自己肯定感低め女子がかわいすぎ!複雑でめんどくさい恋愛のリアルを描く『おんなのこのひみつ 餡ねここ作品集』

恋愛・結婚

公開日:2022/8/20

『おんなのこのひみつ 餡ねここ作品集』(餡ねここ/KADOKAWA)

 すっぴんを彼氏に見られたい女子というのは稀だろう。ありのままの自分を見られたら、恋心などたやすく冷めてしまうのではないか。ドン引きされるのではあるまいか。自分のかわいさを多少盛る魔法を得た女子は、その魔法が解ける恐怖も同時に得ることになる。

『おんなのこののひみつ 餡ねここ作品集』(餡ねここ/KADOKAWA)は、そんな女子のしんどいリアルが巧みに描かれた連作オムニバス。4人のヒロインの恋愛ストーリーが、かわいらしく、ときに残酷なまでのリアリティをもって描かれる。

 第1章「すっぴんはひみつ」のヒロインは、すっぴんを見られたくないあまり、お泊まりを完全拒否してはフラれてしまう女の子。失恋したある日の夜、気のおけない男友だち相手にヤケ酒をあおっていた彼女は、うっかり酔いつぶれてしまう。朝になって目が覚めたら、なぜかすっぴん(無意識にメイクを落として寝た模様)。しかしその男友だちは、彼女のすっぴん顔がドタイプで――。その日を境に、本当の自分を愛せない女と、本当の彼女が好きな男の、じれったい追いかけっこがスタートしてしまう。

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 第2章「元カノのひみつ」は、破局した恋人を忘れるためにイメチェンして上京した女子が、同じく大学デビューした元カレに遭遇してしまい――という物語。正直なところ、まだ好き。でもそんな気持ちを相手に絶対知られたくないし、また同じように傷つくのも怖い……。強がりと執着で揺れる乙女心がリアルである。

 第3章「ひきこもり女子のひみつ」は、ひとりで家に引きこもっている女子のもとに、幼馴染の男子が毎日足しげく通っているという物語。外に出ようと誘う男子を、ときに鬱陶しそうに、のらりくらりとかわしている彼女は実は、彼がやって来るのを毎日切実に待っている。「きみは優しいから迎えに来てくれる 私がひとりぼっちでいるかぎり」

 最終章「みーみちゃんのひみつ」のヒロインは、ガールズバーで働く女の子。可憐な見た目とうらはらに漢気あふれる性格の彼女は、しつこくナンパしてくる男にすごんだり、マナー違反する男をどやしつけるなど、痛快な一面を持っている。しかし職場においては、そんな一面は完全封印。きゅるんとした接客で愛されているのだが、彼女にガチ恋している男性客に、ひょんなことから素の姿を知られてしまい――。

 いずれのヒロインも、どこか自分に自信がなく、恋心と自意識がちぐはぐで、常に揺れている。しかしその不安定さこそが、彼女たちを魅力的に見せてもいるのかもしれない。本書の1ページ目に、「おんなのこには、みんな、ひみつがあるの」とある。「ひみつ」が暴かれ、丸裸の自分を他者に晒した彼女たちは、いったいどうなってしまうのか――。

 恋愛すると、めんどくさいアレコレと向き合わざるを得なくなる。よくわからない相手の気持ち、好きになれない自分自身。自己肯定感低めヒロインたちの恋愛は、同時に自己受容のための戦いでもある。その戦いの末に彼女たちが辿り着く結末は――きっと私たちの心のどこかにも存在する「ひみつ」を、明るいほうへと導いてくれるはずだ。

文:タヌタヌ