看板猫「おジャコちゃん」の秘密も明かされる! 優しく“気張る”ことを教えてくれる、大人気シリーズ最新刊

文芸・カルチャー

公開日:2023/1/11

京都祇園もも吉庵のあまから帖6
京都祇園もも吉庵のあまから帖』(志賀内泰弘/PHP研究所)

 そこに悪意がなくても、誰かを心の底から思いやっていたとしても、物事がうまくまわるとは限らない。むしろすべてが裏目に出て、コツコツと積み重ねてきたものが一瞬でひっくりかえされてしまう。そんな理不尽が、ある日突然襲いかかってくるのが、人生だ。そんなとき人はどうやって明日への希望を見出し、生きていけばいいのかを、甘味処の女将・もも吉の言葉を通じて教えてくれるのが「京都祇園もも吉庵のあまから帖」シリーズ(志賀内泰弘/PHP研究所)だ。

 15歳から祇園で修業を積み、20歳で芸妓となったもも吉は、No.1として名を馳せていた娘の美都子がタクシー運転手に転身したのをきっかけに、営んでいたお茶屋をたたんで、甘味処「もも吉庵」を開いた。齢70を過ぎても決して背筋を曲げない彼女の生きざまは、人生に迷う人たちの心にいつも明るい灯をともす。

 たとえば最新6巻で、自分のせいで濡れ衣を着せられてしまった幼なじみを救いたい女子高生に、彼女はこんなことを言う。〈人いうんわなぁ、生きているかぎり知らず知らずに人を傷つけてしまうもんなんや。そういう時は、まっすぐ誠意を尽くしたらええんや〉〈まっすぐ生きなはれ〉。無責任に「大丈夫だよ」「誤解は解けるよ」なんて言わない。しでかしてしまったことは、受け止めるしかない。そのうえで自分がどうしたいのか、変えられない過去を背負って自分はどう生きていきたいのか、それを決めるのは自分なのだと、突きつけてくるのだ。

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 もも吉庵に迷いこんだ人たちは、もも吉に救われるのではない。もも吉の言葉をきっかけに自分の心を見つめ直し、自分の胸の内にひそんでいた良心や勇気のかけらを取り戻す。どんなに優しい誰かが手を差し伸べてくれたとしても、自分の道を切り開くのは自分しかないのだということも、このシリーズは教えてくれる。

 自分を納得させるためだけにがむしゃらに“頑張る”のではなく、まわりを思いやって“気張る”ことこそが大事なのだとくりかえし描いてきた本作。6巻では「切磋琢磨」という言葉の意味も語られる。ただ競い合うのではなく、励まし合ってともに向上すること。目先の利益を追い求め、誰かに勝つことばかりを目的としていては、窮地に立たされたときに誰も助けてはくれない。誰にでも等しく、まさか、という理不尽がふりかかってくるのが人生だからこそ、欲をおいて誰かのために尽くそうとする心掛けが必要なのだということが、エピソードを重ねるごとに、しみじみ沁みる。

 もも吉庵の看板猫だが、飼い猫というわけではない「おジャコちゃん」の秘密が明かされるのも、6巻の読みどころのひとつ。これまた「何も悪いことをしていないのにどうして……!」という理不尽の重なるなか、人として大切なものを決して見失わない人たちの姿が描かれ、胸を衝く。そして、家族を失い、声を失い、シリーズを通じて理不尽と戦ってきた芸妓の奈々江にも新たな展開が……。

 真摯に生きる彼女たちの姿に触れて、自分も優しく気張れる人であろうと背筋を正すことで、1年のはじまりがちょっぴりいいものになるかもしれない。

文=立花もも

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