宇宙ゴミ問題を描いた『プラネテス』。4巻完結で宇宙好きの心をつかみ続ける名作SFマンガの魅力

マンガ

更新日:2023/3/31

プラネテス
プラネテス(1) (モーニング KC)』(幸村誠/講談社)

 学生時代、宇宙にハマった。分厚い宇宙図鑑、宇宙論や量子論の入門書、小説では宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』、映画では「アポロ13」「スターシップ・トゥルーパーズ」「2001年宇宙の旅」など、宇宙関連の創作物に手当たり次第ふれた。

 その中に、漫画『プラネテス』(幸村誠/講談社)があった。『プラネテス』が自分の中で“イケていた”のは、現実味だった。スペースデブリ(宇宙ゴミ)という、宇宙開拓の上で人類が避けて通れないだろう社会問題を、スペースデブリ屋という市井の人々に身近な清掃作業員視点で取り上げたのが斬新で、宇宙好きとしての琴線に触れた。

 さて、私が宇宙かぶれしていた時代に読んでから干支が2周し、『プラネテス』について覚えていることといえば、スペースデブリを取り上げていた、絵がきれいだった、なんか哲学チックだった、シリアスで暗いシーンが印象深かった、4巻で完結した、くらいのもの。思えば浅く読んでいたものだ。創作物は人生経験を経ると解釈が変わる。学生時から倍ほどの年齢になった今、『プラネテス』を再読した。

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 全編を通読してまず思ったことは、“熱い”ということだ。宇宙は冷たい。生命はおらず、平均気温はマイナス270度と文字通り冷たい、死と隣り合わせの空間だ。しかしながら、本書は、いずれの登場人物も思いが熱く、人物同士のぶつかり合いも熱く、人物の内面で起こる葛藤のつば競り合いも熱い。宇宙空間の冷たさと対比して、人から生まれるエネルギーの熱量の高さが浮き彫りにされているのかもしれない。

 また、スペースデブリは物語が進む上でのからくりの一つでしかなく、本書が語りたいのはおそらく別のところにあるのだと気付かされた。

 それは「帰る場所」。

 本書は宇宙を海に、宇宙飛行士や宇宙作業員を船乗りにたとえている。海を泳ぐとき、帰るべき陸があるから泳ぎきれる。仕事は帰るべき家や人がいるから、やり抜くことができる。本書の大きなトピックは、夢を叶えようとする主人公とその成長にある。宇宙船を持つ、木星へ行く。若く精神的に未熟な主人公は、夢を叶えるために、その他一切のものを排除するのが正しいと自分に言い聞かせる。恋だの愛だのは「根性無し」「能無し」「卑怯者」が唱える便利な言葉でしかなく、愛する人や友人は自分を束縛するカセである。無理をしている自覚のない主人公は、ある事件で修羅の道に足を踏み入れようとするが、最終局面で愛に救われ、帰る場所を得て、夢を叶えることとなる。

 学生時代に本書を読んで感じた「シリアスで暗いシーン」は、主人公の葛藤と成長の過程にある、最大熱量のシーンだった。また、わずか4巻で完結できたのは、無駄を最大まで排除し、セリフや心情を数多くの行間で読ませ、テーマを絞りに絞ったからだと解釈できた。読み手によって、本書の面白さは変わる。

 現実世界で、人類の宇宙進出が望まれている。予習として本書を初読しても良いだろうし、純粋に熱い成長物語を読みたい人にもお勧めしたい。

文=ルートつつみ (@root223

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