義賊として盗みを働く少女が、憎むべき帝国海軍の青年とタッグを組み――壮大なスケールで描かれる海洋冒険ロマン

マンガ

公開日:2023/4/12

紺碧のレコンキスタ
紺碧のレコンキスタ』(恩多志弦/白泉社)

 これまで数々の名作ファンタジーをおくりだしてきた白泉社から、新たな注目作が出航した。このたび第1巻が発売された恩多志弦氏の『紺碧のレコンキスタ』(白泉社)は、大海原を舞台に海賊と海軍の争いを描く王道ファンタジーである。

 帝国アーサレットの植民地で暮らす少女カミラは、義賊アルバトロス団の一員として貧民たちを助けている。高い税率で私腹を肥やし、貧民を攫っては奴隷として売り飛ばす――そんな腐敗した帝国海軍に苦しめられる人々を、少しでも減らすため。そして、カミラを奴隷船から逃がしてくれた兄に報いるためでもあった。

 自らの正義を貫きながら盗みを重ねるカミラの前に、帝国海軍の提督ディランが現れる。腐敗した海軍を立て直し、軍の上層部と癒着する海賊の討伐を企むディランは、手を組もうとカミラに迫る。宿敵の海軍なうえに、自分を利用しようとするディランを当初は拒絶するカミラ。しかし彼の真摯な思いに心を動かされ、得意の変装術をいかして計画に協力しようとするが……。

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紺碧のレコンキスタ p.14-15

 海軍と海賊の戦いを主軸にしたドラマティックなストーリーと、共闘からはじまったカミラとディランの少しずつ進展する甘酸っぱいロマンス。心が躍る海洋冒険ロマンのなかでもとりわけ印象的なのが、強く自由に生きる主人公カミラのキャラクターだ。悪徳貴族の屋敷に忍び込んで財産を盗むなど、義賊としての仕事ぶりは鮮やかで、ディランの右腕となった以降も要所要所で活躍をみせる。危機的な場面でディランに助けられても、「守られるだけの存在にはなりたくないの」と宣言し、自分も頼られたいし大切な人を守りたいとたくましく歩み続けるカミラの姿には、応援の声をおくりたくなる。

紺碧のレコンキスタ p.56-57

 当初は胡散くさい提督として登場し、強引な行動でカミラを振り回すディランだが、物語が進むにつれてさまざまな一面をみせ、どんどんと魅力が増していく。悪徳上司の部下を演じるしたたかさや、海軍の腐敗を憎む正義心。そして大切な人の命を奪った海賊に憎しみを向けつつも、復讐をするのではなく法の下で裁こうとする公平さ。カミラに囁く甘い台詞や絶妙なスキンシップもときめきポイントで、2人の関係の変化も『紺碧のレコンキスタ』の読みどころだ。

紺碧のレコンキスタ p.125

 カミラとディランはそれぞれ大切な人との別離を経験しており、2人が抱える過去の傷跡は思いがけないかたちで交差することになる。隠れて盗みをはたらく以外に不平等な世界へ抗うすべを持たなかったカミラは、陽の光の下で正義のために戦う立場を用意してくれたディランに「あたしを引き上げてくれてありがとう」と告げる。ディランもまた、「私を置いてどこかへ行くな」と思いを伝えるが、それでもカミラには彼の側にはいられない事情があり…?

 カミラとディランの冒険はまだはじまったばかり。2人を乗せた船がどこへ向かうのか、次巻の発売が今から待ち遠しい。

文=嵯峨景子

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