生理現象から宇宙まで……話題の計算シミュレーター「物理エンジン」を使った検証実験にハマる人続々

暮らし

公開日:2022/7/11

理系じゃなくてもハマる面白さ! ゼロからわかる物理エンジン
『理系じゃなくてもハマる面白さ! ゼロからわかる物理エンジン』(こーじ/KADOKAWA)

 おならの話から宇宙の話題まで、物理エンジン動画クリエイター・こーじ氏の思考回路に入ると、どんなことでも物理的アプローチになってしまう。

「物理エンジン」とは、簡単にいうとコンピューター上で物理計算をして、様々なシミュレーションをやってくれるツールのようなもの。ロボット制御などの研究や、映画で建造物が破壊されて倒れていくような場面、アクション系のゲーム開発などに、物理エンジンは使われている。

 そんな物理エンジンで作った面白動画が話題のこーじ氏の書籍『理系じゃなくてもハマる面白さ! ゼロからわかる物理エンジン』(KADOKAWA)が誕生した。

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“物理だから”と苦手な人もひるまずに!

 本書の章立ては、「どうなると思う?」「できるか、できないか?」「結果の数値は?」「どれが正解?」「なぜか、わかる?」の5つ。最初のテーマは、「鉄棒で大車輪からジャンプすれば めっちゃ飛べるんじゃね?」と題して、飛距離を計測している。

1ネタ3~5ページ完結型という動画のようなコンパクトさで読みやすい!
1ネタ3~5ページ完結型という動画のようなコンパクトさで読みやすい!

 まず、基準を決める作業からスタート。鉄棒の高さは公式で使われるものと同じ2m80cmに設定。次に、モデルとして登場する“棒人形(こーじ氏曰く「表情のない棒人形を使うことで、見た人の想像力でいろんな表情になるのと、シュールで面白いと思ったから」という利用でこーじ氏のYouTubeチャンネルのメインキャラクターに起用)”が大車輪のできる動作設定をした上で、「最も速度が速くなる最下点で回転半径を短くすることで角速度を上げ、勢いがなくなって来たところで回転半径を元に戻す。これを繰り返すことでどんどん加速」させて、後は鉄棒から手を離すタイミングを合わせるだけ…。

 ネタによっては、“物理的思考”が要求されるものもあるが、基本的には楽しく、笑いながら、リラックスして読み進められるネタが多いので、ご安心を。

知的好奇心を刺激する仕掛けの連続!

本物と同じようなスキー場をUnity上に設計
本物と同じようなスキー場をUnity上に設計

「重力の違う惑星でスキージャンプをすると 飛距離はどうなるのか?」の項では重力加速度を基に算出していき、それを地球、月、太陽とさまざまな惑星でジャンプさせる。また、続く章の「できるか、できないか?」では「重心をずらしたイカサマサイコロはイカサマできるのか?」というちょっとしたトリック小説でも使えそうなネタなど、変化球ながらも、思わず知的好奇心をくすぐられてしまう。

サイコロ1つずつではなく同時に振って一瞬で答えを出せるのはコンピューターでの実験ならでは
サイコロ1つずつではなく同時に振って一瞬で答えを出せるのはコンピューターでの実験ならでは

 ちなみに、冒頭に書いた「おなら」も「できるか、できないか?」の章で登場。「摩擦がなかったらおならで前進できるのか?」というお題に対し、シュールな動画を用いてどれほどのおならでどのくらいの距離が移動できるのかを、まじめに算出している。

何ともいえないキャラクターの体勢に思わず笑ってしまう
何ともいえないキャラクターの体勢に思わず笑ってしまう

実験から導かれる検証…そのギャップがすごい

 CHAPTER3は、物理ならではの“数値”を追求した実験を敢行。「太陽1周分トイレットペーパーを巻いたときの個数がすごい」では、トイレットペーパーの直径、巻いた長さを導き出す。ここでは、太陽系の惑星のそれぞれの大きさも学習できてしまう。こんなにまじめに計算式を立てているのに、「結論。」は「日本人はお尻を拭くのが大好き。」というこーじ氏流のオチが付く。

まじめな実験でもトイレットペーパーを例にするという“脱力感”で難しさも払拭される!?
まじめな実験でもトイレットペーパーを例にするという“脱力感”で難しさも払拭される!?

物理好きにももちろん読み応え十分

時には思ってもない数値が導き出され、驚きも
時には思ってもない数値が導き出され、驚きも

 そして、CHAPTER4の「球を45度で投げたら本当に飛距離が最大になるのか試した結果【空気抵抗なし】」では、「計算を視覚化すると楽しい。」という言葉通り、見事な数式にたどり着く。これもまた、“数式好き”には萌えポイントかもしれない。

お酒の席が盛り上がりそうな雑学知識も
お酒の席が盛り上がりそうな雑学知識も

 ラストのCHAPTER5では、「光の速度の測り方が頭いい」や「台風が必ず反時計回りになる理由を物理で説明する」などお酒の席のネタにも活躍しそうなタイトルが並んでいる。

読んでも楽しいこーじ氏の検証実験は工夫がてんこ盛り

 人気YouTuberのこーじ氏が「やりたいことの1つだった」という書籍では、映像を見た人でも満足できるよう、映像とは違う文字で伝わりやすい言葉を選択したり、言い回しを変えたり、画像にもひと言コメントがつぶやかれていたりと工夫を施している。

 また、「こーじ流 物理エンジン動画のつくりかた」「物理エンジンができないこと、苦手なこと」などのコラムや、動画作りを始めたきっかけ、キャラクターのヘアスタイルがアフロになった理由などに答える「こーじにまつわる一問一答」、各動画について振り返る「こーじの独り言」など、“こーじワールド”全開の言葉を読んでいるだけでも楽しくなってしまう。

 知的好奇心を大いに刺激する物理エンジンの魅力が存分に味わえる1冊だ。

文=繁田謙

【著者プロフィール】
こーじ
Unityの物理エンジンを使ったYouTubeチャンネルが大評判の動画クリエイター。ゲームが大好きで、昆虫や爬虫類など生き物も好き。結果を知るだけでなく、さまざまなシミュレーションを視覚化して見ることができる物理エンジン動画は、学校の先生が授業で使うなど、学びや新しい発見につながるツールとしても好評。

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