フツーじゃないキャラたちの日常&ときどきラブコメ! 濃厚でカオスな学園コミック『生徒会にも穴はある!』

マンガ

更新日:2023/9/8

生徒会にも穴はある!
生徒会にも穴はある!』(むちまろ/講談社)

 ボクシング、サッカー、ファンタジー、バトルといったアツい少年マンガが揃う『週刊少年マガジン』(講談社)で今注目したい作品が、少々変わった“日常もの”の『生徒会にも穴はある!』(むちまろ/講談社)である。

 本作はフツーではない登場人物たちのフツーの学校生活をテンション高めに描いた学園コメディだ。戦闘アクションも異世界要素もなく、H要素も少なめ(微かにはある)で、言ってしまうと派手さはない作品だ。しかし単行本は3巻までで累計発行部数30万部を突破している(2023年5月時点)。またメインキャラクターのひとり・陸奥こまろ(みちのくこまろ)が『週刊少年マガジン』連載作の「ラブコメヒロイン総選挙」でトップ7入り。さらに「次にくるマンガ大賞2023」にもノミネートされるなど、快進撃を続けているのだ。

 内容も人気も、どこまで行くのか先が見えない本作の魅力を紹介していく。

advertisement

転がり続けるフツーじゃない生徒会の日常

 藤成学園高等部1年生の水之江梅(みずのえうめ)は国語の試験で常に満点を取り、文学賞を受賞するいわゆる文学青年である。ただ極端に理系教科の点数が悪く、留年の危機に瀕していた。そこでズボラな女教師・平塚敏深(ひらつかさとみ)に、内申点を上げて進級するため生徒会へ入るように言われる。背に腹は代えられない梅が渋々生徒会へ向かうと、そこは変わった人間しかいないカオスな場だった。

 中等部から生徒会に入り浸って広報を担当している美少年・尾鳥たんは、天才的な頭脳をもつ生意気で自分大好きなウザキャラだ。

 2年生の会計・照井有栖(てるいありす)は、優しく、おとなしそうな美人だが圧倒的な判断力と行動力が恐ろしい。生徒会、いや藤成学園最強かもしれない。

 3年生の生徒会長・古都吹寿子(ことぶきひさこ)は勉強もスポーツも万能で性格もスタイルもいい、いわゆるカリスマだ。だが実はめちゃめちゃ異性に興味津々で、ことあるごとに悶々としているムッツリ少女である。

 そしてケガをしてしばらく学校に来ていなかった1年生の庶務・陸奥こまろ。彼女は小動物系で愛らしい。ただ、ほっておくとなぜかケガをしたりトラブルに巻き込まれたり、あまつさえ事故に遭ってしまうため目が離せない、まさに保護対象動物なのだ。

 ここまで書いた通り、個性的すぎる生徒会のメンバーたちが本作の最大の魅力だ。彼らがポンポン掛け合っているだけで笑ってしまう。また物語は“ライクアローリングストーン”。コロコロと転がっていきどこに向かうのか分からない。その不確定さも読者を惹きつける。

ラブコメマンガの穴を突け!複雑で濃厚なショートマンガ

 本作はページ数少なめのショート作品で、ほぼ一話完結。ラジカルな登場人物たちが巻き起こすドタバタ劇は、ただただ頭を空っぽにして楽しんでもいい。しかし、読み続けていると、そう単純な構造ではないと気づかされる。

 ギャグ多めのコメディ回の次に、こまろの学校以外の日常や、たんの孤独や性格を表すシリアスなエピソードがいきなり入ってくるのだ。こうした背景が描かれることで、登場人物の生々しさや奥行きが増してくる。

 そして本作の要素で大きいのはラブコメ要素だ。読んでいてニヨニヨしてしまうエピソードもまた、突然描かれるので油断できない。生徒会の中では、梅を中心にしたラブコメの構図がみてとれる。先輩後輩という立場以上にめちゃめちゃかまってくる有栖、猫のようにくっついて膝に乗ってくるこまろ、そして寿子だ。

 バリバリの思春期女子である寿子は、たんのような“ガキンチョ”ではない普通の男子高校生・梅に“男”を意識させられ、ことあるごとにドキドキもんもんしてしまう。そして梅もまんざらではない。

 生徒会はなんだかいい雰囲気で、読者は「おいおいハーレムかよ、もう誰かと付き合え」と盛り上がる。しかしそこに、梅を狙う軽音部のイキりまくる先輩女子・こうき、中等部の純情すぎるヤンキーガール・虎丸が登場。恋のマジバトルのゴングが鳴るのである。ふたりとも、もちろん他に負けじと変わり者だ。彼女たちと生徒会が絡み、化学反応が起こり、恋模様はさらにカオスな状況に……。

 物語を転がしまくるキャラクターたちに笑わされ、彼らのシリアスなバックグラウンドにぐっと来て、ラブコメシチュエーションにニヨニヨさせられる。本作はこれだけの要素を放り込んでぐつぐつ煮込んだ料理である。ショートマンガであるぶん、煮詰まって濃くなっているのかもしれない。濃厚で複雑な味わい。甘いのか、辛いのか、旨みたっぷりなのか、酸っぱいのか、その味わいのどれかがあなたの心を突くかもしれない。ぜひ体感してほしい。

文=古林恭

あわせて読みたい