、作家・書評家の方々の流麗かつ的確でユーモアあふれる書評の数々に心から歓喜しました。

 佐藤さんの旧友にして『ジャンプ』の映画監督である竹下昌男さんのインタビューでは、お二人の実に濃い交遊録をうかがえて佐藤さんの意外な一面を知りました。共同脚本での佐藤作品の映像化、ぜひ実現していただきたいです。監督の最新作『ミッドナイト・バス』を拝見して、切に願いました。

 装丁家の桂川潤さん、ライターの東根ユミさんも長く佐藤正午さんに関わっている方です。『月の満ち欠け』の装丁にも生まれ変わりがあったなんて、ここにも装丁の神様の思し召しがあったのだと嬉しくなったお話でした。「ロングインタビュー 小説の作り方」が小説誌(『qui la la きらら』)で始まったとき、実に不思議な企画だと思った記憶があるのですが、今回、『書くインタビュー』(文庫化時にタイトル変更)を拝読して、東根さんが果敢に質問を佐藤さんに投げ続けている姿勢にあらためて感服しました。本書は、佐藤作品に一歩どころか、二歩も三歩も深く踏み込める、ファンにとってはとてもありがたいサブテキスト(今回、佐藤さんにインタビューした我々は、これ以上なにを訊けばいいのかと頭を抱えてしまいましたが)、4巻の刊行も待ち遠しいです。

 佐藤正午さんのロングインタビューは、ただただ読んでいただきたいです。いろいろな方々の言葉で語られてきた佐藤さんが、実際どんな方なのか。どんな思いで作品を綴っていらっしゃるのか。――お会いするのは、実に十数年ぶりであったにもかかわらず、歓待して、いろいろお話しくださった佐藤さんには感謝の言葉しかありません。ありがとうございました。

※佐藤正午さんの最新小説は、『小説 野性時代』2017年12月号掲載の「ニッキ棒」です。山田風太郎賞歴代受賞者の競作企画として掲載されています。