職も家も妻も失った男の新しい仕事は下宿の管理人!? 一つ屋根の下で巻き起こる大人のラブコメ『ハマる男に蹴りたい女』

マンガ

公開日:2022/7/22

ハマる男に蹴りたい女
ハマる男に蹴りたい女』(天沢アキ/講談社)

 ザ・昭和な“下宿”を舞台にした大人の恋物語が『ハマる男に蹴りたい女』(天沢アキ/講談社)である。えてして恋というものはめんどうくさいもの。ただ本作で描かれる、すべてを失った元エリート男と、プライベートはだらしないバリキャリ女の恋は予想を超えてくるので、ラブコメ好きならぜひ手に取ってほしい作品だ。

 ストーリーは、大手飲料メーカーのエリート社員として順風満帆だった設楽紘一(したら こういち)が、1日で何もかも失ったところから始まる。

下宿の管理人になった元エリートを待っていたのは…

 紘一は会社の商品企画部のエリート社員。真面目でイケメン、料理上手で美人の妻もいる。自他ともに認める完璧な人生……だったのだが、会社内での立ち回りをミスり、事実上のリストラに。そして帰宅すると家はもぬけの殻で、離婚届が置いてあった。

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 一夜にして完璧人生から転落した紘一は、再就職先が決まるまで、銀星荘という下宿の管理人をすることになった。銀星荘はまさに昭和の下宿で、リビングやお風呂は共有となっており、管理人が掃除して、食事を用意するスタイルだ。

 そこで紘一が出会ったのが、住人のひとり・西島いつか。彼女は30歳目前にして人生を仕事に全振りしていた。会社へは徒歩圏内だし、レトロで落ち着く銀星荘の暮らしを気に入っていた。ただ紘一とは最初、微妙な距離だった。

 下宿でのいつかはビールの空き缶を転がし、共同リビングでもどこででも寝落ちする。ゴミをためこみ、部屋着は適当で人の目を気にしない。完璧を目指す紘一からすると、いらつく対象でしかない。彼の口の悪さもあり、敵対するわけではないが距離は縮まらないように見えた。しかしその理由は、紘一が知らない(というか忘れている)いつかとの因縁にも起因していた。

 そのうちに、器用で何にでもやりすぎなくらい完璧を期す性格の紘一は、管理人業をしっかりこなせるようになっていく。そんな日常の描写は、下宿が普通だった時代を覚えている方なら懐かしさを感じ、ほっこりするだろう。つなぎの仕事のつもりだった管理人業が板についてきた紘一のゆるやかな日常に、ある日事件が起こる。泥酔して帰ってきたいつかが、紘一にこう言うのだ。

押し倒したくなるのは管理人さんだけなんです
なんでだろ

 紘一はいつも自分につっけんどんな態度をとるいつかが、自分に欲情しているという事実に混乱する。

 大人の恋はこうして始まり、ハイテンポで一気に進む……ように思えた。

大人だから面倒くさい? ふたりの関係の行方は

 紘一が下宿の管理人になる以前、いつかは彼と出会っていた。その時から印象が最悪だったのだが、再会した彼女の中に不思議な感情が芽生えていた。

殴りたい
引っぱたきたい
背中たたきたい
…押し倒したい

 ありていに言うと、劣情をもよおしていたのだ。会社の同僚には欲求不満では、と言われてしまっていた。紘一の無防備な体を目にすると、いつかは自分の奥から熱がせりあがって来るのを感じてしまうのだ。でもこれは恋愛感情なのか? 自分が分からない彼女は前述の通り、酔って“最初の”行動を起こしてしまう……。

 相手が酔っていたとはいえ、明確な行動に出られると紘一も意識しないわけにはいかない。そんなモヤモヤを抱えたままということもあり、転職面接で思うような結果を得られないでいた。そんな時、彼の真面目な管理人業務の仕事ぶりを見たいつかは「住人をちゃんと見てる、すごい、ありがとうございます」と肯定する。すべてを失っている彼に必要だったのは、こんなささいな誉め言葉だったのだ。

 少しだけチョロい元エリート男と、だらしないバリキャリ女の仲は、一つ屋根の下で進展するのかしないのか、今はまだ見えてこない。なお、現在発売中の2巻ラストで「ええーっ! 続き……早く読みたい」となるのは間違いない。

文=古林恭

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