山内マリコ氏が描くシスターフッド小説! 不満や愚痴をこぼしながらも、男性優位社会に抗う女性たちの雄姿に注目

文芸・カルチャー

更新日:2022/6/29

一心同体だった
一心同体だった』(山内マリコ/光文社)

 ここ10年ほど、「シスターフッド」をテーマにした小説や漫画、映画などが注目されている。友情や愛情といったカテゴリに限定されない、女性同士の連帯を描いた作品である。例えば映画なら、『スキャンダル』『ハスラーズ』『ブラック・ウィドウ』『お嬢さん』『ワンダーウーマン』などが思いつく。また、シスターフッドは#MeToo以降に顕在してきた概念のひとつで、男性優位社会とは一定の距離を取っている。山内マリコ氏の『一心同体だった』(光文社)もまた、その系譜に連なる小説だ。

 小学4年生の千紗は、親友の裕子よりも活発な美香に惹かれていく。その裕子は同じクラスだが話したことがない美人のめぐみと知り合う。女子高を卒業しためぐみは、3年間自分を写真に撮りつづけてくれた北島に手紙を書く。その北島は映画監督という夢は叶わなかったが、歩美という親友と繋がりを持つようになる。このようにリレー形式で話が進行するのが特徴だ。

 彼女たちは皆、女性であるが故の生き辛さを抱いている。作中でその根源として描かれるのは、女なんだから料理くらいしろと命令してくる父親だったり、母親を家政婦扱いする一家だったり、未婚というだけで行き遅れ扱いしてくる中年男性だったりする。大学の映画サークルで露骨に新入生女子をちやほやする先輩たちの話があるが、男性である筆者も、こうした光景を幾度となく見てきた気がする。

advertisement

 登場人物の年齢はかなり振れ幅があるが、その多くは、男性中心の社会で抑圧されてきた人ばかりである。恋愛至上主義的な価値観に支配され、女子同士で手をつないでたら好奇の目にさらされ、男子に冷やかされる。そんな世界を作中の女性たちは生きてきた。また、基本的に小説という体裁をとっている本書だが、最後の67頁はツイッターのような形式で、交際や結婚や子育てで疲弊する女性の怒気を帯びたつぶやきが連投される。

 いくつか引用すると、「結婚の決定権が自分にあることを知っている男は怖い。いまならそういう男は(その男が育った家庭も!)本質的にはとても家父長制的だってことを見抜けただろう」「もちろん義父母が年老いたら介護もするし、死んだら墓も掃除する。しかもぜんぶ無料で」「人間としてのプライドが高いと、媚びたり下手に出たりっていう、いわゆる女に求められる態度が自然にとれない。屈辱でしかない」といった具合だ。

 さらに、テレビドラマの『逃げるは恥だが役に立つ』についてのつぶやきが興味深い。具体的には、プロポーズされた家政婦のみくりが、結婚したらこれまで通りに家事をやっても給料が発生しないことに戸惑うシーンを取り挙げている。がめつい、という声もあっただろうが、筆者はみくりの言葉に大きく頷いた。女性にとっては“あるある”かもしれないが、男性にはぐうの音も出ない主張だったからだ。

 なお、著者も指摘しているように、女性同士の友情は男同士のものと比べて、需要がないと思われていた時代があった。女性作家には恋愛を書いてほしいし、そのほうが売れるという。だが、徐々にではあるが状況は変わりつつある。大ヒットした映画『マッドマックス 怒りのデスロード』では、コンサルタントとして女性の劇作家を登用し、女性たちを苦しめる巨悪の男性を打倒する、という図式を描いてみせた。

 また、先出のツイートで怒りをむき出しにしていた女性は、同じ境遇に置かれて苦しむ女性と知り合い、実際に会って愚痴をこぼしあう。ママ友らしき人もいなかったふたりは、子育ての悩みをぶちまけることで自分を取り戻す。夫や同僚や未婚の男性には打ち明けられないが、この人には話せる。時として家族よりも恋人よりもずっと濃密な関係を築ける、そんなシスターフッドの絆の強さを思い知らされる小説だ。

文=土佐有明

あわせて読みたい