母の再婚相手が連れてきた息子はモンスター中学生! 凸凹義姉弟の危うい関係に目が離せない! ミユキ蜜蜂最新作『春の嵐とモンスター』

マンガ

公開日:2022/12/21

春の嵐とモンスター
春の嵐とモンスター』(ミユキ蜜蜂/白泉社)

 親同士の再婚でイケメンの兄弟ができて波乱の同居生活が始まる、というのは少女マンガの王道。古今描き尽くされてきたからこそ、その設定をいかに調理するか作者の腕が常以上に問われるわけだが、『なまいきざかり。』のミユキ蜜蜂氏の最新作『春の嵐とモンスター』(白泉社)は、キャラクター設定もときめきと切なさ満載の展開もさすがとしか言いようがなく、読めば読むほど期待が煽られる作品である。

「それは春にやってきた」と詩的な一文から始まる本作。主人公は高校1年生の春野嵐子(らんこ)。「君子危うきに近寄らず」「触らぬ神に祟りなし」が座右の銘。派閥をつくって無益に争いマウントをとりあい、傷つけ合わずにはいられない人間の姿に絶望していて、できる限り家から出ない&友達はペットのブタ(孫助さん)のみという、筋金入りのぼっち女子だ。

 嵐子いわく“人間大好き陽キャおばけ”の母が再婚を決め、同居することになったのが人の好きそうな義父とはこれまた正反対に殺気と色気がほとばしる中学生の栢(かや)。出会いの寸前に彼が返り血を浴びながら暴力をふるっている姿を目撃していた嵐子は、当然ながらできる限りの接触を断とうとするのだけれど。

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 実は義父の遠縁にあたる栢は、親戚中をたらいまわしにされ、誰からも愛されることなく生きてきた。同じ人間不信でも、嵐子のそれとはわけがちがう。嵐子がぼっちでいられるのは、愛してくれる母親のいる家庭という安全地帯があるからで、ゆえに他者との関わりに臆病になっているだけ。けれど栢は、痛みや哀しみ、淋しいといった感情を自覚することもできず、暴力と性愛でしか他者と関わるすべを知らずにいるのだ。

 その孤独に触れた嵐子が、勇気をふりしぼって栢に手を差し伸べる姿がいとおしく、そんな嵐子に触れて芽生える新たな感情に戸惑いながら行動のコマンドが「迫る」一択の栢にもキュンとしてしまう。

 とはいえ、今の栢は、ひな鳥が最初に見たものを親鳥と思い込むようなもので、その関係に絆を見出すのはちょっとあやうい。嵐子も同様で、距離感のバグっている栢の一挙一動に緊張するのはあたりまえで、彼に対する感情も一歩間違えれば「同情するな」と拒絶されてしまうもの。……とはいえ、互いにとってはじめての、“特別な他人”である。間違えたり、すれちがったりをくりかえしながら、相手のために臆病心を捨てて、心の距離を縮めていく過程を見守るのが、少女マンガの醍醐味。今後、おそらく栢の本当の両親についても描かれていくのだろうし、もしかしたら嵐子がぼっち女子になった経緯も描かれていくかも。恋愛以外の部分でも、目の離せない作品だ。

 1巻では、そうそうに、とある一線を越えてしまった2人。姉弟とも友達とも恋人ともちがうあやうい2人の織りなす、ジェットコースターみたいなときめきを体感してほしい。

文=立花もも

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