「おかわりする子より給食費を安く」「先生を変えて」理不尽な保護者の要求に立ち向かうPTAを描くコミックを、PTA経験者が読んでみた!

マンガ

公開日:2023/7/25

やめちまえ! PTAって言ってたら会長になった件
やめちまえ! PTAって言ってたら会長になった件 (ワイドKC)』(斎藤かよこ/講談社)

 この記事を読もうと選んでくださった読者は、もしかしたら“PTA=理不尽なもの”というイメージをもっているかもしれない。

 私は小学校、いわゆる単位PTAの会長、翌年に区PTA協議会の広報委員長、さらに翌年には同会長を任され、市PTA協議会の理事会に出席したり、日本PTA全国協議会の研修に参加したりした。PTA役員になる前の私も“PTA=理不尽なもの”というイメージを少なからずもっており、改革できるものならしていきたい、と願っていた人間であった。しかし、ミイラ取りがミイラになったわけではないが、今ではPTAという存在の良い面も悪い面もある程度はフラットに見ることができるようになったと思っている。

 そんな、いちPTA役員経験者が、『やめちまえ! PTAって言ってたら会長になった件 (ワイドKC)』(斎藤かよこ/講談社)というセンセーショナルなタイトルのコミックをフラットに一読して、感じたことをお伝えしたい。

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 本書はPTA役員とは無縁の、いち保護者であり子煩悩な母親が、役員決めの場で断りきれず広報委員になり、2年目も断りきれず学年委員になって、3年目には改革を目指して会長となるストーリー。旧PTA組織が悪、主人公が善として描かれる、わかりやすい内容だ。ストーリーの中で、さまざまなキャラクターが、止む無く理不尽な言動をしていることが徐々に明らかとなり、主人公は多くの“仲間”を得て、発言力を増していく。

 PTAトピックでよく取り上げられるあるあるシーンが、本書にはたくさん登場する。例えば、役員と委員決めの場。本書では「なすり合い」というタイトルで、保護者たちが積極的に他者へ役員・委員のなすり付け合いをしている。そのなすり付け合いは醜く、ひどい口撃の応酬が繰り広げられる。これを読んだ、PTAの実際を知らない保護者の読者は、「絶対、この場に行きたくない」と恐怖するだろう。ところで、この場での本作の主人公は、目立たないようにと一切の沈黙を保っている。私が実際に知る範囲の複数校でも、役員・委員決めの場は、場を仕切る役員が誘導しないと一切発言が出ないような、お通夜のような場であったと見聞きしている。本作はPTAを内容もキャラクターもコミカルに描いている印象だ。実際は、ここまでのバトルが起きることは珍しいのではないだろうか。

 そして、主人公は2年目に学年委員になってしまうのだが、ここで取り上げたいシーンは、保護者が学年委員である主人公に、「なんでもかんでも(私物に)名前を書かせるようなことをするな」「うちの子は少食なので、おかわりする子より給食費を安くしろ」「うちの子は自転車が乗れないので、自転車を(一律)禁止しろ」など、さまざまな学校改善案を提示し、主人公に学校へ陳情するよう要求する一幕。主人公にとっては、それら改善案はすべて「いちゃもん」であり、辟易する。その反応を見た提案側の保護者は、「あなたは学校の味方!? 保護者の味方!?」と詰め寄る場面がある。私が会長をしているときも、保護者からいくつかの要望を受けることがあった。たいていは、学校や学校行事への要望。時には、「先生を変えてほしい」「辞めさせてほしい」といった声もあった。しかしながら、PTAは

Parent…保護者
Teacher…教師
Association…合同、共同、提携

 という文字にあるとおり、子どものための保護者と先生たちの学び合い、協力をする組織であり、敵対的な関係ではない。特に、学校の人事には口を挟めない。友好的に相互理解を図るため、相互に努力していく。これを保護者に伝えるのも、PTA役員の仕事となる。

 主人公は3年目に会長となり、さまざまな“これまで理不尽と感じていた取り組みやシステム”の改善に取り組んでいくのだが、これにも実は一利一害がある。もしあなたが、したくもないPTA役員や委員に無理やり決められたとして、「せっかくなったのだから、全力で楽しもう」と思えるなら、それは素敵なことだ。しかし、改革をするのは多大な時間と労力を必要とするため、これは私見だが、全国の多くの役員・委員が「例年どおり」で一年を過ごそうとする。ところが、本作では先述のとおり、主人公は自分のやりたいことを認め、協力してくれる多くの“仲間”を得ることができたため、会議はWEB会議に変更、役員をやればポイントがたまり卒業式に花道最前列に座れる権利を受けられることとする、などの策を掲げ、進めていく。

 PTA役員経験者としては、PTAがもちろん本書のように見えることもあれば、また違った見え方もあるかな、と感じた。しかし、PTAはそもそも、“子どもたち”のための組織であり、不条理が不条理のまま続いてよいわけではない。“子どもたち”が幸せになるためには、保護者も幸せになるべきであり、その保護者にはPTA役員・委員が含まれている。本書の主人公のように身を切って本質に切り込んでいける勇気と協力者を得られる保護者が増えれば、全国のPTAの価値が見直されていくものと信じたい。

文=ルートつつみ (@root223

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