「剣道」と「敗北」を教えてくれた“彼”と運命的な再会も!? 剣道に懸ける姿がまぶしい“スポ根”少女マンガ『あかのたち』

マンガ

公開日:2022/12/14

あかのたち
あかのたち』(海道ちとせ/白泉社)

 負けっぱなしもつらいけど、一人で勝ち続けるしかないのも、つらい。サスペンスの香りただよう純愛マンガ『恋と心臓』(白泉社)著者の海道ちとせ氏。最新作『あかのたち』(白泉社)はド直球のスポ根マンガである。

 小学生のとき、男子にいじめられては泣いてばかりだった朱音の前に、颯爽とあらわれ助けてくれた同級生の瀧。その強さに憧れて剣道をはじめた朱音の目的は、もちろん、負けないこと。ただし、男子に、ではない。勉強も運動も何もかもふつうで、男の子にもいじめられるくらい弱くてダメな自分を知っているからこそ、せめて自分自身には負けたくない。どんなときもうつむかず、自分らしく生きていきたいと、まっすぐ前を向き続ける朱音の存在は、いつしか瀧にとっても小さな希望となっていた。

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あかのたち p.18

あかのたち p.19

あかのたち p.20

あかのたち p.21

 というのもこの瀧という少年、ふだんは試合に出ないため朱音が知る由もなかったのだが、尋常じゃない強さを備えた剣道の天才だったのである。年上相手にさえ圧倒的な強さを見せつける彼は、いつも孤独だった。何があってもくじけない朱音が努力を重ねる日々は、いつか自分と同じ場所に立ってくれるかもしれないと希望を抱かせるものだったのだ。

あかのたち p.24

あかのたち p.25

 だが小学校最後の試合で、瀧と本気で竹刀をまじえた朱音は思い知る。圧倒的な力の差を。どうあがいてもひっくり返せない敗北を。それを最後に瀧は福岡へ、朱音は剣道を断ったまま高校生となる。

あかのたち p.34

あかのたち p.35

あかのたち p.42

あかのたち p.43

〈努力した日々が多いほど かけた情熱が重いほど こみあげる悔しさがあたしを押しつぶす〉。そんな朱音のモノローグが、痛い。最強の自分になる、という高らかな目標が達成されることはないと思い知っても頑張り続けることは、彼女にはできなかった。それをいったい、誰が責められるだろう? 日々のすべてを懸けて努力しても報われるとは限らないのに、他の可能性をすべて捨てて、たった一つの夢に懸けるなんてことは、並大抵の覚悟ではできない。それに、自分の弱さから逃げ続ける日々に、いちばん苦しんでいるのはほかでもない朱音なのだ。

あかのたち p.58

あかのたち p.59

 そんな彼女を救い出してくれるのが、イケメン9頭身の同級生・周一だ。何をやってもたいていのことは人並み以上にこなせるけれど、器用であるがゆえに、限界が見えればすぐに見切りをつけてやめてしまう彼は、努力のできなさをコンプレックスとして抱いていた。そんな彼にとって、勝てるはずのない瀧との試合にもおそれず向き合った朱音の姿は、限界の先を照らす光そのものだったのだ。そんな彼の誘いをきっかけにふたたび朱音は竹刀を手にするのだが……。

 やがて周一と瀧、朱音の三角関係に発展するのは間違いないだろうが、それはさておき、迷いながらも前進しようとする彼らの姿が、周一もふくめて、まばゆくてしかたがない。頑張る、というのは、そもそも才能で、誰でも貫き通せるものではない。けれどそれでも、自分自身を好きになるために、最高の自分になるために、自分もなすべきことを努力したい。あの光のなかに入りたい。大人の読者にもそう思わせてくれる強さが、本作には満ち満ちているのだ。

文=立花もも

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