やさしく見守るだけの天使が人々に起こす奇跡の物語
ヴィム・ヴェンダースの「ベルリン天使の詩」という映画以来、天使というのはただ人間を見つめているだけの存在という認識が広まった。トラブルに見舞われた人間に手をさしのべて助けてやることもせず、夢を見続ける人間にチャンスを与えて幸福にしてやることもなく、ただ黙って、ひたすらに、見守っているだけ、永遠に。 この物語に登場する天使も、やっぱり自分からはほとんどなにもしないのだが、それが切なさのようなものよりは、まどかなやさしさのようなものに見えてくるあたりが桜沢の才能だ。おそらく絵の力だろう。 コンビニで働くカトウ君の部屋には天使が住み着いている。天使にキスをされるとボワッとかいいながらカトウ君の背中にもしばしの間羽根が生える。ジンライムが天使のお気に入り。そして一言も喋らない。 どうもどこかに欠落したものを抱えてる人だけに天使は見えるらしく、死のうかと思ってる女子高生や母親にかまってもらえない幼稚園児とも天使は親しくなるのだが、やはりこれといったやりとりはなく、けれど誰にとってもささやかだけれどはっきりとした変化が訪れることになるのだ。…